このコラムでは、毎回1人のイラストレーター、絵師の皆様に旬の作品を見せていただき、その作品作りのきっかけ、コンセプト、世界観、制作テクニックなどを語っていただきます。リレーコラムですので、掲載クリエイターには次の方にバトンを渡していただきます。
柳智之:1984年兵庫県生まれ。2008年桑沢デザイン研究所卒業。イラストレーター。 http://yanagitomoyuki.com/
●ギフト・ショーの展示にイラストを絡める試み
東京ビッグサイトで開かれる「ギフト・ショー」というイベントがある。そこでアンティークの家具屋のプロモーションで使う絵の依頼をいただいた。モノクロの人物の絵を描き、それを等身大より少し小さ目ぐらいに拡大して家具の中に紛れ込ませるというアイデアの依頼である。
僕としてはかなり珍しい仕事だ。正直どうなるのか想像できなかった、が、故にとても興味深く思い、引き受けさせていただくことにした。
デザイナーからは、一昔前のイメージで芸術家たちが集まる賑やかなパーティーを想像させたいとのことで、何度かやり取りをしつつイメージを膨らませていった。
●使用ツール
インク、Gペン
●線の味にこだわった紙版画手法
ほとんどの人は坐っているので極端なデフォルメを抑えるため自分の中で「床、椅子、机」の高さを決めてそれに合わせて描くことにした。ここからは一番右端に配置させられることになる人物の絵を中心に絵の描き方の説明をしていきたいと思う。
・ラフから下描きまで
ラフが図1になる。線画の場合、ラフに気合いを入れすぎると本番で描く気持ちがそがれるのでこの段階ではイメージが出来る程度に、できるだけ力を入れずに描くことにしている。かといって力を抜きすぎると相手をガッカリさせてしまう上にNGが出るので要注意である(ちなみにこのラフもぎりぎりだと思う)。
次にサインペンで本番用の絵の下描きを描く。この時点で思いきり描く(図2)。あまり小さく描くと拡大した時に線が太くなりすぎるので今回はA3サイズで描くことに統一した。
これをスキャンして2枚プリントアウトする(図3)。
・紙版画的アプローチ
下が透けて見える薄い紙の下に1枚、上にも一枚配置してそれぞれマスキングテープで固定する(図4)。上に置いたコピーは紙版画として使い、下に置いたコピーは透けた線をなぞるように描く。紙版画とは一方の紙にインクで絵を描いて乾く前にもう一方の紙に押し付けて描く方法である(僕が勝手にそう呼んでいる)。
今回は仮に足の方だけ再現しようと思う。紙版画を施した状態が図5になる。そこに透けて見える下のコピーの絵をなぞるように描いた線を合わせると図6のようになる。これを続けていくと完成する(図7)。
いつもこの描き方をしているわけではないのだけど、今回は拡大した時に線の味が一番出る方法がこれだと思ったのでこの描き方を採用した。また線だけだと軽くなりすぎると思ったので他の人物を含めた全体のバランスを考慮しつつ適度に黒い面を入れていった。
次回は大橋裕之さんの予定です。
(2015年10月28日更新)