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●道具について

−−今お二人がお使いのメインカメラ、サブカメラは何ですか。使われている理由も含めて教えてください。

湯浅:僕は、広告の物撮りはPhase Oneですね。デジタルバックを4×5に付けて、昔ながらの4×5と同じようにして撮るというスタイルでやっています。広告、雑誌の仕事でPhase Oneが使えないとか使うほどの状況でない場合は、キヤノンの1Dsがメインですね。

−−Phase Oneは何万画素ですか。

湯浅:45と25なので3,900万画素と2,200万画素の2機種を使っています。1Dsは2100万画素ぐらいでしたっけ。それと、小物を撮るときは7Dを使ったり、最近は取材ものにはニコンを持っていっています。今年からニコンにしました。

−−取材モノでニコンを使われる理由は何ですか。

湯浅:キヤノンでもニコンでもそうですけど、フルサイズとAPS-Cサイズの2つラインを持っていて、レンズもそれぞれ専用のレンズがあります。これは両方使えるといえば使えるんですけど。キヤノンは1Ds、5Dがフルサイズで、7DがAPS-C。取材系はAPS-Cの7Dで撮っていたんですけどあまりしっくりこなかった。そもそもキヤノンのAPS-C用の広角レンズがよくなかった。それで、同じレンズを2回も買ってやっぱりダメかということになって、シグマやタムロンも検討しましたが、ちょうどニコンのD7000が出て、シャッターのフィーリングがものすごくよかったんですね。押したときのシャッター音やフィーリング、カメラマンはやっぱりそういうのが大事ですよね。それが僕が5Dを使わない理由なんですよ。5Dの音とフィーリングが合わないから。

だから、すごく生意気っぽいんですけど1Dのほうが撮ってて気持ちいい。その感覚を味わいたいというのがあって、同じようにD7000はすごく撮ってて気持ちよかった。軽い点もよかった。それにレンズもキヤノンよりはよかったということもあって、取材系はニコンにしました。

ただニコンはスタジオ向きではないので、スタジオ撮影では相変わらずキヤノンの1Ds。これはものすごく出来がいいですね。

−−7Dは小物専用ですか。

湯浅:メインカットを撮った後に細部カットとか撮る必要がありますが、それを全部1Dsでやってるとけっこうピントも合わないし大変なので。

−−Phase Oneのボディは使っていないんですか。

湯浅:マミヤ製の方を持っています。

−−でも4×5で使ってとおっしゃっていましたよね。

湯浅:メインは物撮りなので、モデルを撮るときはマミヤのボディで撮っていますね。そっちの方もレンズ何本か持っているし。

−−モデルさんを撮るときは機動性重視ですか。

湯浅:でも最近は1Dsでは撮らなくなりましたね、連結だと待つ時間がすごく長いから。Phase Oneの方が待たないよね。

ヤギシタ:Capture Oneでつなげて撮るときですか。

湯浅:うん。1Dsは撮れちゃうからシャッター切るけれど、その後止まるからそこがね。でもPhase Oneはもともとのキャプチャーレートが遅いから止まらない。そんなに連射もできないし。

ヤギシタ:MacOSだとそうなんですよね。Boot CampでWindowsを立ち上げてやると、同じパソコンなのにどんな連射してもCapture Oneでいけますよ。5D Mark IIの場合ですけど、2200万画素でどんなに連射しても平気です。

湯浅:だけどバッファを使い切れば止まっちゃうでしょ?

ヤギシタ:いや、多分USBのスピードだと思うんですよ。だからどんなに連射してもいくらでも撮れて、それが止まらないんです。余裕があったらWindowsで試してみてください。

湯浅:Windows持ってないんですよね。


▲ヤギシタ氏の作品から「Test Shoot」(2011年)(クリックで拡大) ▲ヤギシタ氏の作品から「Test Shoot」(2011年)(クリックで拡大) ▲ヤギシタ氏の作品から「Test Shoot」(2011年)(クリックで拡大)



−−ヤギシタさんのカメラはいかがですか。

ヤギシタ:僕はメインは5D Mark IIです。デジタルバックはLeafの3,300万画素をPhase Oneボディで使っています。一番違うのは人間を撮ったときの発色ですね。僕の印象だと5D Mark IIは自分のイメージよりすごく黄色いんです。Leafで撮ったときは柔らかくて、ちょっとピンクがかっているスキントーンになる。

湯浅:フィルムっぽいよねえ。

ヤギシタ:ええ。いちいち後で全部色を調整しなくても、理想に近い色が最初から出てきます。自分の中ではLeafはフィルムで言うとEPPとかEPRみたいな。で、EOSがプロビアみたいなイメージですね。

