このコラムでは、毎回1人のイラストレーター、絵師の皆様に旬の作品を見せていただき、その作品作りのきっかけ、コンセプト、世界観、制作テクニックなどを語っていただきます。リレーコラムですので、掲載クリエイターには次の方にバトンを渡していただきます。
MARI MARI MARCH:1985年、千葉県市川市生まれ、東京都中野区在住のイラストレーター。イラストレーターズ通信会員。あたたかみのある、かわいい(ときどき、ちょっぴりおもしろい)イラストレーションで、挿絵・マンガ・イラストコラムなど、書籍やWEBを中心に活動中。著書に絵本「ジャミちゃん」(シロクマ社)。
http://www.marimarimarch.com/
●きっかけ
普段はアナログ(アクリル絵の具を使用)と半デジタル(手描きの線にパソコンで色をつける)の2つのタッチを使い分けているイラストレーターです。絵本は昔から好きで、いつかは自分の絵本を出してみたいと思っていました。
絵本を出すきっかけもイラストのお仕事から。
以前イラストマンガのお仕事(「おからスーパーレシピ」辰巳出版。おからを食べて健康的に痩せよう! という内容の体験マンガで、1ヶ月間おから食べまくりました)をした際に、編集プロダクションの担当Nさんと仲よくなり(厳密には打ち上げの飲みの席でラーメンズの話で盛り上がったあたりから心を開きあった気がする)、また元々売り込みで作品ファイルを見ていただいていたので、絵本風のアナログタッチを知ってくれていたこともあり、そのお仕事から半年ほど過ぎた頃に「絵本をつくろう!」というお話をいただきました。
●打ち合わせから構想
2014年の冬ごろにお話をいただき、企画がスタート。
最初からがっちりスケジュールを組むことはなく、はじめのうちは一緒に本屋さんで絵本を読みあさったり、ごはんを食べながら「こんな話にしたいねー」という案出しをしたり。そのころ別のお仕事でバタバタしていたこともあり、「落ち着いた頃にラフを出してください」ということで、2015年の夏ごろにラフを出すことになりました。
絵本の題材に選んだ「ジャミちゃん」は、わたしが学生のころから描いていたキャラクター。短いお話もつくっていたので、そこに肉付けをして絵本にしていくことにしました。
絵本の大きさは210×210mm、ページ数は32ページ。このあたりは実地調査(持ちやすさ読みやすさなど、お子さんのいる方にアンケートをとったり、本屋さんで調べたり)を元に決めました。
なにせわたしもNさんもシロクマ社さんも絵本出版は初なので、分からないことだらけ。本当はハードカバーを角丸にして安全なつくりにしたかったけれど予算の都合上なしに…。
●ラフ出し
勉強のためにと先人たちの素晴らしい絵本を読みあさったことで考え過ぎてスランプに陥り、オロオロと無為な時間をたくさん過ごしたあと、ある日ふっと立ち直ってラフを描きはじめました。
普段からラフをしっかり描くほうなので、ラフの段階と本番がほとんど変わりません。特に今回は「好きなようにしていいよ」と言っていただいていたので、ラフからの直しもほとんどありませんでした。大きさや位置を微調整したことと、見開きページのジャミちゃんが道を走っていく場面をどうするか最後まで決めかねていたので、ここだけラフが本当にものすごーくラフです(写真1)。
ラフを元に本番のフォントで文字組みをしていただいたので、修正してほしいところを細かく伝えます。リズミカルにたのしく読んでもらいたいと思っていたので、フォントの大きさもところどころ大きくしたり小さくしたり、希望を伝えて形にしていきました(写真2)。
文字組みが決定したところで、そこに合わせて微調整をしつつ本番の制作に入ります。
●手順1
アナログイラストを描く
まずアナログのイラストを描きます。木製パネルにモデリングペーストを塗って地をつくった上に、アクリル絵の具でキャラクターの基本形を描いていきます。制作日数との兼ね合いで、すべてアナログで描くことは難しいと判断したので、これをスキャンしてカラーパレット的なものをつくっていきます(写真3)。
