●PCJ Interview
・File10 酒匂オサム
・File09 P.M.Ken

・File08 高木こずえ
・File07 太田拓実
・File06 鈴木心
・File05 青山裕企
・File04 小山泰介
・File03 奥本昭久
・File02 常盤響
・File01 辻佐織

●Company File
・File08 アドビ システムズ
・File07 富士フイルム
・File06 駒村商会
・File05 ジナー
・File04 ハッセルブラッド
・File03 シグマ
・File02 フェーズワン
・File01 ライカ

●Overseas Photographers
・File08 Michael Kenna
・File07 Todd McLellan
・File06 Mona Kuhn
・File05 Diana Scheunemann
・File04 Albert Watson
・File03 Nick Meek
・File02 Rankin
・File01 Ron van Dongen
銀塩もデジタルも、グラフィックも3Dもムービーも、
ビジュアル表現がクロスオーバーしていく!


辻 佐織 / AERIE

ここでは第一線で活躍されている写真家にご登場いただき、カメラマンになったきっかけから、現在の活動、変革期にある写真の道具、そしてご自身の写真を語っていただく。第1回目は広告を中心に活躍されている辻佐織さんを訪ねた


辻 佐織 / AERIE

1971年札幌生まれ。1999年よりフリーに。広告を中心に雑誌、CDジャケットなど幅広い分野で活躍。主な仕事にキューピー、TOSHIBA、サントリーの広告などがある。写真集「SLOW LIFE TRAVELER」(プチグラパブリッシング刊)。2002年、2004年ADC賞受賞。
取材協力:アドビ システムズ 株式会社

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▲サントリー「akadama SWEET WINE」1997.12.24掲載
X'mas広告10段(クリックで拡大)


▲キューピーの広告「Kitchen Circus」(クリックで拡大)


▲2003年の作品「Flower」(クリックで拡大)



●20歳で札幌から上京

−−写真家としての最初のキャリアは、スタジオマンからのスタートですね。

辻:札幌の美術系短大を卒業後、1992年に東京に出てきました。当時はカメラマンになろうとは思っていませんでした。単純にカタカナ仕事に憧れていたと思います(笑)。

−−クリエイター系の仕事の中で、自分に最適な職種を選びきれていなかったのですか?

辻:そうですね、若い頃はどんな職種があるかも分かりませんでした。短大では染色、平面構成、彫塑、写真など幅広く学びました。当時はイラストもデザインも好きでスタイリストにも憧れていました。そこでイラストの学校に入学しようと思い上京したのですが、その学校は試験ではなく、くじ引きだったんです。ところがそのくじ引きにハズレてしまい入学できませんでした。ただ、上京することだけは決めていました。

札幌にいた当時のバイト先の社長が、鯨森惣七さんというもともと東京で広告などのお仕事に携わっていたクリエイターの方で、鯨森さんにくじ引きに外れたと話したら、「お前、写真がいいから写真でいけ」と言ってくれたんです(笑)。短大での作品をいろいろ見てもらっていたので、その中で何かあったのかも知れません。

そこで、「何人か紹介してやるから会ってこい」みたいな感じで、東京で活躍されてるクリエイターの方に面会するチャンスをいただきました。今考えるとすごくありがたいなと思います。そして写真をやるならスタジオマンの仕事があるとアドバイスをいただき、今はもうないのですが、恵比寿にあった「スタジオエス」というスタジオで働き始めました。20歳か21歳の頃ですね。

−−短大を出てスタジオマンになられたわけですね。

辻:その頃は公募展に興味があり、「写真新世紀」で私も賞をいただきました。1996年には1970年代生まれの女性カメラマンのブームに乗って「シャッター&ラブ」という写真集が売れた時期で、私の写真も載ることになりました。

今思うに、自由に作品撮りをしていた時期ですね。そのような流れの中で、2年間スタジオマンを経験し、2、3年フリーでロケーションアシスタントを勤め、個人のアシスタントに4年付いてから独立しました。

−−1995年頃は、今第一線で活躍されている女性カメラマンが一気にデビューされた時期ですね。

辻:その写真集に載っていた大半のカメラマンの方達は、35ミリでバシバシ撮ってるような感じでしたが、私はハッセルやローライ、4×5などしっかりフォーカス合わせて撮るという作風で、少し浮き気味でした(笑)。みんなわりとポップで元気な写真を撮っていたのですが、私は静かな写真が多かったと思います。ところがその写真集を見たサントリー宣伝部のアートディレクターの高井薫さん(現サン・アド/アートディレクター)から、いきなり新聞15段のサントリー「赤玉スイートワイン」の90周年アニバーサリー広告の仕事をいただいて、それがプロとしての最初のスタートになりました。高井さんも冒険だったと思います。

−−札幌で「写真でいけ」と言った鯨森さんは、慧眼がありましたね(笑)。

辻:あの言葉がなかったらカメラマンになっていなかったんだと思うんですよね。しかも「それを鵜呑みにするあなたもすごいね」みたいなことをみんなに言われて(笑)。本当にあのときは純粋だったので、それしかないっと思い込んでました。