−−Leafはヤギシタさんのリファレンスみたいな感じなんですね。

ヤギシタ:そうですね。それでも最近5D Mark IIで簡単にLeafっぽい色を出すようにする方法を一生懸命模索してるんですけど。

湯浅:なかなか同じにならないよね、何なんだろうね。

ヤギシタ:同じにはならないけど、同じになるように苦しむより、満足な5D Mark IIの色、満足なLeafの色というふうに割り切るほうがいいのかなと思い始めています。それぞれちょっと違うけどそれぞれ満足な色で。

−−5D Mark IIの色はいやではないんですね。

ヤギシタ:デフォルトで出てくる色は絶対許せないんですよ。グレースケールチャートでピッてホワイトを取ったときのスキントーンがダメなんですよ。

−−ちなみにモニタはどうされていますか。

ヤギシタ:モニタはナナオのCG243W。ハードウェアキャリブレーションが出来る24インチですね。メーカーから提供されているColorNavigator というアプリでキャリブレーションしますが、測定に使っているのは以前に購入したi1 Proという測定器です。

−−お二人とも撮影は連結で撮ることが多いんですか。

ヤギシタ:室内であればつなげています。屋外でも、Leafで背面液晶は確認しづらいので、電源が取れる場所であれば連結で撮ります。

湯浅:バックタイプでスタンドアロンは怖いですよね。ピントが合っているのかがよく分からない。ファインダーで分からない。分からないってことはないんだろうけど、ヤギシタさんよく合わせてるよね。

ヤギシタ:あれは最近また1つ技を覚えて。僕、シュナイダーの専用レンズで80mmと150mmを使っていますが、それ以外はハッセルの150と120マクロを使っています。ハッセルのレンズをマウントアダプタを付けて使っているんです。で、半押しにして動かすと、ピントが合ったところでピッて鳴るんですよ。

湯浅:フォーカスエイドが付いてるからね。それがないと分からないね。

ヤギシタ:ええ。それでやるとくるんですけど、ファインダーで見ていてここだと思って撮ると全部奥ピンですね。構図を決めたままファインダーでフォーカス合わせられますよね。それでシャッターを切ると全部奥ピンですね、僕の場合(笑)。

湯浅:まあ、ピント合わないですね。

−−でも物撮りの場合はピントはどうですか。

湯浅:それでもこないんじゃない? で、解決はしないんじゃないの、結局は。ヤギシタさんはよくマニュアルでやってるよね。

ヤギシタ:開けてピント合わせて絞り込んでシャッター切ってみたいな(笑)。

湯浅:オレその話聞いて、久しぶりにヤギシタさんみたいにハッセルのレンズ出して使ってみようかなと思って物撮りで使ったら、うわ使いにくいって。物撮りでだよ(笑)。これはかなわんと思いましたね。

−−ヤギシタさんはそれをモデルで(笑)。

湯浅:でもハッセルの150mmのレンズは写りはいいですよね。すごく柔らかくて独特の感じ。

ヤギシタ:ある程度の柔らかさはいいんですけど、それを越えるとスコーンって急にフレアになっちゃって、もうライティングは直せないと、そのまま80mmで撮って、後でトリミングとか修正ですね。

湯浅:シュナイダーの80mmはシャープさはどうですか。

ヤギシタ:ちゃんとシャープな分はシャープです。解像度的な部分はシャープなんだけど、Leafとの組み合わせなので、コントラスト的な部分は柔らかいという印象です。

−−その組み合わせの妙があるんですかね。

ヤギシタ:ええ。すごく好きですね。

湯浅:現像はCapture Oneで?

ヤギシタ:Capture Oneだけですよ。

湯浅:Leafだけど、Capture Oneで現像するんだ。取り込みもCapture Oneで連結して。何でLeafのソフトを使わないの?

