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富田眞光/写真家

●これまで使った中判デジタルバックの特徴

−−これまで、P25、P45、P65、IQ140を使われてきて、それぞれのデジタルバックの使用感をお聞かせください。

富田 一番印象に残っているのは7年前の「P25&プロダクトフラッシュ」です(笑)。この組合せは本当にきれいでしたね。プロファイルが良くマッチして本当にきれいでしたが、ただ、スピードが遅かった。1コマ約1.8秒だったので、モデルを待たせてしまう感じでした。「フィルムみたいに早く撮れないからね」と、モデルに言いながら撮影していました(笑)。

P45になって、透明感のある、誰もが好むスタンダードな、一般的なきれいさになってきました。パンチは物足りなかったですが、専用のプロファイルを当てて、工夫ができるバックでした。スピードも速くなって、トラブルも一番少なかったです。

P65は画素数でまず驚きました。導入当時はトラブルもありましたけれど、それが解決したら良いカメラになりました。使いやすい発色ですし、解像度は高いし、良かったです。

−−ボディはハッセルH1システムとフェーズワン645DF、両方お使いでしたけれど、最近はいかがですか?

富田 今のメインはフェーズワン645DFとIQ140ですが、ノートラブルです。以前は撮影のとき、モデルのポーズやライティングを考えながらも、常にカメラがトラブルんじゃないかと心配していたのですが、今は、カメラのことは一切考えないで、撮影に集中できます。

−−P65に比べて、IQ140の印象はいかがですか?

富田 P65やIQ180はフルフレームですが、IQ140はCCDセンサーが一回り以上小さいので、その点では撮りづらいです。ファインダーを覗いても、見えているところが狭いので、脳にダイレクトに来ない感覚です。いずれ景気が良くなったらIQ160以上にアップグレードしたいのですが(笑)。

−−なるほど、操作性はいかがですか?

富田 シャッターは速いですし、645DFに縦位置のグリップを装着しておけば快適です。ビューティーの写真はほとんど縦位置ですからね。

−−IQ180を試用されて画質はいかがですか?

富田 たしかにデータはレタッチャーがいやがるくらい重いですが、素晴らしいですね。どこまでも伸びるので、どこまでレタッチすればいいのかレタッチャーが悲鳴をあげています(笑)。

−−IQ180は撮影時の感度が35から設定できるので、肌の階調表現などには、さらに有効かもしれません。

富田 私は通常50で撮っていますが、35は1/3の絞りの違いで違和感がないですから、試してみたいと思います。

−−IQ180は、Senser+にすれば、秒約2コマで撮影が可能です。その場合画素数は1/4の2,000万画素で感度は140からになりますが。P25とほぼ同じ画素数で、階調の違いが生きてくると思います。

●デジタル一眼と中判デジタルの違いとは

−−今のプロカメラマンはデジタル一眼のユーザーが多いですが、富田さんにとって、デジタル一眼と比べて中判デジタルのメリットはなんですか?

富田 ぜんぜん違いますよ。基本的に35ミリよりセンサーサイズが約3倍大きいわけですから。それだけ大きいということは、それだけ光も取り込めるわけです。同じ被写体を撮るのであれば、撮る労力は同じですが、写る情報量が違います。それなら大きなサイズで撮りたいですよね。

良い写真はいろいろなメディアへの流用が多くなるんです。そういった場合も大きい写真であれば対応できます。大きければ、自分の写真のクオリティを保てるということでもあリますね。

−−自分のクオリティをどこに基準を置くか、ですね。プロでも、最初にデジタル一眼に基準を設けてしまうと、中判の魅力に気づきにくくなってしまうのかも知れません。

富田 雑誌の表紙でも、フェーズワンで撮ったときとデジタル一眼で撮った場合では完全に上がりが違います。であれば、自分の名前が出るわけですから、一番クオリティの高い写真を提供したいです。

−−ちなみに表紙写真などのレタッチにはどの程度時間を割かれているのですか?

