Digital Tools
▲作品集『MID』より「オカアサン」(2008年、type C print)(クリックで拡大) |
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▲作品集『MID』より「ヒト」(2008年、type C print)
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●作品制作とAdobe Photoshop
−−テクニカルなお話を少しうかがいます。「MID」に関してはフィルムに撮って、それをスキャンして加工をしているのですか。
高木:全部そうです。スキャナはハッセルブラッドの「Flextight」を使っています。これはフィルムスキャナで、ネガカラーフィルムから直接データにしています。
−−データ化した写真の加工はどうされていますか。
高木:Photoshopです。
−−データを作品に仕上げていく作業の中で、Photoshopのどんな機能を主にお使いですか。
高木: 一番使うのはトーンカーブです。基本的に説明書を読まないので(笑)、知っていることしかできないですけれど。でもいろいろ使っているうちに偶然よい結果になることもあります。「MID」は、基本的にトーンを変えているのと、あとはモノクロの作品は、カラー写真をモノクロに落として、さらに背景を落としたりしています。
−−例えば「MID」の牛の写真は、元もピンぼけだったのですか。
高木:そうです。暗かったのでブレていますね。
−−犬が暗闇の中にいる写真がありますが、あれも背景を落としているのですか。
高木:落としています。「MID」の場合は、すごく引き算な加工をしていますね。
−−例えば、オリジナルの写真データから、ここだなと自分で納得できるイメージのポイントというのは偶然見つかるのですか。
高木:偶然が多いですね。「GROUND」の赤い色もトーンカーブで出しているのですけれど、トーンカーブをある形にしたときにあの赤が出てきて。あ、これだなって決まりました。目で見て決めているという感じですね。
−−Photoshopは多機能ですが、それほど多くの機能を使われているわけではないのですか。
高木:そうですね。知らないボタンとかいっぱいあります(笑)。フィルターなどもたまに使いますが、プリントする段階とかですね。
−−ちなみにディスプレイは、何をお使いですか。
高木:ナナオです。
−−パソコンはMacですか。
高木:Windowsです。学生のときはノートPCでしたが、今はデスクトップを使っています。
●カメラは新しいものが好き
−−使用しているカメラを教えてもらえますか、フイルム時代と現在と。
高木:大学に入って初めに使ったのはニコンの「FE2」でした。その後フイルムカメラはリコーの「GR」、マミヤの中判カメラなどですね。フィルムは高校のときはフジを使ってて、大学に入ってからはいろいろ使って、今はコダックのネガカラーです。
−−高木さんが大学生の頃は、もう十分デジタルカメラが実用化していますよね。
高木:でも大学はみんな、フィルムでした。授業も初めは全部フィルムでした。今使っているデジタルカメラはキヤノンの「5D」、リコーの「GR DIGITAL」です。また、二眼レフのリコーフレックスというすごく古いカメラも使いました。カメラはいろいろ使っていますね。GRなど、1つのシリーズの中で6種類使っています。
−−使い分けのポイントは何かあるのですか。
高木:例えば「SUZU」は対象によって分けています。風景は二眼で撮って、子供の写真などはオリンパスペンの「E-P2」で撮っています。被写体によってですね。
−−いろんなカメラをお使いですけれども、どれが一番好きですか。
高木:やっぱりいつも新しいカメラが好きですね。今自分で持っているのはGR DIGITAL IV。今はよくそれを使っています。やっぱりカメラによって撮れる絵は全然違うので。だから、初めてのカメラで撮ると今まで見たことのない感じになるのが面白くて、だから一番新しいカメラが好きなんです。
−−画角的には広角、標準、望遠で多く使うのはどの辺ですか。
高木:しっくりくれば、何でもいいです。
−−例えば、広角の歪みなどは気にしない方ですか。
高木:それはレンズの特性ですから、全然かまわないです。
▲作品集『GROUND』より「grain」(2009年、type C print)(クリックで拡大)
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▲作品集『GROUND』より「ground」(2009年、type C print)(クリックで拡大)
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●Photoshopで気持ちが自由になった
−−Photoshopの話なのですけれども、初めてお使いになったのはいつ頃で、またそのときの気持ちなど覚えていますか。