その頃にデッサン学校で知り合った札幌時代の仲間が、広告代理店、プロダクションに就職し、後々一緒に仕事をできたってことは面白いなと思います。

−−スタジオマン時代の2年間でカメラマンとしての基礎体力はかなり身に付いたのではないですか。

辻:そうですね、下積みでしたね。テクニック面もそうですけど、ほぼ人間勉強でした。さらにその後のロケアシと、個人のアシスタントに付いたのは本当に勉強になりました。

−−昔は個人のアシスタントって報酬は食事のみという話もありましたが、そういう厳しい徒弟関係でしたか。

辻:私が師事していたのは広告系カメラマンの小林敏伸氏です。仕事はほぼ広告中心で、雑誌のエディトリアルの仕事も撮影されていました。カメラマンのアシスタントは黒子に徹する仕事なので、逃げ場がありません。すべて師匠のスケジュールに合わせて自分のプライベートな時間もなくなるような仕事ですから。

ただその分逆に、アシスタント時期に自分の世界を深められた気がします。小林さんがカメラや暗室を快く貸してくれて、そこで自分の写真を焼いているときに「ここだけが純粋に私の世界だな」と思っていました。田舎に帰りたくても北海道は遠かったですし、自分を見失いがちでした。どの分野でもアシスタントは友達に会う時間もなかなかないものです。だから暗室での作業によって自分の核となる部分に触れられたのではないかと、振り返ると思いますね。

−−師匠の方向性と、辻さん個人のやりたいことは必ずしも一致しませんよね。そういうときでも師匠の表現をサポートするのがアシスタントだと思います。そういった状況で、自分の表現欲求は逆に高まるものなのですか。例えばライティングにしても「こうして」と言われたときに、「自分だったらこうしてみたら面白いかな」など思ったりしますか?

辻:そういうのは常に考えていました(笑)。独立してすぐは師匠のセンスに引っ張られますが、アシスタントの頃から自分の好きな方向性を意識することによって、自分の作風に抜け出せるスピードが早まるのではないかと思います。受け身だけだと師匠と似たような写真になってしまう人が多いと思うし、安心してそれがベストだと認識しがちなので。

私は自分の好きなものを常に意識していました。アシスタントの頃に小林さんも含め、第一線で働かれている方たちとお仕事させていただいたことは、その後の仕事に対する美意識、何が美しくて何が強いのかという物事への眼差しはすごく勉強になりました。アングルにしてもレンズ選びにしてもそうです。

●写真表現の引き出しとアプローチ

−−辻さんの広告の仕事を拝見すると、グラフィカルな感覚の写真も多いですね。辻さんを語る上でのキーワードとしてはスローライフ、ロハス、エコ指向というようなものが根底にあるように感じます。

辻:自分が好きで撮りに行くときは自然が多いです。海外にもよく行くんですが、だいたい都市部じゃなくて僻地好きなんですよね(笑)。作品自体もわりと自然が多いし土着的なものが多くなる。その土地の持っているエネルギーや人々にとても興味があります。

私自身も初めての場所だとまっさらになりますし。オーガニックなものは基本的に好きです。

本当に何年か前まで、人から「エコカメラマン(笑)」と言われるぐらい「エコ」と付くプロジェクトを撮影する機会が多かったですね。今は広告として「エコ」が一般に浸透しましたね。

−−個人と仕事の作風の境界線は意識されますか。

辻:微妙ですね。重なっているところもあるけど、どうだろう。個人で撮るものも、そのときそのときの感覚で毎回変わりますし、昔の作品を見ていただいて仕事の依頼が来ることもあります。個人と仕事は重なっている部分が多い方かも知れませんが...。

ただ、広告は1つのイメージビジュアルで商品が売れたり、コンセプトに乗ってクリエイター同士がコラボレーションしていくことに醍醐味があります。関わっているたくさんの人が喜んでくれることがベストですけれど、個人の作品を撮るときはそこは完全に意識していません。そういう点ではどちらも表現として深いので特にストレスもなく、バランスがとれているかもしれないですね。

−−広告で得意なジャンルの撮影はなんですか。

私の広告写真は、自然光で撮っているような柔らかいイメージがあると思いますけど、人物や物撮りなどスタジオ撮影も多いので、なんでも撮りますね。たぶん、あまり尖りすぎていない優しい写真だと思っている人が多いと思います。広告って基本的には万人にウケなくちゃいけない面もあるので、どうしてもエッジはなくなっていくからそういうふうに思われることが多いです。でも、ファッション的な撮影をするときは、もっと違う世界観が自分の中にはあります。

−−そういった意味で引き出しは多いですね。

辻:何を撮影しても自分の写真だし、被写体に関しても多いほうが楽しいと思っています。

−−女性カメラマンは、作家性といいますか、自分のテイストを追求される方が多いと思いますけれど、辻さんの場合、プロとして引き出しをたくさん持っていたいと考えるほうですか。

辻:引き出しは多いほうが面白いと思っています。女性カメラマンはセンスだけで撮る人が多いイメージがありますね。そういう意味では、それだけでは物足りないと思ってるほうです。最近はみなさんテクニックもあるし、後でPhotoshopで絵を描くようなノリで仕上げていく人も多いので、ライティングで世界観を詰めるのか、後処理で詰めるのかにもよって、表現テクニックも多様化してきていますね。


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