●PCJ Interview
・File10 酒匂オサム
・File09 P.M.Ken

・File08 高木こずえ
・File07 太田拓実
・File06 鈴木心
・File05 青山裕企
・File04 小山泰介
・File03 奥本昭久
・File02 常盤響
・File01 辻佐織

●Company File
・File08 アドビ システムズ
・File07 富士フイルム
・File06 駒村商会
・File05 ジナー
・File04 ハッセルブラッド
・File03 シグマ
・File02 フェーズワン
・File01 ライカ

●Overseas Photographers
・File08 Michael Kenna
・File07 Todd McLellan
・File06 Mona Kuhn
・File05 Diana Scheunemann
・File04 Albert Watson
・File03 Nick Meek
・File02 Rankin
・File01 Ron van Dongen

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Digital Tools


▲世界最大級の家具見本市「Milano Salone 2006」で、商品のお披露目だけでなく、世界中からデザイナーが活躍の場を求めて集まる。誰もが仕事を抱えてこの場にいるのに、誰に頼まれたわけでもなく写真を撮り続けていたのは私くらいかもしれない。ちょうど新築されたばかりの会場で、腕を磨くのに格好の被写体だった。巨大なガラスの大屋根がうねっている(クリックで拡大)

▲著名メーカーはもちろん、そうでないメーカーもエキシビションの造り込みは日本では考えられないレベル(クリックで拡大)

▲吉岡徳仁氏のLEXUS L-finess 。体験型のエキシビションを撮影するにはどうしたらよいか考えさせられた(クリックで拡大)



●道具の変遷

−−これまで使われてきたカメラについてお話ください。

太田:黒白フィルムを買って暗室作業を始めた頃はコンタックスやニコンの一眼レフを使っていて、途中ローライコードが加わりました。日芸に移ってからは中判カメラが欲しかったのですが、情報過多な割にはお金がなくて、かなり古い6×6のブロニカなども使いました。

機材が落ち着いたのは、4×5が自分のやりたい方向にぴったり合うと分かってからです。すごく古いIII型テヒニカ(リンホフ・テヒニカ)を格安で譲ってもらって、黒白とカラーと半々で撮っていました。大学でトヨやエボニーも借りられましたし、レンズも三脚も貸してもらえる。なにより4×5は特定のカメラに凝るものではないので、フィルムと印画紙を買うことにお金を費やしていました。今でも風景写真を撮るにはトヨのVXとフィールドを併用しています。

デジタルカメラはキヤノンのEOS 5Dを独立したときに買ったのが最初です。建築写真では、外観や決めカットを4×5、急ぐ写真を5Dで撮っていました。4×5もフレックスタイトでスキャニングするので、フィルムとデジタルの違和感をクライアントが感じないような仕上げにしないといけません。

独立したばかりの頃、単身でミラノサローネの撮影に行きました。今でもよく仕事をご一緒する柳原照弘さんに誘われたのですが、現地ではひたすら1人で撮影です。頼まれ仕事ではなく、デザインの勉強と撮影の練習でした。4×5も持って行ったのに、5Dで撮ったメイン会場の写真が非常に上手くいって、これでいけるのではという感触を得ました。たくさんのカットを試したり、人物を入れたり、光や映像のインスタレーションが多かったりと、これからの建築写真で必要なものを捉えるにはデジタルカメラが非常に有効と思いました。

ただし5Dは長時間露光に弱くて、数秒の露光が必要な夕景で使えなかったです。長時間露光はインテリアや住宅などの撮影では必須な条件で、私の機材でそれをクリアしているのは今使っているニコンのD3Xからです。5D Mark IIも大丈夫で、17mmが使いたいので持って行きます。

−−建築写真の場合はやはりアオリは必須ですか。

太田:必須といえば必須ですが、本質的なことではないとも言えます。一眼レフなのに5本シフトレンズを持って行きますから、助けられてはいますけれども。というのは、私が考える良いアングルというのは、カギになるものが画面の中心にあって過不足なく見えて、周囲の状況も人間の普通の視野くらいまで入れられるというもので、そうなると当然ワイドレンズなのですが、アオリによって構図の中に要素を配置していくような撮り方は都合が良すぎる感じがして好きではありません。アオリで配置的に構図を作るのは絵の力を削ぐと考えています。

私にとってはビューカメラで作品作りをスタートしたので、アオリは当然あって然るべきの機能でした。でも5Dにズームレンズで撮らざるを得ない状況があって、アオリに頼らず一番良い位置にカメラを置くことがシビアに求められて、写真が上手くなったような気がしています。

壁の立ち方、空間構成を伝えるのが今の仕事なので、画質の面では今使っている一眼レフで十分なんです。カメラを適切な位置に置いて、必要な範囲まで写るレンズを選ぶことが何より重要なので、一眼レフでの建築写真というのはかなり良いなと思っています。

