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デジタルカメラでの撮影が主流になり、カメラマンの仕事は、フイルム時代のように撮影済みフイルムをラボに出し、現像の上がったロールを納品してそれで終わりというわけにはいかなくなった。RAWデータを自分で現像し、場合によってはレタッチし、さらにデータの納品方法、ファイルフォーマットの選択、データ管理の必要も出てきた。ポストプロダクションの仕事が増えたわけだ。ここではデジタル時代のワークフローをすでに確立されているカメラマンに、それぞれのデータ管理術を聞いていく。

第1回:姫野清司


sRGBでもAdobe RGBでもよいので、
きちっと自分のデータを明確にすることです




▲MacとEizoのディスプレイで組まれた姫野氏のシステム(クリックで拡大)

姫野清司(ひめのせいじ)。Himenoフォトオフィス。

大分県別府市出身、日本写真専門学校(九州校)卒業。コマーシャルスタジオでスタッフカメラマンを経験。1996年フリーカメラマンとして代々木に自社スタジオを設立。現在に至る。
http://himeno-st.com/




▲自分の作りたいものにもっと追い込む。作例では商品の色を正確に微調整し、レタッチ&合成を行った(クリックで拡大)

▲デジタルカメラになって、ハイライトコントロールが難しくなった(白の表現)。作例はケーキの白のディテール表現にこだわった(クリックで拡大)



●デジタル時代、カメラマンの仕事は何が変わったか

−−姫野さんが銀塩からデジタルに移行したのは何年前になりますか。

姫野:本格的にデジタルカメラを使用し始めたのは2002年頃ですので、約8年になります。デジタルへの移行はかなり早かった方だと思います。それ以前もまだ銀塩が主流のときから、オリンパスの小さな一般向けのデジタルカメラで遊んでいました。

設備としては、フリーになって3年目の1999年頃に、カメラ以外の一式、モニタ、コンピュータ、プリンタ、スキャナを揃えました。一式揃えて100万円くらい掛かりました。デザイナーがその頃からMacだったので、Mac系で揃えました。最初はPhotoshopを使い始めました。。

−−当時は銀塩をスキャンしてPhotoshopで加工して、納品していたのですか。

姫野:いや、まだ遊びの段階でした。遊びでPhotoshopで人体の合成を試してみたり。首のつなぎ目をきれいにするためには身体の向きと顔の向きが同じじゃないと合わせづらいとか(笑)。そうやってPhotoshopを覚えました。


−−コラージュ的なアプローチですね。

姫野:10年ぐらい前に電塾の講習会にカメラマンの友人と行ったんですけど、そこで電塾のメンバーのカメラマンの方と待合室で一緒になって、2時間ぐらい話を聞いていたんです。そこでデジタルに本格的に触発されて、友人が先に一番最初のニコンD1Xを買って、自分もその後半年しないうちにD1Xを買いました。

−−D1は1999年発売で、画素数もまだ約600万画素でした。A4全断ちくらいは伸びるような感じでしたか。

姫野:いや、A4の半分。A5ぐらいです。それでも、なるべく仕事をデジタルにしようと思って、あちこちで「デジタルにしましょう」と推進していました(笑)。

−−当時、クライアントからはデジタルカメラでの撮影依頼はあったのですか。

姫野:メインは物撮りですが、フイルム時代はずっと4×5で撮っていて、35ミリとかブローニーサイズはめったに使わなかったんですよ。

−−デジタルカメラは、当時35ミリよりも画質的には厳しかったですよね。アオリもできないでしょうし。

姫野:それでも、時代はデジタルに向かうのは確信していたので、35ミリ感覚で撮り始めました。新規のクライアントや小さな会社はデジタル納品でいいよと言ってくれて、そうやって徐々にデジタルに切り替えていきました。それから3年ぐらいでほぼ9割はデジタルになりましたね。

ただ大手家電メーカーの撮影では、間に入っている広告代理店やデザイン事務所から、フィルム渡しにしてくれと言われました。その企業との打ち合わせで「データできっちり渡しますからデジタルにしませんか」と言ったのですが、その頃は印刷会社のデジタルデータの扱いがまだ未整理で混沌としていたんです。

フィルムであれば、色はこれに合わせてくださいと言えば済むのですが、デジタルは元がないので印刷所は当時CMYKでの納品を望んでました。でも自分たちはRGBの世界は知っているけど、CMYKは印刷屋さんの世界なので、直せないんですね(笑)。だからRGBとしては完璧なデータを渡しますけど、CMYKには責任もてないということで、結局代理店やデザイン事務所がフィルムでいいと。

