・カメラマンにとっての3D CG基礎知識

・スチルカメラマンにとってのムービー撮影を考える

・プロカメラマンのための撮影データ管理術

・3ds Maxを用いた新時代写真術

・Capture One 徹底使いこなし術

・PCJライティング講座





カメラマンの世界でもデジタルデータ処理は当たり前の時代になったが、3D CGはどうだろう? 2Dではなく空間そのものをデジタルでイメージしていく写真家はまだ少数のように見受けられる。ここでは東京・渋谷にオフィスを構え、2Dツールはもちろん3D CGソフト「3ds Max」を駆使して、写真のさらなる高みを目指しているフォートンを訪ね、代表の甲斐彰氏やスタッフの方々に3D CGを用いた写真表現の必然性や方法論を聞いた。今回はひとまずの締めとなるPart3ということで、実際の広告ビジュアルの制作アプローチを解説していただいた。


Part 3:


3ds Maxによる広告制作の実例




▲3ds Max、Maxwell Render、Photoshopをシームレスに使いこなし、思い通りのビジュアルに仕上げていくレタッチャーの林俊之氏

フォートン株式会社
http://foton.jp/

retoucher
林 俊之



●取材協力:オートデスク株式会社
http://www.autodesk.co.jp/



●ヨコハマタイヤのビジュアルを3ds Maxで作る


▲ヨコハマタイヤの広告ビジュアルの例

▲ヨコハマタイヤの広告ビジュアルの例。こちらは右手前のタイヤを強調

▲フォートンオリジナルの日本刀のイメージ(クリックで拡大)



−−ではさっそく、3ds Maxを用いたビジュアルの制作の流れをご説明ください。

林:今回の作例は、ヨコハマタイヤさんが2010年のカタログの表紙やポスターに用いたビジュアルです。国内向けというよりグローバルな方向でヨコハマタイヤのアピールを狙いました。当社では静止画を手がけましたが、プロダクションIGさんが同コンセプトのムービーを制作されました。

−−キービジュアルがタイヤと武将で、戦国時代という感じですね。基本コンセプトはどのように決まったのでしょう。

林:基本は広告代理店さんからの提案です。ムービーの制作が先に動いていたので、武将のモデリングのベースを預かり、そこから静止画を作成する流れです。ムービーは、IGさんの得意とするアニメーション的な映像表現ですが、ADさんの意向もあり、当社ではフォトリアリスティックな表現を極めていきました。制作したビジュアルは2パターンです。


●3ds Maxで武将とタイヤの合成


▲3ds Maxで武者のキャラクターを編集(クリックで拡大)

▲同じく3ds MaxでタイヤのCADデータを取り込む(クリックで拡大)

▲同じく3ds Maxで編集中の武者(クリックで拡大)

−−作業手順などをお話しください。

林:まず、プロダクションIGさんから受け取った武将のモデリングデータを3ds Maxに取り込んで、そこにポーズをつけていきます。タイヤの部分に関してはヨコハマタイヤさんから実際のタイヤのブロックパターンのCADデータを預かって、それをぐるりと回転させてタイヤを3D化しています。まず武将の上半身とタイヤを合体する作業ですね。

−−IGさんからのデータにはポーズ付けのためのボーンは埋め込んであったのですか。

林:いえ、ボーンは当社で入れ直しています。IGさんは確かMayaでモデリングされているので、データをIGESとOBJという中間ファイルフォーマットで受け取りました。

−−では3ds Maxでのポーズ付けはほぼ最初からですね。

林:そうですね。ポーズをどうするかはその時点で決まっていなかったので、シミュレーションするためのボーンをまず入れています。

−−最終的なポーズの演出は、ラフがあったのですか。

林:アングルなどのイメージはある程度あって、そこから先の微調整です。どのくらいカメラをあおっていこうとか、手の振りをどうしようか、などの検討を行います。

−−いかにラフを超える仕上がりにしていけるかが勝負ですね。

林:そこからが当社の仕事という感じですね。素のモデリングの状態から、3ds Max上でテクスチャを貼り、質感をつけ、カメラアングルも決めて、その微調整の間に何度かADさんとやり取りをしています。

−−3ds Maxでの作業は、モデリングデータを合成してポーズをつけてレンダリングするということですか。

林:はい、最近の撮影と一緒です。3ds Max上での物撮りなども、Photoshopでレタッチして仕上げることを前提に行います。3ds Maxではカメラアングルをまったく変えないで、このライトを点けよう、消そうみたいなことができますので、レンダリングも納得いくまで何度も行います。

−−3ds Maxでレンダリングした武将のキャラクターがPhotoshopの素材になるわけですね。3ds Maxでの作業としてはここまでなのですか。

林:基本はそうですけれど、実際には修正などでPhotoshopと3ds Maxを何度も行ったり来たりします。3ds Maxのほうで何パターンか素材を作っておいて、Photoshopでちょっとテカリを加えるなど、そうなるともう3ds MaxもPhotoshopもシームレスな感じで使いこなしています。

