・カメラマンにとっての3D CG基礎知識

・スチルカメラマンにとってのムービー撮影を考える

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・3ds Maxを用いた新時代写真術

・Capture One 徹底使いこなし術

・PCJライティング講座





キヤノンが5D MarkⅡをリリースして以降、スチルカメラマンの間でムービー撮影への関心が高まってきている。時代も紙からWeb、デジタルサイネージへと動的コンテンツへのシフトが進み、もはやムービーは別世界の話ではなくなってきている。ではこれまでスチルのみで仕事をしてきたカメラマンにムービーは撮れるのだろうか。ここではスチルカメラマンでありながらムービーも手掛けている先駆的なカメラマンにご登場いただき、話を聞いていく。

第1回:宇田幸彦


1枚の絵をまず考えて、
そこからつなげていこうという考え方ですね






▲東京・港区の宇田氏のオフィスにて

宇田幸彦

群馬県生まれ。大阪芸術大学写真学科卒業。藤井保写真事務所を経て独立。ADC賞、APA入賞入選、毎日広告賞奨励賞、読売広告賞部門優秀賞、日経広告賞優秀賞、日経広告賞部門賞、JR東日本ポスターグランプリ-2000最優秀賞+制作者賞、日本工業新聞産業広告大賞最優秀制作者賞など受賞歴多数。
http://udayukihiko.com/



▲宇田氏のスチル作品を用いた広告の一例。モスバーガーのポスター(クリックで拡大)

▲同じく明治製菓のポスターから(クリックで拡大)

▲ムービー作品は宇田氏のWebサイトから閲覧可能



●スチルカメラマンがムービーを始めたきっかけ

−−宇田さんはもともとスチルカメラマンでいらっしゃいますが、ムービーの撮影はどんなきっかけで始められたのでしょう。改めて振り返っていただけますか。

宇田:フリーになってからということであれば、写真歴は20年ぐらいです。映像歴もフリーになってしばらくして、「ムービーも回してみませんか」というお話をいただいてからなので、写真歴とそれほど変わりません。ただ写真は高校生の時からやっていたわけですから、そこから数えれば、写真歴のほうが長いです。

−−ムービーを始めたきっかけは、CM制作などでクリエイティブディレクターの方から「やりませんか?」と言われたというような流れですか。

宇田:そうですね。ムービーでもスチルと同じような表現方法を求められたからだと思います。

−−宇田さんの写真のテイストをそのまま映像にしたかったということでしょうか。

宇田:そうですね。ムービーとスチルを、同じイメージ線上にもっていきたかったということだと思います。

−−宇田さんは映像と言われたときに、何の抵抗もなく「やりましょう」という感じだったのですか。

宇田:多分好奇心という部分が大きかった。知らない世界でもあったので、できるかなという不安ももちろんありましたが、監督やチーフ、セカンドの人、皆さんの協力を得てやらせていただきました。スチルカメラマンが1人で初めてムービーを撮るのは、大変だと思います。

−−ある意味別世界ですものね。そういう意味では宇田さんはお膳立てがあって、入りやすかったということですね。分からないことは聞けたし、それこそフレームに集中できたみたいなところがあって。

宇田:はい、そうです。

−−それ以降はスチルもムービーもずっと並行して撮られていますが、どちらに軸足があるのでしょうか。

宇田:軸足は、元々がスチルカメラマンなので、スチルにあると思います。でもお話をいただければ、両方撮りますし、仕事によってはムービーだけの場合もあります。いろいろですね。

−−カメラの世界は、例えば取材にしても作品制作にしても、基本カメラマン1人で追い込んでいく世界ですよね。映像はそうではなくて、いろいろなスタッフとのコラボレーションになりますが、その辺は違和感なかったですか。

宇田:確かに写真はオーダーに対してカメラマンが作りこんでいくことが多いですが、ムービーは、演出の方がいらっしゃって、その方がストーリーなど細かいことを決めていかれるので、いわゆるスチルの感覚を、そのままムービーに持ち込むとちょっと違和感があります。監督が描いたストーリーや絵コンテなどを自分の中に取り込み、そこからフレーム作りをしていくという感じです。

−−映像はチームワークになるので、スチルのようにライティングからすべて自分で考えて構築できる世界と比べて、個人の表現としては弱くなりますか。

宇田:いえ、弱くはなりません。ムービーの照明には、技師さんという方がいらしてその方と話し合いながら、照明を決めていきます。スチルは一枚絵ですが、ムービーは、つながりがありますから、その辺を気をつけないといけません。

−−ムービーの場合、スチルとはまったく異なるスキルを求められるのでしょうか。例えば今日はスチル、明日はムービーというときに、自分の中のスイッチを切り替えるのですか。

宇田:いや。僕は、そういうことよりも、一枚絵をまず考えて、そこから「じゃあこれをこういうふうにコンテしてつなげていこう」という考え方ですね。まずいい絵、いいフレームを切って、それから次の展開へ持っていく。多分スチルの頭で考えていると思います。