ヤギシタ:僕がチェックしたところだとLeaf CaptureよりCapture Oneの方が上位互換的な感じです。要はLeaf Captureでできることは全部Capture Oneでできるし、出てくる色も同じなんですよ。販売店で違うって言われたんでテストしたんですよ。そしたらカメラのLeafポートレートとかプロダクトとかプロファイルが3つ4つあって、同じのを選べば同じ色でしたね(注:Leaf Captureをインストールしたマシンでは、Leaf Captureと同じICCプロファイルがCapture Oneでも選択できますので、同じ発色で現像できます)。

湯浅:どうしてもCapture Oneのほうがシャープで硬いみたいな言い方をされますよね。それがいやで使いにくいんだけどLeafを使ってるっていう人多いです。Leafを選ぶ人ってモデル撮りの人が圧倒的なんですよね。そこらへんがそんなに違うものなのかなあって興味があります。

−−Leafを選ぶ人にモデル撮りが多いのは何故ですか。

ヤギシタ:コントラスト、柔らかさじゃないですか。

湯浅:すごくフィルムライクって言いますよね。その代わり物撮りの人はPhase Oneを選ぶんですよ。やっぱりカッチリとします。

−−そういう意味ではハードウェアに関してはお二人とも自分のイメージにしたがったものが手に入れられていて、特に不満足な点はないですか。

ヤギシタ:さっきお話した、5D Mark IIの色がLeafみたいになれば楽だなというのはあります。

湯浅:そんなこと言ったらニコンなんか全然違うよ。もう洒落になんない、本当に。

ヤギシタ:でもニコン使ってますね(笑)。

湯浅:ニコンで物撮りはしないから。だから取材専用になっているんだよね。

−−ニコンの現像は何でされているんですか。

湯浅:Nikon Capture NX2は使わないので、結局Capture OneかLightroomです。楽をしたいときはLightroomで、もう少しこだわりたいときはCapture Oneです。でもそれでも色はダメですね。

−−自分の思うところにいかない?

湯浅:難しいですね。ニコンは好みにならないですね。キヤノンもどれだけ自分好みかというと微妙ですが、まだ許せるかなという範囲なんですね。

Phase Oneはほとんど広告の物撮りでしか使っていないので、モデル撮りだとまた違うんだろうなという気はします。

−−撮影道具としては、湯浅さんはPhase Oneが、ヤギシタさんはLeafがリファレンスになっているんですね。だからデジタル一眼に不満も出てという感じなのでしょうか。

ヤギシタ:正直Leafを買う前よりも、5D Mark IIの色に対する不満は大きくなったところはありますね。

湯浅:確かにそうですよね。そういう新たな世界を知ってしまったから、今までの写真をなんとなく不満に思ってしまう。

ヤギシタ:比べるとね。

湯浅:そうなんだよね、知らなきゃよかったですね。世の中には知らない幸せってありますからね。


▲ヤギシタ氏の作品から「Test Shoot」(2010年)(クリックで拡大) ▲ヤギシタ氏の作品から「Test Shoot」(2011年)(クリックで拡大)



●現像ソフトと作家性

−−現像ソフトに関して何か言い足りないことはありますか。

ヤギシタ:僕はメインがCapture Oneです。この前Lightroomを買って試しで少しは使っていますけど、急ぎのときはCapture Oneですね。

湯浅:慣れがありますしね。

ヤギシタ:そうですね。一時期、試用版などを全部試したんです。そこでたまたまそのタイミングのバージョンを比べたら、写真を選択した後にモザイク状からきれいに見えるまで時間が、その当時はCapture Oneが一番速かったんですよ。そこからずっとCapture Oneを使っています。

湯浅:Capture Oneは本当にいいソフトになりましたよねえ。

−−湯浅さんは両方使っていますよね。本当はどちらが好きなんですか(笑)。

湯浅:いや、両方好きですよ。ケースバイケースですよね。その仕事は何を重要視するのかで選んだりします。だけど、実際やってみたけどうまくいかなくて他の現像ソフトを使うということはよくあります。

−−意図した写真ならこっちで現像かなと思ったら、そうじゃなくてこっちだったみたいな?

湯浅:うん。一生懸命それでなんとかしようと思っていろんなことやって。だけど、現像ソフトを替えたほうが早いんですよね。全然違う結果になるから。だから、僕はそうしちゃいますね。純正ソフトもたまに使いますし。

ムービーはデータで色を見るという話があるけれど、多分写真屋ってそういうのを要求していないんだろうなと思う。見た目の、しっくりくるかこないかっていうフィーリング感。さっき言ったように、シャッターを押したときの感覚と同じような、すごく言葉に表しにくい動物的な直感を写真屋は重要視するんじゃないかなという気がするんですよね。だから、色の抜けだとか締まりとか、数字にならないような表現を要求してしまう。それは昔違う現像液を使っていたのと同じなんですよね。

−−現像液が現像ソフトになった

湯浅:うん、まったくそうです。

−−個人個人の仕上がりイメージの落としどころが作家性になって現れるわけでしょうから。銀塩フィルムの時代は、フジの何々を使うかコダックの何々を使うかみたいなことで、自分の好みのフィルムが決まったらそこで固定されてしまいましたね。でも今はそこもけっこう自由なので、個人の感性で落としていくしかないのかなと思うんです。