−−色の基準を示せない状況ですね。

姫野:相手の印刷所に「カメラマンがRGBのきちっとしたデータを渡すので、そちらでCMYKの変換なり管理をきっちりしてください」と言えなかったんじゃないですかね。当時はデザイナーもデジタルには疎かったんですよね。

−−RGBデータにプロファイルを埋めていたんですよね

姫野:もちろん。その頃はプロファイルを埋めて、このデータはApple RGBで制作して、ピクセルはいくつで、8ビットにしていますという指定を付けて渡していました。でも印刷所も右往左往していたときだったので、いきなりCMYKにポンと変えちゃうんですよ。プロファイルを破棄して。そうすると色がガラッと変わってしまいます。その頃はまだsRGBとApple RGBの色空間の違いを印刷所やデザイ ナーも分かっていなかったから、データのやり取りが大変でした。Apple RGBで渡しても、デザイナーは分からないからそのままプロファイルを捨ててしまったりとか(笑)。

−−たしかに当時はデザイン、DTPも過渡期でした。

姫野:一番勉強していなかったのはデザイナーの方なんですよ。色空間の概念や、sRGB、Apple RGBのプロファイル変換の説明をして、間違えると色が変わっちゃうんですよ と話もしたのですが、皆さんピンとこなかったですね、当時は。

結局、インクジェットのプリントアウトの色見本を用意して「印刷ではこの色に近づけてください」と渡していました。フイルム時代は「ポジに忠実に」でよかったのですが、デジタルになっても目視で確認していたので、当初はあまり変わらなかったですね。

その頃、トヨタが雑誌用にCMYKのプロファイルを作ったんです。トヨタもデジタル化して、全国にチラシのデータなどを配布するので、各地で色がバラバラになるのを避けるため統一のCMYKのプロファイルを決めたのです。

−−トヨタが動けば影響力も大きいですね。

姫野:そういう動きが徐々に進み、やがて印刷所もCMYK納品でないと受け付けないとは言えなくなってきました。印刷所の技術が上がってきたんですね。今は印刷屋さんがデータの扱いを分かっているから、デジタルの生データを渡してもRGBで渡しても、ちゃんと出てくるようになってきていると思います。

−−なるほど。今、プロファイルは何をお使いですか。

姫野:自分はAdobeにしていて、Adobe RGBとsRGBを使い分けています。印刷向けは基本的にデザインでやるところは全部Adobe RGBです。ただ、たまにホームページ用の撮影をするのですが、 ホームページはモニタはsRGBなので、そういうときはsRGBにします。変にAdobeを渡して混乱させるよりはsRGBで渡したほうが、同じ環境だと思うし、間違いは少ないと思います。



●デジタル時代のワークフロー

−−姫野さんはデジタルのスキルが高いカメラマンだと思いますが、カメラマンさんによって「デジタル度」はけっこう違います。

姫野:今はフィルム時代と違ってデータ調整で仕上がりに差が出てきます。フィルムでは、エマルジョンが悪ければフィルタを入れて色補正を行うか、段露光して適性露出がどれかとか。そうすると単純な同じライティングをしていれば誰が撮ってもそんなには変わらなかったんですよ。

ところがデジタルは、RAWを現像した、ヘタすればJPEGで納品する人もいますからね。自分は印刷物の場合、絶対JPEGでは渡さないです。

−−TIFFですか

姫野:はい。RAWでも100%渡しません。RAWはTIFFできれいにすることを前提に撮っています。今は現像ソフトがだいぶよくなりましたけど、前は飛んでしまうとどうしようもなかったんですよ。白飛びなどデータがないわけですから(笑)。だからあえて暗め暗めに撮っていました。RAWデータを見ると「暗っ」という写真をいっぱい撮ったんです。後で現像するときにそのRAWを全部調整してバッチではき出すので、RAWのままくださいと言われても「こんな暗い写真は渡せません」と言って(笑)。