富田 表紙の場合、最低でも6時間くらいは掛かりますね。広告の場合はクライアントとやり取りしながらですから、60時間くらいは掛かっていると思います。

−−化粧品の広告のレタッチなど大変そうですね。

富田 化粧品メーカーの広告写真などは「つや肌」にしても段階がいくつもあります。例えば年配の女性をマットで撮ると、余計年を取ってしまうんですが、つや肌で撮ると生き生きします。その辺はこちらでコントロールしているのですが、クライアントによっては、もう少しマットにしてくれたほうがファンデーションの質感と合うといった要望がありますので、調整します。その辺は得意な分野です(笑)。

●撮影スタジオもプロデュース

−−広尾と青山に撮影スタジオ「GO-SEES」を作られたのも、富田さんの写真の追求の一環ですか?

富田 というより、自分がカメラマンをやっていて、東京中のスタジオで使いやすいところがないと感じていたので、自分でスタジオをプロデュースしたという流れですね。

−−ということはカメラマン目線のスタジオ?

photo富田 カメラマン目線というより、クライアントやモデルさんを対象にしたお客さま目線です。どこのスタジオもカメラマン目線、カメラマン主導で設計しているんです。だからお客さんには居心地が悪いんです。モデルもクライアントも、空調がうるさい片隅のスペースに追いやられて居場所がないみたいな(笑)。着替えもメイクも落ち着いてできないような環境が多いですよね。

そこで、カメラマンも嬉しくてモデルも快適な仕事のしやすいスタジオを作りたかった。「GO-SEES」は、メイクルームも広いし、トイレも防音、すべて床暖房、空調は五つ星のホテルと同じ静かな製品を入れています。さらにメイクルームは、ライティングしたときの色と同じ色を肉眼で見られる照明なので、メイクルームのお化粧が仕上がりと同じ発色になります。これは日本のスタジオにはなかった設備でした。

さらに鏡も旭硝子製のスーパーの野菜売り場や肉売り場の冷蔵庫に入っている鏡なんです。ほとんどの鏡は良く見るとグリーンに色かぶりしているのですが、この鏡は映ったときに余分な色が入っていないんですね。すごく高い鏡なんですけれど、こだわりで導入しました(笑)。

スタジオに関連して、フェーズワンの「Capture Pilot」はいいですね。これはモデルに使ってもらいたいです。モニターはクライアントやメイクが見るので、意外とモデルは自分のポーズを見られないんですよ。ですからモデル専用にiPadを置いておけば、それを見て自分のポーズを考えられますからね。今度iPadが立てられるスタンドを用意しようと思っています。

−−なるほど。こだわりの積み重ねといいますか、富田さんのこれまでの経験から、自分が欲しかったスタジオを作られたわけですね。

富田 ですから大手の化粧品メーカーの撮影はほとんどこのスタジオをご利用いただいています。

−−なるほど。富田さんはビューティー系を主に撮られていて、日本の女性美の1つの基準を確立されました。それにはカメラ、デジタルバックのハンドリングだけではなく、レタッチ、印刷用データのワークフロー、スタジオライティング、クライアント用プレゼンテーションなど、多岐に渡った気配り、ご苦労の賜物ですね。

富田 みんなきれいになってよかったですよ(笑)。私たちはちょうどフィルムからデジタルへの変わり目でしたからね。あとは次の世代がまた新しいものを開発していけばよいので、もっと進化したことをやってほしいですね。

ただ不景気な時代に若い世代も大変なので、フェーズワンも値段設定やサポートなど頑張っていただきたいですね。今は弟子たちが独立して、以前撮っていた女性誌の表紙をそれぞれが撮るようになってきました。ウチの弟子たちもみんなフェーズワンを使っています。

−−デジタル一眼でも事足りるという風潮が強まってきている中で、中判デジタルの1つ上、2つ上のランクの世界をアピールしたいですね。

富田 それは真実ですから、こんなに違うんだということを、メディアは広めていただきたいですね。

−−ありがとうございました。

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デジタルバック「P45」による作品。透明感のあるスタンダードなきれいさが魅力だという。(いずれもクリックで拡大)


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「IQ140」による作品。「P25」とは発色は異なるが、肌のグラデーションなどのディテールに、表現力の高さを感じることができる。(いずれもクリックで拡大)







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