文:湯浅立志/フォトグラファー http://homepage3.nifty.com/y2/ Flickr:http://www.flickr.com/photos/tatsphoto/ Facebook:http://www.facebook.com/tatsphoto Twitter:http://twitter.com/#!/tatsphoto ●35mmとは別世界への誘い 中判デジタルの解説を書くにあたり、中判デジタルって何? と言うところからはじめてみたいと思います。 ここをお読みの皆さんは、すでにデジタルカメラでの作品作りをしている方と想像しています。たぶん、そのほとんどの方が35ミリタイプ一眼レフボディのデジタルカメラではないでしょうか? その昔、と言ってもほんの10年ほど前ですが…写真と言えばまだまだフィルムだった時代ですが、その当時を思い出してください。写真を職業にしているプロカメラマンはもちろんのこと、趣味として写真を撮っているアマチュアカメラマンでも、撮影する被写体、または表現によって、それに合ったカメラをお使いだったはずです。 記念写真や飲み会、スナップ用にコンパクトカメラ、旅行や作品作りのためには35ミリの一眼レフ、そして、気合いの入った風景写真を撮ろうと思ったら、ハッセル、マミヤ、PENTAXなどの中判カメラを。それでは収まらないこだわりのフォトグラファーだと、4×5を担いでいったものです。 それでデジタルカメラになったとたん、ほとんどの写真はキヤノン5D Mark II、Nikon D700になってしまいました。これはプロもアマチュアカメラマンでもです。 なにも5D Mark IIが悪いと言っているわけではありません。もちろん良いカメラです。 ただ、何でもかんでも5D Mark IIなのか? という問いかけです。この先、写真で作品作りをしていくにあたり、もっと違った世界を見てみませんか? 今まで見たこともないような、そんな世界です。 このWebでは、35ミリタイプのデジタルカメラにはない、中判デジタルの魅力をご紹介していきたいと思っています。 さて、中判デジタルと言ってもそれほど特別なものではありません。特にフィルム撮影でブローニーフィルムを使ってきたようなフォトグラファーには、すぐに馴染めてしまうでしょう。 レンズを通った光が焦点を結ぶところにあったのが、かつてはフィルムだった。それが今は撮像素子と言われる電子部品になったのが、デジタルカメラです。35ミリの一眼レフでは、そこにフィルムと同じサイズのフルサイズと呼ばれる撮像素子と小型のAPS-Cサイズの撮像素子(センサー)の2種類が入りました。同じように中判デジタルもブローニーサイズのカメラにフィルムマガジンを付けていた代わりに、デジタルバックと呼ばれるモジュールを付けたのが始まりです。 元のカメラ、レンズがカバーできる面積が35ミリの一眼レフでは24×36ミリの大きさが最大ですが、中判デジタルではフィルム時代の645サイズである56×41.5ミリが最大サイズになります。また、センサーの前にはローパスフィルターがありません。記録される画像データもRAWデータのみで、35タイプのデジタルカメラでは12bit、または14bitの色深度に対し、中判デジタルでは16bitとひとクラス上の情報量があります。 これらの違いこそが、35ミリタイプデジタルカメラとはまったく違った次元のデジタルデータを取り出せる決定的な違いなのです。 分かりやすい例で言えば、大抵のフォトグラファーなら、35ミリフルサイズのカメラとAPS-Cサイズ、もしくはフォーサーズなど小型カメラを両方持っていることと思います。同じレンズを使い、同じ場所で撮っていながら、出来上がった写真はどこか違う…そんな感じを抱いたことはないでしょうか? 中判デジタルの写真も同じように感じるはずです。35ミリフルサイズと比較しても、どこか違う…それに気がついたあなたは、ひょっとしたら不幸になるかもしれません。なぜなら、今までは最高だと思っていた自分の写真に疑問を持つようになってしまうから。 ●デジタルバックを使いこなせ! ここから先はそれでも高見を見てみたいというフォトグラファーだけがお読みになってください。と、その前に…この文章を書いている僕のことを少しお話ししましょう。 