・カメラマンにとっての3D CG基礎知識

・スチルカメラマンにとってのムービー撮影を考える

・プロカメラマンのための撮影データ管理術

・3ds Maxを用いた新時代写真術

・Capture One 徹底使いこなし術

・PCJライティング講座







文:木村洋一(スタジオ・アズライト)
写真家/3D CGクリエイター
http://azurite.jp



この連載では3D CGに関する基本的な情報を数回に渡ってお届けしていく。現在、広告の世界では、特に自動車や家電などでは現物の物撮りよりも、3D CGによるビジュアルが広く使われるようになって きた。製品自体がいまやCADやCGで制作されているため、その設計データを利用した方が製品の完成を待たずにビジュアル化できるので、スピーディでありコスト的にも有利だからだ。3D CGはカメラマンの仕事と競合する面は確かにあるが、うまく共存するために、現代のカメラマンはその特性をよく理解していくことが求められている。
ここでは“もう1つの撮影装置”としての3D CGの現状を紹介していこう。




3D CGはカメラマンと無関係ではない

3D CGと写真との関係は、昨今の写真業界にとって大きな課題となってきている。

「フォトリアルな3D CGが、簡単に作れるようになったので、商品撮影などは、すべて3D CGに切り替えてしまえばコストダウンにつながる」。そんな声を時折聞く。はたして、これは本当なのだろうか?

3D CGの長所と短所、実写との違いなどを踏まえ、現実的に3D CGが、写真の代替としてどこまで普及する可能性があるのだろうか?

改めて3D CGとは何か?

2D CG(PhotoShopなどによる写真加工など)は、2D(平面)の実写画像の全体または、一部分に対し、色やトーンなどを変える特定の処理を行い、目的の画像を得る。3DCGでは、仮想の空間上にオブジェクトを配置し、質感や環境などを設定し、カメラからそのシーンがどのように見えるか、シミュレーションさせる。

目の前に見えている画像を非常に直感的に操作できる2D CGに対し、3D CGは、さまざまなパラメーターによるシミュレーション出力(レンダリング画像)結果を予測し操作する、経験と勘に頼った作業になる。バーチャル空間上での撮影のシミュレーションとも言われ、パラメーターと結果との因果関係は、実写に似ているところも多い。ならば、カメラマンには非常に有利なジャンルとなるはずだが、3D CGは業務とするには、非常にハードルの高いジャンルである。

3D CGは未開拓な部分を多く残すジャンルであり、セオリーが確立しきれていない要素を多く残しているからだ。製作者がワークフローや使いこなしを相当の工夫をして、やっとそれなりのクオリティを得る事が出来る様になる、そんな専門性を未だ強く残している。

さらに、実際筆者自身もそうであるが、カメラマンに依頼される3D CGの案件は、当然写真の代替としての品質を要求されることとなる。この写真の代替、つまりフォトリアルと言われるクオリティは、3D CGの中でも難易度の特に高いものであり、これが、実践的な生産性を難しくしている一因となっている。

3D CGの制作を、ソフト上での作業の流れに沿って説明しよう。

ステップの流れを列記すると・・・

・モデリング
オブジェクトの形状のアウトラインを3次元上のポイントなどで定義し、形状を作り配置する。粘土で形を作り出すような感覚に近い。細かく複雑な形状をすべて手作業でモデリングすることは困難であるため、さまざまな補助ツールが存在するが、結局かなり細かい作業の連続となる。カメラマンにとっては、最も慣れ難い工程となりがちだ。

・マテリアル設定
オブジェクトの表面の質感を設定する。色や明るさ、反射の具合や、表層の凹凸などさまざまな項目を、現実の素材などの特性を参考に、必要に応じて画像マップなども活用し、定義する。このマテリアル設定は、リアルな出力を得るために最も重要なポイントでもあり、製作者の力の差が結果に出やすいところだ。

・環境作り・ライティング
オブジェクトの周囲の環境や空などを設定し、必要であればライトを配置する。昨今普及してきたグローバルイルミネーションレンダラーでは、周囲の環境からの光の影響も正しく計算される。そのため、この環境光設定だけでもライティングが可能となる。ライティングが絵作りの雰囲気作りや、質感描写に非常に重要な点ではあるが、カメラマンであれば、実写の経験を元に比較的優位に作業を楽しめる領域だ。

・カメラ設定
シーン中にカメラの位置・アングルなどを設定する。焦点距離はもちろんのこと、時には被写界深度や焦点位置なども設定する。設定項目は実写とほぼ同じようになっていて理解しやすい。

・レンダリング
シーン中の光の振る舞いを、どのレベルまで正確に再現させるかを設定し、シミュレーション計算をさせる。当然フォトリアルと言われるレベルの質の高い結果を出す為には、長い処理時間が必要となり、その分調整は難しくなる。