−−宇田さんのWebサイトの映像を拝見しましたが、確かに1枚の絵が動いている感覚で始まるものが多いですよね。その感覚は、映像系カメラマンでない、写真家の撮る映像だなと感じました。ちなみに今、スチルのほうは完全にデジタルですか。

宇田:そうですね、デジタルでの撮影がかなり増えています、今は、デジタルの良いところをうまく使って撮影しています。たまに、アートデレクターの方の考えと僕の考えが合えば、銀塩での撮影もしています。中判はハッセルに付けるリーフのデジタルバック、それと35mmのデジタルカメラを使っています。

−−リーフがお好みなのですか。

宇田:そうですね。買う時にテストをして、フイルムルックに近いリーフを選びました。フェーズワンはコントラストが高かった。

−−現像もご自分でされますか。

宇田:はい、やります。ほとんどLightroomで行っています。

●キヤノン5D MarkⅡの魅力

−−最近はキヤノン5D MarkⅡなどムービーを撮れるデジタル一眼が登場してきていますけれど、お使いになられましたか?

宇田:今回初めて、5D MarkⅡを使いました。

−−宇田さんはムービー撮影にはムービーカメラを使われているので、5D MarkⅡで映像となると逆に違和感はなかったですか。

宇田:そうですね。カメラ自体は、普段使っている35mmカメラサイズなので、抵抗感は全然ありません。逆に親しみやすいですね。なにせムービー用カメラよりはるかにリーズナブルですから。

−−5D MarkⅡやデジタル一眼系のムービーはボケ味がけっこう出ますし、高感度で撮れるので奥行きのある絵が撮れると聞きます。そういったメリット面はどうでしょうか。

宇田:ボケ味は、普段使っている35mmのボケ味なんですけど、動画で見るとやけに新鮮だったり、きれいに見えます。今回も、監督さんの意向もありうまくボケ味を使いました。感度に対しては、感度を上げすぎてしまうとノイズが出やすくなったり、動画を圧縮する際のノイズやら、いろいろなことが相まって、すごくノイズっぽくなる、シャドー部にノイズが出やすくなるとのことだったので、その辺は気を付けました。

−−レンズにこだわりはありますか。

宇田:5D MarkⅡにマウントアダプターを使って、他のメーカーのレンズを使えるのはいいですね。僕もテストで他メーカーのレンズを付けて撮影をしてみましたが、思っていたより、ちゃんと撮れてびっくりしました。ただ、本番の時には、絞りやフォーカスの回転が逆だという理由で使うのはやめました。後から分かったことですが、フォローフォーカスに1つギヤを足すとその問題は解決するそうです。それとオートフォーカスレンズの駆動は、電気信号に変えてレンズを動かしているので、ワンテンポ遅くなったり、タイミングを取るのが難しい面はありました。

−−例えばフォーカス送りなどが大変とかですか。

宇田:やはり5D MarkⅡも基本は、スチルカメラであって、スチルカメラというのは本来、被写体にカメラを向けて、フォーカスを合わせてシャッターを押すというものですから、ムービーのような使い方をするのは、難しい。このことをあるメーカーの人にぶつけてみたら、やはり何百万円もするムービーのレンズと比べるのは、無理があるとのことでした。

あと、5D MarkⅡは2,110万画素ありますが、動画になると1,920×1,080に間引かれてしまいます。その間引き方にも問題がありそうです。

それから、5D MarkⅡはCMOSセンサーを使っていますので、CMOSセンサー特有の縦のラインが、アンダーの部分に出やすいです。それと絵作りをするトーンカーブ(ピクチャースタイル)が、基本的には1枚のスチル写真を撮るために作られているようで、わりと立っているというのか、コントラストが高いような気がします。でもユーザー設定に3個のピクチャースタイルが登録できるのは、大変便利なシステムだと思います。


−−映画やCMなどの大きなプロジェクトにはムービーカメラとして物足りない面があって当然だと思いますけれど、逆に、例えばWebの映像を撮るとかであれば問題はないですよね。

宇田:全然、問題ないんじゃないですか。短いテレビ番組とか5D MarkⅡで撮っているという話もよく聞きます。

−−多いですものね。最近ドキュメントとかバラエティ系のテレビでも、このロケは多分5D MarkⅡだなというような番組をけっこう見ます。

宇田:そうですね。5D MarkⅡがいままでのムービーのカメラの座をおびやかすのもそう遠くない気がします。


▲取材時にはちょうど5Dを使用した撮影の直後だったという

●ムービーとしての撮影手法

−−宇田さんの場合は5D MarkⅡをどのように使われますか。後部の液晶ファインダーでピントを見るのですか。

宇田:5D MarkⅡで動画を撮影するときは、光学ファインダーは使えませんので、カメラボディ後ろの液晶モニターでフレーミングやフォーカスを見なければならないのですが、この液晶モニターで正確なフォーカスまで見るのはかなり至難の業なので、外部に少し大きめなモニターを出してそこでフレームやフォーカスのチェックをしました。普通ムービーカメラにしろ、スチルカメラにしろカメラ本体のファインダーをのぞきますよね。それができないのが少し違和感ありました。それに外部に出したモニターは、外部の光に影響されて見づらい時があります。

