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このコラムでは、毎回1人のイラストレーター、絵師の皆様に旬の作品を見せていただき、その作品作りのきっかけ、コンセプト、世界観、制作テクニックなどを語っていただきます。リレーコラムですので、掲載クリエイターには次の方にバトンを渡していただきます。

Illustrator FILE 10:森泉岳土

『カフカの「城」他三篇』装画

森泉岳土(もりいずみ・たけひと):絵の作家。水で描き、そこに墨を落とし、細かいところは爪楊枝や割り箸を使って漫画を描く。著作に「カフカの『城』他三篇」(河出書房新社)、「祈りと署名」「夜よる傍に」「耳は忘れない」(KADOKAWAエンターブレイン)、「夜のほどろ」(BCCKS)がある。

●イラストのテーマと手法

●短編集の表紙イラスト
『カフカの「城」他三篇』は、カフカの「城」、漱石の「こころ」より‘先生と私’、ポーの「盗まれた手紙」、ドストエフスキーの「鰐」を各16ページのマンガにした短編集だ。

はじめは各話のコマをコラージュして表紙にするのも面白いかもしれないというアイデアがあったが、編集者さんから「表4まであるような大きな一枚絵も良いんじゃないでしょうか」と提案があり、描きおろすことなった。

とはいえ「城」そのものの世界を描くだけではおもしろくないし、他の3篇の存在が薄らいでしまう。かといって、すべての話をコラージュして一枚絵にするのもためらわれた。それぞれの世界観が違いすぎるからだ。そこで「『城』をイメージさせるような不思議な町並み」ということで落ち着いた。

ラフを描いて編集者さんに見せると、細かい町並みが帯で隠れてしまうので、下の部分を足してほしいとのことで要望があり、そのようにした。

僕はもともと水で描いて、そこに墨を落とし、細かいところは爪楊枝と割りばしを使って描いている。その様子は写真を参考にしていただきたい(A)。写真で描いている絵は今回の装画ではなく別の絵にはなるが、描きかたとしてはおおむねこの通りである。

●使用ツール
水、墨、 爪楊枝、割り箸

(A)写真提供:季刊エス。水で描いている


墨を落としている


爪楊枝で描く


割りばしで描く

●パソコンを使って仕上げる

(B)4倍のサイズで描き、スキャンしてパソコンに取り込む

(C)完成した原稿

●4倍のサイズで描く
この描き方だと、墨が走るくらいたんまりと水を使って描くので、実は細い線が描けない。あまりにも太くなるので、絵そのものは縦2倍、横2倍、つまり4倍のサイズで描く。たとえば10センチ×10センチのコマを描くためには、20センチ×20センチのコマを描く必要があるのだ。

それをスキャニングしてパソコンに取り込み、1/4のサイズに縮小する。その作業をしてはじめて、絵として、自分の希望する線(の太さ)が出るということになる。 しかし4倍のサイズで描くということは、大きな絵を描くためにはいくつかのパーツに分解して描かなければならないということだ(僕はB4サイズの画用紙を使っている)。

それに加えて、たとえば背景と、その手前に人物がいるとなると、やはり分けて描かなければならない。なぜならば、まとめて描いてしまうと、なにしろ「水」なので、背景と人物の線が溶け合ってしまい、一体化してしまうからだ。かくして、執筆した原稿は(B)のようになる。そしてそれをパソコン上で組み立てて、1つの絵にするというわけだ。執筆自体はアナログで「絵を描いている」のだが、仕上げでパソコンを使っているときは「工作している」という感覚がいちばん近い。

●完成イラスト
時間も手間もかかるが、今のところ僕の思い描く絵を描こうとすると、この方法がいちばん描きやすいし、実際描いていて(そして工作をしていて)とても楽しい。完成した原稿は(C)となる。僕は幼いころ「お絵かき教室」に通っていたのだが(とっても楽しかった)、「三つ子の魂」ではないが、基本的にやっていることはその延長だ。

実は、この装画は、僕の描きたいように描かせてもらっただけで、タイトルをどこにどう入れる――といった詳しい話を、編集者さんとも装丁のセキネシンイチさんとはほとんどしていなかった。というのも、セキネさんならあとからなんとかしてくれるだろうと安心していたからなのだが、思った以上に素敵に仕上げてくれた(ありがとうございます)。彩色も含めてセキネさんがいくつか装丁のプランを出してくれたものを、僕が選ばせてもらった。

次回は惣田紗希さんの予定です。

(2015年8月24日更新)

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