●CINEMA 4Dによる作例から



▲CINEMA 4Dの作業ウインドウ(クリックで拡大)
具体的な例を、筆者自身も愛用し、さまざまな業務に活用しているCINEMA 4Dをベースに紹介する。このソフトは、メジャーな3D CGソフトの中でも、扱いやすさと、直感的なインターフェースを持つことで知られている。PhotoShopなどのアドビ製品ともインターフェイスが似ており、写真業界の人にも取っつきやすくお勧めできるソフトの代表である。



▲原板は640×480ピクセル、レンダリング時間は1秒以下。CINEMA 4D 標準レンダラーによる出力(クリックで拡大)
球体は、ワンクリックで呼び出せる形状の1つである、それをいくつか平面の上に配置しただけの簡単なシーンを用意した。そこへオブジェクトの色だけ設定、各種設定はデフォルトの状態、基本のライトを1つだけ設定し、レンダリングボタンを押した結果。この程度であれば、特に習熟していなくても1~2分ですべて設定が行え、レンダリングは1秒以下で完了する。しかし、現実感の乏しい、いわゆるCG臭い出力となる。3D CGソフトの多くは、計算時間を最小にするため、基本的な設定のままでは、このようなレンダリング出力結果となる。



▲原板は640×480ピクセル、レンダリング時間は約60秒。CINEMA 4D AdvanceRenderによる出力 チャンネル32bitで出力し、トーン特性を最適化する処理のみ行い8bit化している(クリックで拡大)
質感の設定(反射やそのボケ具合など)、ライティング(IBL・室内環境の画像を元にした環境光などによる照明)、レンダリング設定(GI・現実同様の複雑な光の振る舞いを再現する)などを、フォトリアルな出力が可能な設定に変更した。レンダリング時間は8cpuマシンで1分。形状は数秒で用意できる簡単なものであっても、質感設定・ライティング・レンダリング設定などにそれなりの設定を行わなくては、写真としてみられる実在感のある出力は得られない。その設定の多くは、少々複雑で、1つのスライダーで解決するような単純なものではない。



▲原板は1280×960ピクセル、レンダリング時間は約30分。CINEMA 4D AdvanceRenderによる出力 32bit->8bitの処理は先と同様(クリックで拡大)
球体と平面と言うシンプルなオブジェクトだけでも、少々アレンジして、このような画像も比較的容易(あくまでもシーンの制作作業時間として)に作れる。3D CGでの制作において、形状が単純でシンプルであることは、何よりも優位になる要因となる。しかし、ガラスのような透明体は、レンダリング時間が掛かる質感の代表で、この画像は30分を要した。

透明体は、その内部での屈折や、副次的な反射やそれによる影響なども計算する必要があり、処理時間が著しく増大する。この程度のサイズならよいが、これが非常に大きなサイズであったり、より複雑なシーンとなると、さらに長いレンダリング時間となり、作業効率を大幅に低下させる。オブジェクトの設定は簡単でも、計算時間が掛かり実践的に厳しいものも多くあるという例の1つだ。



▲原板は1280×960ピクセル、レンダリング時間は約31分。サードパーティ製レンダラーRedQueenを使用  32bit->8bitの処理は先の画像と同様のものとグロー処理を追加(クリックで拡大)
オブジェクト制作(モデリング)が、どの程度製作時間に影響するか? これはシンプルなインテリア室内シーン。単純な形状の組み合わせによるこの程度のシーンなら、1時間程度の作業で壁面や窓などの基本的な形状を作成することができる。



▲原板は1280×960ピクセル、レンダリング時間105分程度。サードパーティ製レンダラーRedQueenを使用  32bit->8bitの処理は先の画像と同様のものとグロー処理を追加(クリックで拡大)
複雑な細部の構造を持つ倉庫のような空間。少々細かいところは省略しているが、モデリングと質感設定などで1週間程度の制作時間を要する。単純に部品点数に見合った作業時間が必要になるわけで、そのボリュームによる作業時間の変化は、このように桁が2つ以上変わってしまうことも珍しくない。

工程のボリュームの変化が、シーンの複雑さや質感などに大きく影響される3D CGは、写真よりイラストレーションに近い側面を持つ。気軽に依頼された案件が、途方もない作業時間とコストに結びつくケースもありうる。この作業コストの見積もりこそ、3D CG案件の受注に伴う最も難しい点の1つだ。

いまだ3D CGと言う制作手段は意外に多くの弱点を持つ。業務として写真と代替となり得る質の3D CGの制作は、作成者のさまざまな工夫や、根気のいる作業の元に成立している。3D CGが決して何でも簡単にできてしまう魔法のツールではないことが理解いただけたかと思う。


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