高木:大学2年から3年になる春休みのときに、スキャナを買って、それからPhotoshopも使い始めました。すごく自由だなというのが一番初めの感想です。
大学の授業で、モノクロ写真の白から黒まできれいな階調を出す焼き方を教わっていて、それは今でもすごく役に立っているのですけれど、そのいい写真といいプリントの基準が自分の外側にあって、写真はそれに合わせていかないといけないといった感覚があったんですけれど、Photoshopは全然それとは別のところにあって。いろいろできるし、なんでもやっていいんだなと思って、それから結構気持ち的にすごく自由になったんです。
−−フィルムの人は、シャッターを押した瞬間がすべてという感覚があると思うのですけれども、Photoshopは写真の世界に、現像よりもっと自由なポストプロダクションを持ち込んだというか、そこから先も写真なんだという感覚ですよね。
高木:そうですね、自分のイメージに近づけるというよりも、例えば1枚の写真からでもいろんなイメージができるということがすごく面白いなと思いました。
−−正解はないという話ですよね。
高木:そうですね。基準を自分で作っていいんだっていうことですね。
−−そういう意味ではPhotoshopは今の写真には、カメラと同じくらい欠かせないツールかもしれませんね。
高木:そうですね。
−−PhotoshopはCS5をお使いとのことですが、Photoshopで作品を仕上げていく段階で、こうしたいけれど、できないみたいな、そういった局面はありましたか。こういった機能があればいいのになとか。
高木:できないということはあまりないです。でも、加工していくとデータがどんどん劣化していくのはしょうがないですが、スカスカになっていくんですよ、トーンカーブなどをいじっていると。それが修復されたりしたらすごいと思います。ですから、加工した後のデータが、元データのようになることができたら、いいですね。でも基本的には満足しています。
−−作品作りのワークフローですが、フィルムをスキャンしてPhotoshopで加工という流れは今でも同じですか。
高木:今もネガで撮れば同じです。
−−デジタルカメラで撮影した場合でも、スキャナ以降の作業はフィルムと同じですよね。何か特別なテクニックや凝ったアプローチなどは行いますか。
高木:作品によってですが、以前行ったのは、フィルムで撮ってスキャンして、Photoshopで加工した後に、OHPシートに反転してプリントして、ネガを作って密着焼きをしてみました。それはその作品にその方法が一番しっくりきたのでやってみたのですが、それぐらいですね。
−−完成した作品データのプリントはどうされているのですか。
高木:プリントはいつも同じですね。銀塩でプリントしてもらっています。展示会用の幅1メートルくらいの写真になるとLambda(ラムダプリント)で出力しています。
−−インクジェットはどうですか?
高木:特に黒い部分は銀塩のプリントがきれいだなと思います。銀塩プリントはいいんですけれど発色が難しい部分もあって、自分がモニターで見ているのとはなかなかマッチしない部分が結構あるんです。その点はインクジェットの方がそのまま思い通りにいけますね。ただ、インクジェットはあがった瞬間はいいのですけれど、少し経つと色が変わってしまいます。出た色をキープする技術を開発してほしいですね。
もともと写真は銀塩でやっていたので、やはり光で焼き付くという、写真はそういうものだという初めのイメージがあるので、プリントも銀塩でという意識があると思います。
−−銀塩の化学反応みたいな。
高木:そうです。やっぱり紙にインクが乗っかるのと銀が反応することの違いは感じます。
●直感的に使えるAdobe Photoshop Lightroom
−−今回、現像にLightroomを使われるのは初めてとのことでしたが、何か気付いた点はありますか。
高木:Lightroomはまだ2週間くらいしか使っていないのですけれど、Lightroomって全部できるじゃないですか、どのカメラのRAWデータも。とりあえず、いままで複数持っていたメーカーさんの専用ソフトは捨てました(笑)。全部Lightroomでいいだろうと思って。
−−カメラメーカー純正の現像ソフトではなく、Lightroomで統一ですね。基本的に撮影はRAWデータだけですか。
高木:そんなにこだわりもなく、現像できればいいので、だったら1本でまとめた方が楽ですしね。実際、Lightroomは使いやすいと思いました。マニュアルは何も読んでないですけれど(笑)。直感的に使えます。
−−現像する段階での調整はされますか。
高木:露光量や色味の調整など、行う場合もあります。
▲作品集『SUZU』より「h01」(2011年、type C print)(クリックで拡大)
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▲作品集『SUZU』より「ie」(2011年、type C print)(クリックで拡大)