湯浅:蜷川実花さんがアグファを使っていたとか、昔からあったんでしょうね。今でもライカのあの感じがいいという人もいらっしゃいますし、こだわる人にはあるんだろうなという。その最たるものがLeafとPhase Oneなんだろうという気がしますね。

−−フィルムの違いがCCDの違いになっているということでしょうか。

湯浅:どうしても同じにできないのが不思議ですよ。ほぼ同じ傘下なのに、同じ現像ソフトでやっていて同じにならないんですよ。Phase OneをLeafの色にするって多分できないんじゃないのかなという気がするぐらい。できたら面白いですよね。

ヤギシタ:今度試しましょう。

湯浅:でも確かに言われてみればフィルムっぽいのかなっていう。僕、過去に何度かLeafのテストをしてるんですけど、そう言われてみればそうだろうなっていう。

−−お二人とも今は銀塩は使ってないんですか。

ヤギシタ:使っていないですね。

湯浅:使えば面白いとは思うけど、そんなに暇じゃないですよね。ある程度お金と時間があるんだったらすごくいい趣味だろうなって。仕事はホントここ数年フィルムではキツイんじゃないですかねえ。

−−もうクライアントが受け取れないですよね。結局フィルムで撮っても、スキャンしてデータでくれという話になります。

湯浅:フォトグラファー、写真家はこだわってプリントしましたって出すだろうけど、結局どこかでスキャニングしますよね。

ヤギシタ:ただ、原版があれば印刷する工程で「原版に忠実に」って言えばポジに忠実にで済んでいたものが、今はないじゃないですか。なんだか知らないけど編集やデザイナーが勝手にいじって、すごく変な色になってることとかよくあるなあ。「表紙、なんでこんな色になっちゃったんですかね?」って聞いたら「表紙をうちで頑張って色調整したんですけどね、おかしいですね」って言ってました(笑)。

湯浅:余計なことすんなよ。

ヤギシタ:でも印刷でいうと、表紙だけPPコートがかかるので、なんだか暗いというか色がおかしいってよくありませんか。

湯浅:PPは昔から沈むので、印刷で調整しているはずなんですよね。

ヤギシタ:なんで同じ色にできないんだろうっていうことが多々ある。

湯浅:でも表紙だからちゃんと色校出しているでしょう。

−−でもそれこそ原版がないから、編集もデザイナーも分からないんですよ。本当に転びやすい色に関しては分からないです。編集もデザイナーもディスプレイはカラーキャリブレーションとかしていませんから。そこでも見え方が違います。

湯浅:印刷屋さんも単に刷るだけの時代になったからねえ。なかなか難しい時代ですわ。

−−カメラマンさんによってはインクジェットでプリントアウトして原版代わりにする人はいます。

湯浅:それは当然やっているんだけど。

−−色校の修正は今はもうデザイナーの仕事です。DTPの時代は。そこでデザイナーさんがどこまで忠実に直せるかですね。

湯浅:けどデザイナーだってそんなのやってられないですよね。修正とかもデザイナーがやってますもんね。それは無理ですよ、もはや。

−−DTPになってデザイナーの負荷が一番上がったんですね。

湯浅:撮影もやりますっていうデザイナーもいる。


▲ヤギシタ氏の作品から、雑誌「アームズマガジン」横山ルリカ (2011年)(クリックで拡大) ▲ヤギシタ氏の作品から、雑誌「LUSSW」 KEN (2009年)(クリックで拡大) ▲ヤギシタ氏の作品から、ショートムービー「始業ベルがなる前に」(2010年)(クリックで拡大)



●若い世代の動向

−−最後に今後の若手に対して、アドバイスがあればお願いします。

湯浅:そもそも若手はカメラマンになりたいなんて誰も思ってないんじゃないですかね。写真家にはなりたいけど、雑誌のプレゼントコーナーの写真を撮りたいなんて誰も思ってないです。僕たちは、そこからでもいいから写真を撮ってカメラマンになりたいと思っていたけど、若い子はそんなふうに思わないんじゃないかな。生活もできてるしね。就職しなくてもいいって言う親もいるぐらいだし、ホント豊かなんですよね。気に入った職業をやってくれればいいっていうような状況に日本はなっているので。

−−若い人はお金を持っていないけれど、その分親が持っている。

湯浅:お金がなくてもそれをなんとも思ってないんですよね。貧乏を。僕たちの時代はものすごいステレオタイプで、カメラマンはカッコイイしポルシェ乗ってるしみたいなものはあったけど、今の若い子にそういうのはあまりないんじゃないかな。