−−受け取る側は、特にWebや雑誌はTIFFだとハンドリングが大変なので、JPEGでくださいという場合も少なくないと思います。

姫野:自分は、印刷用をAdobe RGBのTIFFで作って、Web用にはsRGBにして縮小したTIFFデータを作って、2つを渡します。

編集者やデザイナーもアバウトなので、担当者にはアタリデータだけを使ってもらって、本データはそのまま印刷所に渡してくださいとお願いすることもあります(笑)。

●カメラマンが撮影後にすべきこと

−−実際に姫野さんの場合は撮影後にどういう処理をして納品するのですか。先ほどのRAWデータで撮ってTIFFにして、という流れをもう少し詳しくお話ください。

姫野:自分は35mmタイプはニコンしか使っていないので、必ずRAWデータで撮って、現像時に処理します。ホワイトバランスを合わせて、あと、ちょっと暗い場合、シャドーを少し上げることが多いです。ニコンの現像ソフトはシャドーだけ上げることができるので重宝しています。あとはトーンカーブの調整くらいですね。

現像時の調整だけでも、自分の作るデータと別の人が作るデータはまったく違いますね。だから同じデータでも、10人いたら10人で違うと思います。

−−現像時の調整はフィルム時代にはできなかったことですね。

姫野:そうですね。デジタルですと、自分の作りたいものにもっと追い込める。商品撮影に関していえば、フィルムのときよりも精度は上がっていると思います。もし色がイメージと違っても後工程でとことん調整できますし。

−−フィルムの場合はシャッターを切る前のライティング勝負ですが、デジタルの場合は、後工程でもいろいろ追い込めるわけですね。

姫野:もちろん、現場でできることは現場ですべてやって。フィルム時代も今もそれは変わらないですけど、さらに後から追い込めるという感じです。

−−物撮りの場合、デジタルになって現場でのライティングは楽になりましたか。

姫野:最初の頃は苦労しましたね。というのは、フィルムでもっと後ろを飛ばしたいと思ったら、ライトをガンガン入れてやっと飛んだといった感じでしたが、デジタルですと、ちょっと飛ばしたいと思ったら、ライトだけでもうバーンと飛んじゃいます。レフ板だけでも飛びますね。特に初期の頃は。

デジタル自体のラチチュードが狭いんですね。デジタルデータは0〜255ですけれど、フィルムはもっと広いので、白く飛ばす場所を作ろうと思ったらかなり光を入れないと飛ばなかったんです。でもデジタルはラチチュードが狭いので、レフ1枚でもう真っ白。だから、ライティングでいえばハイライトコントロールが難しくなりました。

−−データが飛んでしまったら、もうなにもないわけですからね。

姫野:そこが大前提なんですよ。フィルムのときには紙白(かみじろ)まで飛ばすことは大変だったんです。紙白まで飛ばそうと思ったらかなり強いライトを入れて飛ばさないとフィルム上で「抜けた」感じにはならなかった。デジタルでは細かい調整は、ライトをコントロールするより、ソフトでコントロールしたほうが簡単です。

−−納品するときはレタッチもしますか。

姫野:基本はRAWデータの現像時の調整のみです。商品の多少の汚れゴミなどはおまけでレタッチしますが、大変な修正や物の色変換、合成は別作業料金をいただいています。

−−納品は現像したデータをすべて渡すのですか。

姫野:自分はある程度セレクトして渡します。人物撮影などで、目を瞑っているような絶対に使わないカットは外し、あとは自動処理で現像して渡します。

−−自動処理というのは現像時にパラメータの調整してバッチ処理で。

姫野:撮影シーンごとにバッチ処理をかけてTIFFで16ビットにはき出して、今度はPhotoshopでその16ビットをまたバッチかけます。

●使用機材について

−−姫野さんはずっとニコンをお使いとのことですが、中判デジタルは使っていないのですか。

姫野:3,300万画素のジナーの75Hを使っています。これは4ショットなんです。フェーズワンなどは全部1ショットですから35mmタイプと一緒で、演算でRGBを作っていきます。4ショットの場合はシャッターを4回切ります。R、B、Gを2回。4ショットでの撮影はヘタしたら床が揺れてもブレてしまいます。


この写真では3,300万画素のジナーの75Hを使っている。左右40cmの見開きデータ(クリックで拡大)

−−決まったときの画質は相当クオリティ高そうですね。

姫野:実データをRGBで撮るので、フェーズワンの4,500万画素より、実データとしては多くなります。だから自分は物撮りメインなので4ショットにしています。細かいディテールを必要とされる美術品などの撮影などにも使われているようです。

−−35mmタイプカメラだとアオリができるレンズが限られてますよね。

姫野:ジナーの75Hは4×5にも当然付けられます。ただ4×5はレンズが異常に高いんですよ。1本50万円とか。でも最低でも4、5本欲しいですよね。カメラのボディは80万ぐらいですが、レンズは、ちょっと前だと1本80万、100万したので手が出ません。そこで、フジの680でブレのテストを輸入代理店でしたことがあるんです。なんとかいけそうなので、ピントアオリのできる680で撮っています。