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▲作品集『SUZU』より「kawagoshi01」(2011年、type C print)(クリックで拡大)
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▲作品集『SUZU』より「sajiki」(2011年、type C print)(クリックで拡大)
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●銀塩、デジタルカメラ、写真、絵
−−抽象的な質問ですが、デジタルカメラ時代にフォトグラファーに求められるスキルってなんだと思いますか。高木さんご自身はフィルムとデジタル、どちらがよいですか。
高木:今はデジタルの方が多いですね。撮影の8割くらいはデジタルカメラで行っています。少し前まで、ちゃんと使えるデジタルカメラは、種類が少なかったじゃないですか。でも今はいろいろなカメラが出てきて、撮れる絵もいろいろ豊富なので、デジタルでも作品作りはできるようになりました。
−−フイルムに慣れた人は、センサーが整列しているので解像度的にはともかく、特に中判などモアレが気になると言う人もいますが、高木さんはいかがですか。
高木:ずっと銀塩の方がいいと思っていたのですけれど、なんで銀塩が良いのかが分かったんです。自分が一番初めに撮っていたオーストラリアの写真は、銀塩のプツプツ感、モノクロでふわっと浮かびあがってくる感じがあって、そこにすごくこだわりがあるんだなということに、気がついたんです。銀塩が好きな理由が分かったので、それ以来、デジタルのツルツルな感じとかも、それはそれでいいのかなって思えるようになりました。
−−銀塩固有の良さにこだわらなくなってきた。
高木:銀塩は銀塩ですごく良いし、いまだに使っていますが、でも、絶対に銀塩じゃなきゃ写真じゃないみたいなことはないですね。
−−ここ10年で写真が本格的にデジタル化してきて、Photoshopなどで、いろいろな表現ができるようになってきた反面、基準がなくなってきている面があると思います。そういった写真の歴史的な面から見て、写真ってどうなっていくのかというのが、今後の写真の1つのテーマかもしれません。高木さんはどのようにお考えですか。
高木:今後の写真表現ですね。写真自体がものすごく増えているじゃないですか。1人年間何百枚とか。そうなると、写真を撮るということがもはや特別なことではなくなっていますよね。普通にシャッターを押すだけで誰にでもすごくきれいな写真が撮れますし。では、その中で自分はなんで写真を撮るのかとか、何を撮るのかとかということを、今まで以上に考えざるをえないとは思います。
−−例えば、今高木さんがお使いのGR DIGITALもE-P2もそうですが、一般の人とプロが使うカメラは同じになってきました。入力装置が一緒なので、出力の違いこそが、プロカメラマンや作家の存在価値になります。
高木:慣れとかもあると思いますけれど、いい感じの写真というのは、もうそんなに価値がなくなっていくと思います。いい感じの写真や雰囲気のある写真は、写真家じゃなくてもみなさん持っていて、ブログやSNSに載せる写真でも、みんなそういう風に撮っているじゃないですか。カメラにもいろんな加工の機能がついていますしね。
−−確かに今はiPhoneで撮ってInstagramやTwitter、Facebookに載せるみたいなことが当たり前ですね。一般の人の写真のレベルはだいぶ上がったと思うのですけれど、パッケージ化されてみんな同じになってしまっている面もあります。やはりプロはもっと違う発想が勝負かなと思うんですけれども。例えば「GROUND」では、デジタルコラージュ的な表現を行っていますよね。それはやはり高木さんの写真表現であり、絵の表現でもある気がするんです。それが高木さんの個性かなと思います。写真だけでは終わらないスタンスを感じます。
高木:いくら絵画に近くても、やっぱり写真であるっていうところで、逆に近づけば近づくほどその小さい差で写真になる、それはなんだろう、みたいなこととかも考えたりして。やっぱり自分の感覚では絵を描いているのと写真をやっているとは違いますね。
−−アイデンティティは写真家ですね。
高木:ブログの日記に描いている絵は自由なんですよね。写真は、写真家ですと言ったらそれが仕事になって、写真をやっている人になるんですけれど、それのおかげで逆に絵がすごく守られているという感じもします。
●今後のアプローチ
−−現時点での最新作は「SUZU」ですが、これまでの「MID」や「GROUND」とはまた違うテイストとなってきていますよね。次はまた別のアプローチをお考えですか。
高木:分からないですね。わりといままで作風が変わるって言われてきたんですけれど、振り返ってみると、思考回路的には結構同じようなことをやっているのかなって思うんです。ですからそこを変えたいなと思っています。
−−思考回路自体を変える?