●手順2
線画を仕上げる
ラフを元に、画用紙に本番の線画を描いていきます。トレース台を使っているので、ラフとほぼ変わらないものが出来あがります。本番は思い描いた通りに&きれいに描くことに集中したいので、表情研究もラフの段階できっちり考えて決めておきます。
●手順3
仕上げ
スキャンして取り込んだ線画をPhotoshopで整えていきます。鉛筆のざらっと感を残しつつ、くっきり濃いめに仕上げます。バラバラのイラストをそれぞれのページに配置して、色塗りスタート。
手順1でつくったアナログの基本色や同じ手法で作った色のデータを切り貼りするようなイメージで塗っていきます。(Photoshopの効果を駆使して全部デジタルでやってもいいのだろうけど…このひと手間は単なる作者のこだわりです)。
色塗りのレイヤーの上に線画のデータを配置して乗算します。ほっぺや手足の赤みは、色塗りと線画の間のレイヤーで作っていきます(写真4)。
納品したデータを確認してもらって、不備があったところ(表紙だけなぜかRGBの解像度300dpiで作っていた…CMYKの350dpiが正解です)を修正して完了です。イラストの納品締切は10月末でした(写真5:道のページはこんな感じに仕上がりました)。
●手順4
完成へ
わたしが手を動かす作業はほぼ終わったので、あとは編集Nさんとのやり取りです。納品したデータに文字が入った完成データを確認させてもらいます。奥付や背表紙のフォントやあしらいも細かく調整していただいて、11月中旬に入稿。
11月末には色校正(写真6)が届いたのでチェックして、あとは出版を待つのみ!(と言いつつ12月のあたまはNさんと一緒に書店営業に行ったり宣伝活動をしていました)(写真7:書店営業で配ったPOP)。
「クリスマスプレゼントに間に合わせたい」という当初の予定通り、2015年12月18日、晴れて完成。
●使用ツール
えんぴつ、画用紙、アクリル絵の具、木製パネル、モデリングペースト、Photoshop。
●さいごに
イラストレーターとしても人間としてもまだまだ至らぬところばかりのわたしが絵本をつくるという素敵な経験をさせてもらえたこと、とても感謝しています。わたしは売り込みも下手くそですし、賞歴もほとんどありません。誇りはあるけれど自信があまりないので、いつもへらへらとしてしまい、そんな自分に落ち込む日も少なくはありません。
ですから、絵本をつくることにつながったのは、作品がとても素晴らしくて! というわけではなく、おそらく担当のNさんがわたしのことをおもしろがってくれたことがきっかけなんじゃないかと思います。
決しておもしろおかしい人間というわけではないのですが、むかし若気の至りで某所に応募した目もあてられぬ程に痛々しいコミックエッセイ(墓場まで持って行くつもりでいた…)をNさんには見せていたことや、ラーメンズの話で盛り上がったこと、前述のへらへらしてしまうくだり(道化を演じてしまうときがある云々)を共感してもらえたことなど、なんとなく「こいつおもしろそう」と思ってもらえたのではないかと思うのです(本人に確認していないのでちがうかもしれないけど)。
だから、えらそうなことは言えないのですが、これからイラストレーターや絵本作家を目指す方に、なにかひとつお話するとすれば、お仕事は人と人のつながりなのだなぁということです。
雑談も、一緒に飲食することも大事だし、時には赤っ恥エピソードも役立つかもしれない…。いい人に出会って、いいお仕事にめぐりあえるように、好きなことも恥ずかしいこともたくさん経験して、己の肥やしとしていくことが大切なのかなぁと思います(写真8:先日小学校に読み聞かせをしにいってきました)。
次回は松沢タカコさんの予定です。
(2016年3月28日更新)