●PCJ Interview
・File10 酒匂オサム
・File09 P.M.Ken

・File08 高木こずえ
・File07 太田拓実
・File06 鈴木心
・File05 青山裕企
・File04 小山泰介
・File03 奥本昭久
・File02 常盤響
・File01 辻佐織

●Company File
・File08 アドビ システムズ
・File07 富士フイルム
・File06 駒村商会
・File05 ジナー
・File04 ハッセルブラッド
・File03 シグマ
・File02 フェーズワン
・File01 ライカ

●Overseas Photographers
・File08 Michael Kenna
・File07 Todd McLellan
・File06 Mona Kuhn
・File05 Diana Scheunemann
・File04 Albert Watson
・File03 Nick Meek
・File02 Rankin
・File01 Ron van Dongen

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▲Photoshopを用いて、グリーンの地色に黒の網版を載せて写真を表現している(クリックで拡大)

▲この作品もPhotoshopでCMYKに4版分解し、活版印刷の雰囲気で再構成されている(クリックで拡大)

▲同じく、Photoshopでより粗い4色の網版で構成。誇張されたグラビア印刷を見ているようだ(クリックで拡大)



●今でもフィルムが基準

−−銀塩時代のカメラマンさんは、自分の表現のベースとして、特定のフィルムを基準にしていましたが、デジタルになるとそういった基準がないわけです。そこであえて、自分の基準をどう設けるかが作家性として問われるところですよね。

常盤:そうですね。実は僕の基準はまだフィルムなんです。

僕はRAW現像は基本的にLightroomでやっています。LightroomでTIFFに出して、Photoshopでレタッチをして、フィニッシュします。そういったワークフローの中で色を作るとき、自分が昔使っていたフィルムをいくつか想定しています。

−−具体的には何でしょうか。

常盤:基本的にはコダックのE100のVSというデイライトのフィルムです。だから、タングステンになるときは色が変わってもいいし、タングステンのときはタングステンぽい感じになればいいなと思っています。もちろんそればかりじゃなく仕事によってちょっと変えるときもあります。

−−常盤さんの写真には、まだまだフィルムが根っこにあるわけですね。

常盤:ありますね。だから、色をそうやってタングステンの適に戻すときにも、じゃあそのE100にフィルターかけた感じの色に戻そうというような発想があるかもしれないですね。どうしても。

−−それはフィルムの持つ色なり粒子感の風合いが、常盤さんにとって気持ちがいいということですか。

常盤:そうですね。粒子に関しては、デジタルで出す場合には僕は使わないんです。ただポスターなどの印刷物のときはけっこう使います。デジタルのノイズが出るのがイヤなときにPhotoshopなどでいわゆるフィルムの粒子感を出せば、粗くてもみんないいと思ってくれます。ギザギザのデジタルのドット感が出ちゃうと「粗い」と思うんだけど、フィルムの粒子の粗さは許容範囲なんですよね。

−−今回のLightroomにはその粒子感が加わりましたね。

常盤:アドビのソフトにも、ぜひもっと粒子とフィルムのシミュレーションを追求してほしいと思っています。僕はPhotoshop以外にも、現像やレンズの色収差補正ができるソフトを使っているのですが、それにフィルムの色と粒子のシミュレーターが付いているんです。コダックのエクタクロームの何、フジのプロビア400、アグファの何とか。モノクロはイルフォードの800とか。そのシミュレーションが確かに頷けるレベルの再現性なんです。

−−なるほど。

常盤:細かい粒子とちょっと大きい粒子を混在させて、いろいろなフィルムの持つ粒子のクセ、特性を再現する。例えば、フジのネオパンの400の感じだとか。そういう機能があると現在まだフィルムにこだわっているユーザー層をもっと取り込めると思います。

しかも、クロス現像も、かなりシミュレーションどおりにできます。色は例えばフジのプロビアの50。でも粒子は、モノクロのフィルムの粒子っていうことが可能です。しかも全部スライドバーで調整できる。

Photoshopでも粒子のスライドありますよね。でも今使っているソフトは35㎜、66、67、4×5という間も取れるんです。だから、これは35㎜のキヤノンの5Dで撮ってるんだけど、フジの4×5で撮った粒子と色をシミュレーションした仕上げができるんです。

実は音楽の世界は完全にそうなっていて、古いエフェクター、真空管のものとかには全部それのシミュレーターがあって、アナログのシンセイサイザーもある。しかも今はレコーダーやテープもあるんです。スコッチの何のテープだと、テープのヒスノイズが入る。汚い音になるんですけど、それが欲しいとか。テープエコーなども昔のメーカーの各機種の特徴を再現しています。