高木:いつも新しいことをやっているんですけれど、振り返ってみたら行動パターンではないですが、パターンのようなものがあるんですよね。
−−被写体はすごく幅広いですよね。
高木:被写体や興味の対象はいろいろ変わっているんですけれど、何かもっと根本的に変えたいなと思うんです。他の人に比べたらいろんなことやっているなって感じだと思うんですけれど。いや、なんかもう変わらなきゃいけないなと思って(笑)。
−−逆に1つのテーマに突っ込んでくるようなこともありえるんですか。
高木:ずっと撮っているものとかもありますね。それはまだ発表していませんけれど。
−−人間、ポートレートは撮らないのですか。
高木:ポートレートも撮りたいなと思ってて、撮ったりもしているんですけれど、ポートレートってなんだろう、他人を撮るってなんだろうって思っているところです。自分の中でその答えが出るというか発見がないと、人の作品は出せないですね。
−−被写体として、人間をどう撮ればよいのかの答えが出ていないということですか。
高木:人を撮っている作品もありますけれど、ある作品はその人を撮っているわけではなくてその人を通して別のところにいこうとしているので、全然この人に向かっていません。だから逆にその人を撮るとかになったら、なんだろうなと思うんですよね。
−−たぶん、違うスイッチが必要なのかもしれないですね。人間をアートとして表現する方法がまだご自分の中で固まっていない感じなのですかね。双子みたいな作品はポートレートという範疇には分かれてはいないのですか。
高木:子供の写真は「insider」を撮り始めたきっかけで、実際には街中などで撮影をお願いしたいろいろな人を撮影しています。
−−あれは子供の顔の右半分と左半分をそれぞれミラー処理して2人にしているんですよね。
高木:そうです。
−−いいですよね。全然違う人格の2人になります。このアプローチは他にもあるのですか。
高木:他にもあります。他はデビュー作と言われている作品です。あれはすごく人というか、顔というか、この人を撮るというのとはまた別の人間の顔というアプローチです。
●展覧会「MID.SUZU」について
−−2月22日から3月12日まで、東京・日本橋の高島屋で展覧会「MID.SUZU」が開催されますね。
高木:これはそれぞれ別の2つの写真集からの展覧会なんですけれど、それを並べた時に1冊1冊で見るときと違う感じになったりとかということは絶対あって。という意味では新しい発見があるかもしれないという期待を持っています。
−−「SUZU」と「MID」を再編集したという考え方の展覧会なのですか。
高木:「SUZU」と「MID」を並べてみるという。再編集というと「SUZU」と「MID」を素材に新しい別の作品を作るということではないです。「SUZU」、「MID」、「SUZU」という風に並べていきます。
−−並べる行為も編集といえば編集ですけれど、そこから新しいものを作るというわけではないのですね。とりあえず、現時点での集大成っぽい意味合いを持つ展示会なのでしょうか。
高木:集大成ではないですね。「MID」と「SUZU」という2つのシリーズについての展示です。
−−ありがとうございました。
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