このコラムでは、毎回1人のイラストレーター、絵師の皆様に旬の作品を見せていただき、その作品作りのきっかけ、コンセプト、世界観、制作テクニックなどを語っていただきます。リレーコラムですので、掲載クリエイターには次の方にバトンを渡していただきます。
目黒雅也:東京・西荻窪出身のイラストレーター。日大芸術学部にて安西水丸に師事。枡目組としても活動(歌人枡野浩一氏とのコンビ)。13回TIS公募入選。洞窟オジさん装丁。
http://masayameguro.tumblr.com/
●仕事内容
2015年8月~10月の仕事。小学館文庫「洞窟オジさん」装丁制作。装丁すべて(タイトル文字含めて)が手描き、デザイナーに納品データ制作を依頼。
●編集者との打ち合わせ
文庫化される前の新書版と、それに加筆されドラマ化をされるとのことで加筆部分にも目を通してからラフを制作。それらを読むのにゆっくり読んで2、3日かかった。
ラフは鉛筆(またはペン)描きからアイデアをイメージして簡単に着彩したものを10パターンほど用意して編集者と打ち合わせ。実際には10案のうち半分は捨て案で2、3点が(自分の中での)候補、おすすめは1点に絞られている。今回は編集者との息が合いすぐに狙いの2点に絞られた(画像:ラフスケッチ1)。
ストーリーは両親に虐待されていた著者の加村一馬が犬のシロ(後から追いかけてきた)と13歳で家出、以来足尾銅山の洞窟からスタートして住居を転々としながら俗世間と離れたサバイバル生活を43年間続け、警察に保護されて現在に至るというもので、文庫、ドラマ共に少年期、青年期、壮年期から現在までえがかれている(NHKBSプレミアムで放送されたリリーフランキー主演のドラマ「洞窟おじさん」は文化庁芸術祭テレビ・ドラマ部門で大賞を受賞)。
少年期の愛らしいシロとのエピソードが主軸と考え案が絞られたが、最終選考の2案は主人公の加村少年が洞窟の中からこちらを見ているか、あるいはこちらから洞窟の中を見ているかという点が検討され、暗い洞窟へ向かう少年の孤独感と下部の俗世間の人びとの絵で社会の厳しさや疎外感を表現できる点が認められ第一希望案に決定された。
群衆の表情は様々で滑稽さや優しさを見いだすこともでき、加村少年に寄り添うシロ、背景の白抜きも悲愴感が出すぎることへの歯止めとなっている
(画像:ラフスケッチ2)。
●使用ツール
紙(水張り)、鉛筆、丸ペン、顔彩、カラーインク、カラーペン。
●制作にあたり心がけたこと
・(ストーリーの)内容をすべて描きすぎないこと
・部分的にスポットライトを当てすぎないこと
・見る者の想像力を喚起すること
・絵の中に隙(構成でいうと余白や抜け)があること、あるいは空間の広がりを表現すること
・線が硬くならないこと(平常心で描く)
●原画制作行程
原画制作作業はラフにあまり気を取られないよう鉛筆で軽い輪郭をつけ、丸ペンで線を描き、顔彩やカラーインク、カラーペンで仕上げる。タイトル文字は手描き袋文字が採用された。これも絵と同様にペンで線画を描き顔彩で彩色。シンプルな工程だが筆に含ませる水分の量や線を引くときの心持を大切に無理に一度に仕上げず集中が切れたら中断することもある。
線を引く速度が速くなりすぎないように、また描きすぎないことも心掛けている。仕上がりまですべての工程が手作業でスキャンしてデータ納品。
このような仕事に関わることはイラストレーターの幸せだと思う。絵の個性をアピールするよりもまず文面をよく理解し与えられた制約を自分なりに集約設定し、編集者が分かりやすい形でバリエーションを提案するが、必ずおすすめを提示するというのがぼくの仕事の流れのパターンになっている。
(c)洞窟オジさん/小学館。
次回は MARI MARI MARCHさんの予定です。
(2016年2月10日更新)