−−ライティングは3ds MaxとPhotoshopのどちらで行うのですか。

林:そこは微妙なところですね。3ds Maxで詰めてしまう場合もありますけど、逆に3D CGではそこそこにしておいて、Photoshopで詰める場合もあります。キャラクターだけでなく背景に対する細かい調整もありますので、どちらが早いかとか、よりきれいに仕上げられるかで判断します。

例えば3ds Maxで撮りっ放しのキャラクターをPhotoshopで読み込みます。それで、パース感が弱いという話になった場合、Photoshop上で台形変形を適用します。

今回の作品は逆光の世界に黒い武将キャラがいるので正面が暗くなりがちですけど、やはり顔の部分やタイヤは逆光の中でも強調したいので、そのへんは悩みながら進みました。物撮りもそうなんですけど、写真を撮りっ放しだと広告の1枚の静止画としての完成度を、撮影だけでは詰めきれない部分が出てきますので、それをPhotoshopで仕上げていきます。


−−今回のビジュアルですと、メインの光は左からきていますが、武将やタイヤへのライトはスポットを当てたようなイメージですか。

林:基本は逆光、朝日がやや左から出ているみたいなことで、時間設定は朝方ですね。出陣前のイメージで作りました。逆光の中で商品を際立たせるため、Photoshopで前から別のライトを入れました。まさに演出ですね。

Photoshop上では写真全体を眺め、このハイライトは邪魔だなとか、そういう作業の詰めになってきます。中途半端なハイライトをちょっと抑えたりとかして絵を落ち着けていったり、逆にもう1段階立てていって、鎧としてのカッコよさを出したり、また余計なものを弱めたりとか。Photoshopで行うのはそういう微調整です。ここからはPhotoshopでやれるかなという読みをしつつ、3ds Maxでどこまで作り込んでおくかをその都度判断しています。


●質感設定にはMaxwell Renderも用いる


▲Maxwell Renderで質感設定を行う(クリックで拡大)

▲Photoshopで詰める(クリックで拡大)

▲Photoshopの左の設定による画像(クリックで拡大)

−−例えば鎧の質感ですが、皮なのか金属なのか分かりませんが、このへんの質感の出し方とか、網目とか、こういった質感を出すのは3ds Maxのマテリアルエディタを使用されているのですか。

林:ここは標準のレンダラーではなく、Maxwell Renderの質感設定を利用しています。

−−3ds Maxの標準機能だけではちょっと物足らない感じですか。

林:3ds Maxは標準的な表現をバランスよく押さえているのですが、もう1段上の表現を追い求めていくと、他のレンダラーが必要になってきますね。Maxwell Renderを追加することで静止画のテクスチャの表現はより深く実現できます。ただその分計算時間がかかってくるのですが(笑)。例えば「鎖かたびら」の部分には凹凸のバンプマップを貼っています。

−−汚れとかも入っていますね。

林:これもバンプマップで入れていますね。こういうちょっとした傷とか、ひものボコボコとかも入れてやっています。

−−傷などもPhotoshopで入れるのではなくて、モデリングの段階で入れているのですね。

林:これは入れていますね。そのほうがライティングも合ってくるので。

−−傷の入れ具合も芸が細かいです(笑)。

林:まだ出陣前でそんなにボロボロでもないだろうみたいなところもあって。過去に1回ぐらい出陣した感じですかね(笑)。

−−背景のボケ、被写界深度ですが、これもPhotoshopで出しているのですが。

林:そうですね。単にボカしすぎるとゴチャゴチャになってくるだけですし、かといって距離感は出したいというところでの判断です。

−−空は後から貼ったのですか。

林:はい。写真素材を用いています。アスファルトも写真をベースに使っています。

−−3ds Maxでなければここまでのビジュアル素材はできないとか、3D CGの中でも3ds Maxだからここまでいけたとか、そういう特徴的な機能はありますか。

林:3ds Maxはいろいろな機能が一通りなんでも揃っているところからスタートできるので、ありがたいですね。そこから例えばMaxwell Renderとか、どうしても必要なところをもう1段欲しければプラグインを追加することで拡張できます。


●オリジナルの日本刀の作例


▲3ds Maxで日本刀のモデリング(クリックで拡大)

▲Maxwell Renderで質感設定(クリックで拡大)

▲Photoshopで仕上げ(クリックで拡大)

−−刀の作例も簡単にご説明ください。これはモデリングからの制作ですか。

林:そうですね。CGのほうではある程度素材的なモデルまでしか作っていないんですけど。刀の資料写真とかを参考に細かく形の値とかは取って、あとはイメージでまとめました。

−−こういう、見た感じそんなに立体的でないものはグラフィックで処理できるような気がしますが、やはり3Dでモデリングする必要があるのですか。

林:実際にPhotoshopだけでゼロから作ることもできると思います。ただ、3D CGがベースとしてあると、光の感じやちょっとした立体感、パースなどの表現が自在になります。

正直、この刀の作例もどちらのソフトでも作れます。でも僕的にはPhotoshopと3ds Maxの垣根がないというか、もはや2つで1つの絵を作るためのツールぐらいに考えていますね。


−−ありがとうございました。



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