ヤギシタ:執着がないんですよね。だからクルマの免許を持っていない。別にいいクルマにも乗りたくないし。

湯浅:クルマの免許を持ってないでカメラマンになるってどういうことだよって話だよね。あり得ないよね。

カメラマンってずっと昔から欲望の塊だったんだろうなあという気がするんですよ。いいカメラ、というかいいクルマに乗っていい女連れて、いいモノ食ってみたいな。すごくそういう時代だったと思うんです。僕たちはそういうのを見てきたし。でも今はそういうものを求めてないような気がする。

−−今40歳以上の人たちは六本木に事務所を持ってポルシェに乗ってと、そこを目指して頑張ったのがあると思うんですが、今の若い人たちはそこに価値を置いていない。いわゆる草食系なのかもしれませんが、でもカッコイイ写真とかファッション系などを撮りたい人は多い気がします。

湯浅:撮りたいけど、それでお金を稼ぎたいとかにはならないのかな。撮って写真を発表していきたい。それがお金になってくれればそれが一番いいだろうなっていう感覚なのかな。

−−作家指向なんですね。

湯浅:それを作家といえばそうなんでしょうね。突き詰めていくと、多分タダでもいいから載せてというカメラマンが出てきていると思う。某ファッション誌なんかもそうだったと思うんですけど、自分の作品を発表したい。「じゃあタダでうちの雑誌やってみる?」みたいな。雑誌のほうも経費削減したいというニーズと合致してくるから、カメラマンはタダみたいな。そういうのがひょっとして出てきちゃったりだと大変だよね。いや、もう出てきちゃってるんだろうな。もしくはカメラマン自身がWebマガジンとか雑誌を作っちゃう動きですね。

自分の作品を発表するための媒体を出すというのもありなんだろうって。現にすごくファッションが好きな子は、自分で編集長を語りながら記事も書いて、取材もして写真も撮って作ってしまう。こういうのはもうすでに出ているので。

−−ZINEとかいろいろありますよね。でもそれはプロスキルなのかというか、鍛えられていないのでマスターべション的なところがありますよね。

湯浅:それで満足なんでしょうね。経済として成り立っていかなくても、自分を買ってくれる少数の人たちがいるということが非常に嬉しい。だからテレビに出てチヤホヤされるとかいうことを目指すのではなくて、すごく小さなところでもてはやされるようなのを目指してという価値観なのかな。

−−昔のスタジオマンはすごく大変でしたよね。食事時になるとメニューを持ってきて「ご飯どうしますか」なんて配膳までやって。今はスタジオも減ってきて、そういうインフラが少なくなってきていますよね。いわゆるプロカメラマンが育つ土壌が減ってきている印象はあります。

湯浅:いや、そういう下積みをしてプロカメラマンになるということ自体がもう崩壊してるんですよ。ヤギシタくんの時代から崩壊している。いきなりカメラマンになっていいんです。才能1つで、それが可能になったのがデジタルの写真なんだろうし、写真っていうメディアなんだろうなって思います。

−−ヤギシタさんは先生に付かれましたけども、そういう徒弟制度も今はなくなっているんですか。

ヤギシタ:あるといえばあるんでしょうけど、それがすべてではないということでしょうね。昔からあったスタイルなのかもしれないし、アメリカあたりでもあったと思うんですけど、いろいろな先生に付くのを目指している方もいらっしゃいますね。1人の先生に5年、10年付いて、サードから始まってセカンド、ファーストになって、それをのぼっていくのが古いアシスタントなんだけど、そうではなくて1年ぐらいでいろいろな先生に付いてみたいという人もいますね。

湯浅:僕もそうしたい。それはいいなと思いますよね。

ヤギシタ:でも雇う側からしたらずっと同じ人を使いたいじゃないですか。

湯浅:ただ、ずっと同じアシスタントを使うと、その人の将来とかがかかってくる、それは今は背負いきれなくなってきているというところもあって、1年、2年という契約でどんどん入れ替えていくカメラマンも増えてるんじゃないかなあと思いますね。あんまり長くいられても給料上げられないし。

ある著名な写真家が募集したっていうこと自体で僕はもう愕然としますよ。

ヤギシタ:だからそれが若い人の特色っていうか、言われないとできないみたいな。そういうことなんじゃないですか。

湯浅:というか、そういう著名な写真家を知らないらしいよ、若い人。

ヤギシタ:そっちですか(笑)。

−−話は尽きませんが時間です。ありがとうございました。



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