−−デジタルシミュレーションがパラメータ設定だけでなく、実際の過去の録音機材の型番まで落とし込まれているのですね。

常盤:僕はそれが意外と今後肝心なことなのかもしれないなと思っています。年配の人がデジタルを買うときに、それってすごくあるんじゃないかなとか思うんですよね。

−−Lightroomの粒子の機能もそういうユーザーからのリクエストがたくさんあって入れたということです。特にアメリカの新聞のざらつき感のある昔のスチルの雰囲気を復元したかったということですね。

常盤:アドビソフトのラインナップって音楽のソフトにすごい近い部分がある気がするんですね。音楽のソフトの感覚。ようするにレコーディングがあって、しかも昔はレコーディングだったんだけど、そこにホールの鳴りとか音像でどこにマイクをつなげているかというのは、全部、いわゆるコンピュータの中で、いかに耳に聞こえるものを全部シミュレーションできる。

−−そうですね。

常盤:そして今度は目に見えるものをどうシミュレーションするか。それがすべてじゃないですか。印刷物、例えばいわゆる文字組が美しいものから、絵が美しいものから、それかWebなのか3Dなのか、映像なのか。これまでずっと未来のことだけを話していたのですけれど、過去の資産、遺産をどう使うかがもっと重要視されてくると思います。

−−懐古趣味でなく。

常盤:写真がアナログだった時代は100年以上もあるので、その時代にいろいろ考えたことや蓄積されてきたことを使わないのはもったいない。デジタルカメラが一般化するようになってまだ10年少々の話なわけですから。

−−そうなんですよね。

常盤:だから写真はアナログ時代も合わせて考えた方がいいんじゃないかな。




▲2009年のニューヨークでの作品から(クリックで拡大)

▲同じく。2009年のニューヨークでの作品から(クリックで拡大)


▲同じく(クリックで拡大)



●アナログの資産や手法をデジタルに生かす

−−写真にしても音楽にしても、デジタルにおけるアナログシミュレーションのプリセットは、前向きではないなという印象があったんですけども、逆に過去の資産を現代表現に生かすという考え方もありなんですね。

常盤:フィルムにはいろいろなメーカーがあっていろいろなフィルムをみんなこだわりを持って使っていました。何故かというと、そこに唯一無二の価値があったからです。

ですから今後、プリセットをそのまま使う人もいればちょっと変える人もいる。そういうことがもっと出てきてもいいのかなと思いますね。

僕にはいかに無駄なことをやっていくかが大切なんですね。最近デザインでも、今までIllustratorで行っていた作業を、Photoshopにタブレットをつないでやっています。タブレットに定規を置いて、線を引いています(笑)。

−−(笑)。

常盤:それはすごく無駄な時間なんですけど、デザインを始める前に、考える前にシミュレーションする。学生の頃、線を引くの下手だったんで、すごく時間がかかったんです。時間がかかっているんだけど、その間にいろいろ考えるんですね。

昔、例えばちょっと頑張っていい定規を買ったり、ロットリングのいいやつ買ったりとか、文具を買うの楽しかったけれど、最近文具を買わないなあと思い、文房具屋さん行って定規買ったりT定規買ったりとかしていますが、それも楽しいなと(笑)。

だから、Photoshopで雲形定規で線引いて、文字でロゴ作って。ベジェ曲線を使わないので時間かかるんだけどとか、塗つぶつしツールを使わないであえて塗って、はみ出さないように塗るとか。はみ出さないように塗るってしてなかったなーみたいな(笑)。

−−デジタルをアナログ画材にしてしまっている感で、それは新しいアプローチですよね。ハードウェア、ソフトウェアが十分に進化して、デジタルの方がアナログよりもワークスペースとして広くなったのかもしれません。

常盤:そうです、そうです。僕はすごくアナログが好きだったし、逆にデジタルが進歩してよくなったから、そういう感じで使ってもいいんじゃないかなと。

だからデジタルになったから全部デジタルで行う必要もないし、でもアナログにこだわる必要もない。やっと最近思ったことが、全部コンピュータで作りたければ作れるようになったし、そうじゃないアプローチもできるんだということになってきましたね。

−−デジタルが不自由ではなくなってきた。少し前はデジタルには限界があって不自由でしたよね。ようは脳内にあるイメージをどうアウトプットするか。ここが自在になってきた。