−−フレーミングが自由なのが一眼レフの良いところですね。

太田:その自由度に慣れてしまうと、デジタルバックにするときもそこが気になりますね。ファインダーが見やすいか、Macとの接続は必須なのか、広角レンズは揃っているか、一式揃えるのにいくら掛かるか。その後幸運にもミラノの仕事が続いていて、向こうのカメラマンが軽々と使いこなしているのを見ると、そういうハードルは超えていけるのかなと思ったりしますけれどね。完全にスタンドアローンで動くデジタルバックで、ライブビューなどがしやすければ是非使ってみたいところです。しかし、建築写真に使うには高額という実感もあります。

−−プロの場合は投資対効果を重視ですからね。


●デジタル時代からのワークフロー

−−デジタル時代になって撮影や現像などのワークフローはどう変化しましたか。

太田:まず撮影時ですが、フィルムを取り替える感覚で、テストと本番のCFカードを分けています。フィルムのときの緊張感とかを維持したくて、漫然と撮るのがいやだということもあるし、膨大に撮れてしまうデジタルカメラに埋もれたくないなという気がするんです。そうやって、撮影段階であらかじめセレクトされた状態のCFカードをMacに取り込んで、それをLightroomで現像しています。

−−
なるほど。テスト用のCFカードでいろいろ試し、フィックスしたら本番に臨むということですね。ということは、本番のカットはそんなに枚数は撮っていないということですか。

太田:基本はそうです。それができない流動的な撮影とかは、ずっと撮っていますけれど。

−−連結で撮ったりはしないのですか。

太田:クライアントに途中で写真を見せなくても進んでいく仕事が多いこともあって、連結撮影はほぼしてないですね。建築写真を教わった阿野さんがほとんどポラを切らず撮り進めるスタイルだったので、建築写真はそういうものという認識があるのかもしれません。実際、クライアントと相談するよりどんどん撮るしかない状況が多いんです。

家具の撮影などでは連結撮影することもあります。小さなものを覗き込むのではなく、全体を把握するのに有効でしょうね。でも一方でカメラはスタンドアローンで完全に動いて欲しいとも思います。


−−広告写真の場合、コラボレーションとはいえ、フォトグラファーにとってクライアントの意見がノイズになる場合もありえます。そういうとき、連結撮影は良い面だけではないですよね。

太田そうですね、一緒に作るものだとは思いますけれど、どうでしょうね。幸い私のクライアントは、建築家やプロダクトデザイナーが多くて、商業グラフィックの専門ではない方が多いんです。撮影中はほとんど何も言わず、期待感を持って出来上がりを待っていてくださいます。

−−広告の場合、カメラマンが撮った写真はある意味で素材です。そういう仕事と、個人の作品を記録する仕事とどちらが多いのですか。

太田9割方が後者ですね。アートディレクターがいたとしても、ラフスケッチのない世界ですね。




▲「16 August 2001, Awajishima Hyogo」。長大な吊り橋の浮遊感を表現したかった。超現実的な写真になって注目してもらえたが、実際にこの場に立てば誰でも同じような感嘆を漏らすのではないかと思う。2001年から2005年までの風景写真をまとめてフジフォトサロン新人賞に応募した(クリックで拡大)

▲「14 September 2007, Tanegashima Kagoshima」。時々通っている種子島でのロケット打ち上げ。島の風景に馴染む打ち上げを撮りたかったので15km離れた岬から撮影した(クリックで拡大)

▲「7 January 2006, Choshi Chiba」。人工物が常に目に入り、人の手が介在しているのが私たちの周辺にある「風景」と思う(クリックで拡大)



●現像はLightroomで行う

−−現像はLightroomをお使いとのことですが、写真の補正などもLightroom上で作業するのでしょうか。

太田:私の場合、使い始めの頃はPhotoshopの作業比率が高かったです。まず、デジタル一眼レフで撮ると歪みやレンジの狭さを直す作業が非常に多く、部分的なマスキングなどもPhotoshopでしかできなかったからです。今はLightroomにもブラシなどはありますね。最近はなるべく現像の段階でできるだけ処理したいと思ってやっています。ただレンジをカットするための合成作業、色合わせなどはPhotoshopが必要になりますが。

−−建築写真の場合、高層ビルなどのパースによるゆがみは後処理で直しますか。

太田:撮影時に水平垂直を維持することで、パースコントロールをPhotoshopで直したりはしません。後処理ではレンズの歪曲収差を取り除きたいですね。LightroomやPhotoshopで使えるプラグインで歪みを軽減し、最後は手作業で形を直しています。

−−ホワイトバランスや色の調整はどうしていますか。

太田:その場の色温度に合わせて撮影していますが、撮影時はあまり厳密なことはしていません。ネガフィルムで撮る感覚と同じです。色温度やカラーバランスに寛容なRAWという記録形式のおかげで、楽に撮っています。そうすると写真の仕上げは、私自身の記憶という非常に主観的な基準で行うことになるのですが、カラープリントに熱中していた頃と同じ感覚で作業ができて違和感がないんです。ポラロイドやコダックの発色のように、ニュートラルを出してもなお個性的な色味というのが目指すところかもしれません。