−−5D MarkⅡは初めて使われたということですけども、今後も5D MarkⅡでムービーを撮りたいと思いましたか。

宇田:はい。いろいろお話してきましたが、35mmのカメラサイズでムービーが撮れてしまうのは、やはり画期的なことだと思います。アングルを探すにも本体が軽いので楽ですし、これからも5D MarkⅡを使って撮影すると思います。

−−ムービー撮影の実践的なテクニックでは、例えば構図を変えたいときに、パンやティルト、レールなどを使いこなせないと撮影は難しいですか。

宇田:まあ、使いこなせないより使いこなせたほうがいいと思います。そういった技術的でないところで、負けない何かを持っていないとだめですね。

−−--なるほど。やはりスチルカメラマンには一枚絵の連続としてのムービー映像を求められるのでしょうか。

宇田:僕は、そう思います。

−−宇田さんの場合は映像用の撮影機材は活用されますか。

宇田:僕自身、ムービー用の機材に詳しくないんですが、監督さんの求める絵を撮るには、必要だったりしますので、機材に詳しいチーフの人に教えてもらいます。

−−今回の撮影はどの程度の機材で撮られましたか。やはり5D MarkⅡを三脚に置いてが基本ですか。

宇田:クレーンに付けての撮影と三脚ですね。

−−手持ちはありえないのですか。

宇田:いや、僕も最初は、小さくて軽い35mmカメラなので、ちょっとした動きは、手持ち撮影ができるかなと思っていましたが、スチル撮影と違い画像が動いているとフレームの細かい動きが気になって使えませんでした。手持ち撮影で撮ったような絵を撮るには、ステディーカムという機材がありますが、慣れないとうまく使えません。

●写真も映像もボーダーレスに

−−5D MarkⅡが出て、自分も映像をやるべきかと悩まれているカメラマンも多いと思います。今、経済状況が厳しいので、ムービーにもう少し飯が食える種があるのならそっちにいきたいなという気持ちもあると思うんですよね。

宇田:Webなどのお仕事を経験していないので、よく分かりませんが、映像はカメラマン1人で行う仕事ではなくスタッフワークだと思うので、良いスタッフにめぐりあえれば、良い結果につながると思います。

−−なるほど。

宇田:身近にそういったチャンスがあるのでしたら、やってみるべきだと思います。

−−街のお菓子屋さんもホームページで動画を流している時代ですから、Webやデジタルサイネージであれば、ニーズはどんどん増えてくるのかなと思います。

宇田:そうですね。

−−スチルカメラマンでありながら映像も撮ってこられた先駆者として、これから映像を撮ろうと思っている人たちに対してアドバイスはありますか。

宇田:ムービーは、スチルのように一枚絵で見せるのと違い、絵が動いていたり、ストーリーがあります。スチルの頭にプラスアルファーが必要になりますが、そのことを考えるのが僕にとって楽しい時です。

−−映像は、1カットに対してAから始まったらBで終わらないといけませんね。その終点を想定しておかないと映像は撮れないのかなと思いますが、そういう発想はスチルの人にはあまりないような気がします。

宇田:そうですね。それが先ほどのプラスアルファーな部分でしょうか。

−−そうですね。あとは先ほどおっしゃられていましたけれど、ムービー撮るためのノウハウやテクニック、知っておかなければいけないことはたくさんあると思うんです。それはやらなければ身に付かないですよね。

宇田:それは、やっていくうちにだんだん覚えていくものだと思います。

−−CMなどにおいてカメラマンの仕事は、極論を言えばビジュアル素材の提供ですよね。そういう根本的な原理としては、映像もスチルも同じなのでしょうか。

宇田:どうなんでしょうか、すこし前は、カメラマンの色とか個性がものすごく重要視されていたと思います。今は、デジタルになって、後処理でできたり、嘘の世界をどんどん作っていく、そうするとカメラマンの個性というより極端なことをいえば素材さえあれば、誰でも、何でも作れてしまうようになってきていると思います。

−−デジタルは本当にポストプロダクションで何とでもなりますからね。昔はカメラマンさんの作品は”触れるべからずなもの”だった気もします。

宇田:そうですね。カメラマンの立場からすると悲しいですね。

−−個性で打ち出すような展開が全般的に減っている気がするのは寂しいですね。

宇田:デジタルになるとそれがよけいに加速していると思います。

−−ありがとうございました。




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