常盤:そう、そうなんです。僕は古いタイプなのかもしれないですけど、手を動かしているとアイデアが浮かぶんですよね。

PhotoshopはCS5になって、そういう要素はどんどん増えているような気はします。そういう要素というのは、いわゆる加工するものというよりは、作る人のものという感じがより強まっていますよね。ペインティング機能にしてもパペットツールにしても、加工機能というよりも、モノを作っていく道具に近いのかなと思います。

−−すべて自分でやらなければならなくなってしまった反面、Photoshopのようなツールを使うことで、自分がいろいろな役割を担当するエキスパートになれるというのは楽しくないですか。

常盤:僕はどちらかというと昔は、人と共同作業をしているときも、自分1人で全部最初っから最後までやりたい派だったんですよね。だからこそ、他の人と仕事をすると新しい発見があったりとかしたんですけど。

ただお恥ずかしい話、僕自身はレタッチでも使う機能はルーチンのように決まっていて、マニュアルも読まずに分かってるところだけを使っています。だからたまに若い人のところに行って「あれ、今何やったの? 何やったらこうなったの?」みたいなことがあるんですよ(笑)。「ああ、俺すごく遠回りな方法でやってたなあ」。いつの間にこんな機能付いたんだみたいな。

Photoshopもそういった意味では空気のような存在で、常に自分のMacで立ち上がっているものでしたから、今回CS5を使ってみていろいろ刷新されていてすごく衝撃的でした。

−−Photoshop自体、デザインツール、レタッチツールを超えた大きな意味合いでのグラフィックツールに成長してきた感じがします。

常盤:そうですね、最近の周りの写真のプロの人たちといろいろ話していて、本当に今写真はすごく難しい場所に立たされているとみんな実感しています。今は簡単な写真だったら、誰でも撮れますから、特別な何かがないと仕事を頼んでもらえないんですよ(笑)。
作り手側は、これからは写真だけでもダメだし、映像だけでもダメ。ムービーのディレクションもできなきゃならないし、ムービーを実際撮る必要もある。今、CMなどで使っているカメラは、普通にスチルで使うカメラと同じですからね。

今映像チームから僕にクリエイティブディレクターをやってほしいと言われていて、だから映像も見なきゃならなくなるので、今後はアドビ内連携みたいな感じがもっとシームレスになるとうれしいですね(笑)。



●これからのPhotoshopに望むこと

−−最後にPhotoshopに対するリクエストはありますか。

常盤:やはりプリントですね。印刷でなければできないことって実はけっこうあるんです。

印刷に関してはPhotoshopなのか、それともInDesignとかIllustoraterが担当するのか、それはよく分からないんですけど、いずれにしても、実際の印刷の現場で蓄積されたノウハウをもっと取り込んでほしい。

僕がずっと頼んでいた印刷所のプリンティングディレクターの人はとっくに定年になっていて、それなのにその後も何度も仕事をお願いしているのですが、印刷技術は個人に帰するところがあって、本当に難しい。

例えば、ある著名カメラマンの写真集のデザインをしたとき、70年代初頭に撮った4×5のフィルムはほとんどもう色が抜けてるんですよ。空なんて真っ白になっているんですね。でも、そのプリンティングディレクターは「この写真家の72年の青空はこの色」と出してくれるわけですよ。それはもうねえ、なかなか学べるものじゃない。

あとはインクジェットプリンタでも活版ぽく刷れるとか、あるいは凹版とか平版とか網線の感じとかまでシミュレーションしてくれるといいですね。

Photoshopのフィルターのピクセレートの中のカラーハーフトーンってありますよね。僕はいつもそれじゃなくて、CMYKを4色に分解してから、1色ごとに別のファイルにして、それぞれの色版をモノクロ2階調のデータにするときに、ハーフトーンスクリーンで解像度やトーンの角度などを調整して、最終的にもう一度それぞれを4色に振り分けて1枚のデータに戻すなんてことをしています。昔の印刷のような版ずれもこうすればいい具合で表現できますし、それだけでプリントアウトしたときの仕上がりが全然違うんですよね、見え方が。面倒くさいんですけど、Photoshopでは一番それを使っているかもしれません(笑)。

−−常盤さんは活動自体がイラスト、デザイン、写真、ムービーとシームレスですから、すごくいろいろな要素を含んでいるというか、Photoshopを使う上でのアイデアの種みたいなのがたくさんあるお話をいただけました。ありがとうございました。


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