ニュートラルが出れば、余計な色かぶりがないということですから、霧が晴れたように眠っていた色が出てきます。デジタル作業は色の足し引きがいくらでもできてしまいそうですが、そうではなく、ど真ん中のニュートラルを出すことで写真の色を作っていきたいと思っています。

−−デジタルの場合、撮影時に白飛びは注意されていますか。

太田:白飛びは何も情報がない状態で、それは避けたいと思っています。飛んでいても何かしらのトーンが残るのが自然です。これは段階露光と合成によって対策しています。Photoshopの「ハイライト抽出」が非常に便利です。ただハイライト・シャドーの救済はPhotoshopが向いていますが、中間調は後からトーンカーブをかけてもジャンプが起こってしまい上手く行きません。現像でしっかり決める必要があります。

私の場合、最終仕上げまでに何度かプリントをします。カラーマッチングしたモニタでも、色味の追い込みは難しいです。建築写真は長く使われることが多く、媒体の種類も様々なので、モニタだけを基準にすることはできません。やはりプリントしてみて得られるものはたくさんあります。

−−ちなみに、Photoshop CS5以降に搭載の新機能はお使いになっていますか。例えば「パペットワープ」や「コンテンツに応じた塗り」など、写真に写った不要な電線などを消すのに役立つ機能になっています。

太田:修正は最小限ですが、デザイナーが本来作りたかった姿に近づくように修正することはあります。工事の都合で出来てしまった穴や傷みなどはLightroomとPhotoshopのどちらでも修正ができるので便利ですね。




▲Lightroomによる編集作業。画面は 東京都現代美術館ブルームバーグパビリオン(平田晃久氏設計)(クリックで拡大)

▲Photoshopによる編集作業。画面は DESIGNTIDE TOKYO 2011(中坊壮介氏設計)(クリックで拡大)



●フィルムの感覚がデジタルでできるといい

−−今後のデジタルツールに期待することはありますか。

太田:一般向けのカメラはとても身近になりましたが、一方で、若手のカメラマンが写真を極めようとすると機材による制約を受けるように思います。昔の4×5より今の高解像度のデジタルバックの方が高嶺の花になっているので、良い機材を適当な価格で使えるとよいと思います。

家にあった古いカメラで写真を始めたという人は多いと思いますが、昔のカメラでも自分の選んだフィルムを詰めさえすれば使えたという感覚がなくなってほしくないですね。出会い方は重要です。デジタルに比べればフィルムと印画紙でできることなど制約だらけですが、なんでもできてしまっては写真らしくありません。

私自身についていえば、作品はフィルムで撮影し、スキャニングを経てデジタルで色調整はしますが、プリントはラムダで印画紙に出力します。まだなくなってしまっては困ります。

−−印画紙は作品展などに必要ということですか。

太田:はい。フィルムも印画紙も原理は同じで、支持体やネガポジが逆なだけですよね。基本的には支持体の中に発色材料が詰まっていて、外から与える光の刺激でそれが変化する。これはプリンタのようにインクを紙に載せていく方法と大きく違います。それと銀塩写真はプロセスに水を使うので、紙が水に耐えられるものになっています。水に耐えられるということは変化に強いということですから、長く保ってほしい作品に適しています。インクジェットプリントの褪色性も相当向上していますが、モノとしての強度は気になるところです。

−−フィルムと印画紙が築きあげてきたアナログの極地に対して、デジタル装置はそこまで到達していないという感覚ですか。

太田:いえ、技術としての優劣を言っても仕方がありませんので、ただ今まで洗練を極めてきた銀塩写真の技術には敬意をもって接したいと思います。あとは感覚的なことですね。すぐに写真が見られるインスタント感も写真の楽しみだし、逆に撮ってからしばらくしないと見られないという時間のギャップも写真らしい体験と言えます。

−−昔は写真を撮ったら紙焼きを見せていましたね。今はスマートフォンで問題ないと考える人と、紙が良いという人とがいますが、結論が出ない話ですよね。

太田:結論は出ませんね。自分の中でも何種類かの自分がいるみたいです。ただ、写真の技術上の移り変わりだけでなく、動画などの近接するジャンルとの境界も溶けてきていますから、その中で写真とは何なのかをきちんと考えて語れないと、フォトグラファーとしての基礎が揺らいでしまうと思います。

−−ムービーには興味はありませんか。

太田:仕事のうえでは、たとえば建築でもアートでも、フォルムを作るだけではなくて、移り変わる体験のようなものがテーマだったりすることがあります。そうした場合では写真だけでは記録できない、それこそ動く写真のような方法で記録できたら良いのにと思うことがあります。

しかし写真とは、3次元の被写体をある特定の時間で固定して平面化する行為だと思っています。それが写真だし、そうして写真化することで時間や空間を所有し共有することができるのではないかと思います。これはすごく面白いことだし、けっこう大変なので、自分の中ではまだまだそれに手一杯ですね。

−−ありがとうございました。


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