−−パースの補正はPhotoshopですか。

姫野:実際、パースの補正はPhotoshop上で直しています。昔はまず勘で伸ばして、縮んでいるのでちょっと縦を伸ばすかみたいな感じでやっていました。でも今はPhotoshopがレンズの演算をやってくれます。アオリは35mmタイプでもPhotoshop上でやりますし、ちょっと気になるものがあったらPhotoshop上で直しています。


▲パースの補正はPhotoshop上で直している。作例はDVDパッケージの下へのパースを垂直へ修正(クリックで拡大)

●データ管理法

−−データ管理はどうされていますか。RAWデータを保存しておくとストレージの容量はどんどん食いますよね。

姫野:自分の場合、Macを使っていますが、システムを2台用意し、外付けのハードディスクを4台使っています。一応RAIDにしています。どちらかがクラッシュしたらもう1つが立ち上がるようにしています。RAWデータをハードディスクAに入れて、TIFF納品データはハードディスクBに入れておくという感じです。それで、納品後のデータのバックアップもハードディスクCに残しています。

ハードディスクAが壊れるのが一番怖いので、本来なら外に2つ同じデータで取っておくのがベターですけどね。

友人の場合は、取材が多いので、まずRAWデータをコンピュータに落とします。次にセレクトしたRAWデータを外部のハードディスクにコピーします。それを現像やレタッチするので、大元のデータには触らないわけですね。

−−データ管理は人それぞれいろいろなアプローチがありますね。

姫野:RAWデータは最低2カ所に置く。それも違う本体につないであるストレージにですね。マザーボードがいかれたらおしまいですから。

−−デジタル時代は設備投資もなかなか大変ですね。

姫野:デジタルに関してはすごくお金を使っています。最初はデスクトップ型のG3から始まり、G4、G5と続いています。3年ごとぐらいに入れ替えていますけど、入れ替えざるを得ないですね。画素数も600万画素から1,200万画素、2,400万画素と上がってくれば、マシンの処理スピードを上げないことにはどうしようもない。

今の若いカメラマンが一番困ると思います。フィルム時代は今思うとそんなに高くなかったんですよね。35mmカメラの最高機種でも25万円くらいで「高い!」とか言っていたのですけれど、今は35mmタイプのいい機種は60万、70万円は必要です。だから若い人たちは、ニコンだとD30とかになってします。使いたい機材が買えないというのは一番困りますね。

−−デジタルカメラは感材費が掛からなくなって、安くなったというイメージがありましたけど、そんなことはないのですね。

姫野:昔はフィルム代という項目で感材費を請求できましたが、今はデータですから。でも作業は増えているので、本来なら現像代はいただきたいところです。でも、最初に誰かが「データだから感材費かからないからいいでしょ」とはじめて、それが蔓延しちゃった感じですね。

◀Mac2台の上にはストレージが置かれている(クリックで拡大)

●ディスプレイとカラーマネージメント

−−ディスプレイやカラーマネージメントに関してはいかがですか。

姫野:カラーマネージメントに関してはEIZOの液晶ディスプレイに準じています。

−−2台お使いですが、空の色はもうほとんど一緒の色でした。

姫野:いや、これとこれは色が違います(笑)。測って両方合わせているのですが色が微妙に違うんです。

−−やはり個体差は完全にはなくせないのでしょうか。

姫野:今使っているのは、6年前ぐらいに導入した、液晶でキャリブレーションできる第1弾なんです。それまでは、ナナオのブラウン管をモニタキャリブレーションしていました。電塾とかいろいろ調べて、やっぱりキャリブレーションは必要だなと思いました。

−−液晶ディスプレイは高品質になりました。

姫野:最低限、モニタのカラーキャリブレーションさえしっかりしていれば、あとはプロファイルの受け渡しです。sRGBでもAdobe RGBでもよいので、きちっと自分のデータを明確にすることです。

−−ありがとうございました。


※sRGB:
IEC(国際電気標準会議)が1998年10月に策定した色空間の国際標準規格。パソコンやディスプレイ、プリンタなど機器を問わず、同じ色を再現するための表現形式。sRGBはAdobe RGB(1998年に米アドビシステムズが策定)に比べて色空間が狭いため、ブルーからグリーンにかけての表現力はAdobe RGBに譲ると言われている。



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