僕はフリーカメラマンです。カメラの評論や、テストをして文章を書くこともありますが、収入の数%でしょう。ほとんどは雑誌、広告の写真を撮影して、撮影料という形でお金をいただいて生活しています。 僕も年齢的に50代なので、フィルムの時代も長く、35ミリから4×5まで使っていました。デジタルカメラで仕事をするようになって、そのほとんどが35フルサイズの1Dsでこなしていました。RAW現像にCapture Oneを使っていたので、中判デジタルも比較的早くに馴染めるような環境でした。最初に買った中判デジタルはPhase OneのH25というもの。その後、P25+に換えて、今はP45+を買い足して仕事で使っています。35タイプはキヤノン1Ds-Mk3がメインですが、今年出たNikon D800も仕事で使っています。 プライベートではSIGMA DP2 Merrillが最近のお気に入りです。使っているカメラを見ればおわかりだと思いますが、解像感があるカメラが好きです。 仕事で中判デジタルを使う理由は、レタッチのしやすさです。商品撮影が主なので、ほとんどの場合、レタッチをしなければなりません。そのレタッチも自分で行うので、撮影時間よりもレタッチの時間をどれだけ短縮できるか? という方法論を考えると、撮影に中判デジタルを使った方が、結果的には早い時間で仕事が完了できるのです。このレタッチのしやすさに関しては、ここで解説する気はありません。あまりにも専門的すぎるので。 ここでは中判デジタルの魅力、それに重点を置きたいと思っています。 35タイプのデジタルカメラでも同様ですが、外観はフィルム時代のカメラとほとんど同じです。背面に液晶があるだけの違いです。右に置いてあるのはNikonのD800です。 Phase One 645DFというカメラですが、日本のマミヤのOEMで、Phase Oneブランドで出しています。レンズマウントはマミヤ645マウントなので、マミヤ645のレンズを付けることが可能です。 デジタルバック部分は画質、用途などに応じて、フォトグラファーが選択できます。Phase One、Leaf、マミヤはオープンプラットフォームと言って、1台のカメラに多様なデジタルバックを取り付けることができます。 同じデジタルバックを4×5のような大判カメラにも取り付けることができます。現在、スタジオ撮影の多くの現場では、このようにして商品撮影をしています。 注意点としては、中判デジタルでは2つのマウントを頭に入れておくことが重要です。1つはレンズマウント。これはフォトグラファーなら説明もいらないでしょう。 もう1つはデジタルバックのマウント部分。フィルム時代にフィルムホルダーを付けていたマウントを指します。一番有名で数も多いのはハッセルブラッドのVマウントでしょう。500シリーズなどがこれに当たります。その他、今回使ったマミヤMマウント、コンタックス645マウント、ハッセルブラッドHマウントなどがあります。もし、フィルムの時代の中判カメラにデジタルバックを取り付けたいと言うときは、カメラに合ったマウントのデジタルバックを選択します。 古くからのユーザーが多いハッセルブラッドVマウントは、今でも流通量が多いマウントでもあります。デジタル時代になって、すっかりお蔵入りになってしまったハッセルブラッドも、Vマウントのデジタルバックを付けることによって、現代によみがえるのです。この話はそのうち改めてご紹介しましょう。 フィルム時代のカメラにデジタルバックを取り付ける場合、シャッターのタイミングをデジタルバックと取るためのケーブルが必要になります。それがカメラごとに違いますので、注意してください。その煩わしいケーブルをなくしたのが、デジタル時代の中判カメラです。今回使用したPhase One645DFは最新の中判デジタルカメラで、その取り扱いはほとんど35タイプのデジタルカメラと同程度です。簡単な操作の新しい中判デジタルカメラを買うか、今まで使ってきた中判フィルムカメラにデジタルバックを付けるか? 僕たちプロカメラマンでも悩む問題です。このあたりの選択についても、今後ご紹介していくつもりです。
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