このコラムでは、毎回1人のイラストレーター、絵師の皆様に旬の作品を見せていただき、その作品作りのきっかけ、コンセプト、世界観、制作テクニックなどを語っていただきます。リレーコラムですので、掲載クリエイターには次の方にバトンを渡していただきます。
工藤慈子(くどうやすこ):球美主義(キュビズム)と称して丸で絵を描いたり、文字をつなげて切る切文字を作ったりしています。第7回TIS公募展入選 第23回HBギャラリー仲條正義賞など。イラストレーターズ通信会員。
http://marudarake.blog.fc2.com/
●切文字とは
切文字は、文章、または言葉をすべてつなげて1枚の紙のまま切抜き、レース様に表したもの。十数年前からなんとなく工藤慈子が開始。長文で難解な言葉であればあるほど、読解も困難なため、作品が大きいほど判読不能となるが、当人は気に入っている小さな技術の塊。
2016年3月にGALLERY DAZZLEにて、切文字による個展を開催しました。工藤慈子個展「耳なし芳一のはなしー球美主義外伝―」。
個展なので、枚数制限も大きさの制限もなく、とにかくそれぞれの作品を自由に作ることを念頭に、小泉八雲の「耳なし芳一のはなし」を全文つなげて切り抜きました。なお、訳は戸川明三氏のもので、著作権は切れています。
「切文字」とは、簡単にいえば文字の切り絵です。ここでは、どのように作っているのかをお伝えしたいと思います(完成作品1、2)。
●使用ツール
鉛筆、水性ボールペン、サインペン、修正テープ、クロッキー帳、カッタ―台、デザインカッター、セロテープ、コピー用紙、タント紙など、湿布。
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●1. 文章の塊を考える・形を考える
今回、耳なし芳一の話を切文字作品にするに当たって、最初に決めたのは「囚われない」ことでした。章に囚われない、センテンスに囚われない、なんとなく持っていた印象に囚われないこと。それを念頭に文章をどんな形にして切り抜くかを考えます。文字のつながった塊はインパクトが強いので、思い浮かんだものを単純な形にするのも、今回特に気にかけたことでした。
●2. アウトラインを書いて中を文字で埋めていく
1とほぼ同時に行っていることですが、人型、琵琶型、涙型など、この形にしようと決めたら、中を文字で埋めていきます。これくらいかな? と、なんとなく埋めていってばっちり決まることもたまにありますが、うまくいかない時は文章の文字数を数えて、型がその文字数になるよう桝を作り文字を埋めていきます。ものすごく地道な作業で忍耐力が試されます。ドツボにハマってうまくいかない時は、一旦諦めて次の塊に向います。もしくは寝ます(図1、2)。
形を決めないで縦書き横書き、斜め、渦巻きなどにただ書いてつなげていくこともあります。絵を入れることもあります(図3)。
●3. 上下左右をつなげる
2でただ書いた文章のそれぞれの文字の、横棒縦棒払いなどに合わせて、上下左右斜めの接触している文字をつなげていきます。この時に隣り合う文字が自然に多くつながっていくと気分がいいです。
●4. 文字に肉付けをする
切る状態と同じものをここで作ります。線だけの文字に肉付けをして、中をサインペンで塗ります。3の時点でつなげられなかった隣同士も、太くすることによってくっつくので、難なくつながります。たまにくっつけ忘れて、切っている最中につながっていなかった部分が取れてしまうことがあるので、文字数の多い塊の時は要注意です(図4)。
●5. コピーを取る
切り抜くためにコピーを取ります。一緒に展示する作品が複数あって下書きの大きさがまちまちな場合や、出来上がりの大きさを考えて、ここで縮小または拡大コピーをすることもあります。
●6. 切り抜く紙にコピーを貼る
切り抜く紙(タント紙)にコピーした下書きをセロテープで貼り付けます。貼る前に文字と文字の隙間の大きいところを切抜き、ところどころに穴をあけます。切っている時に本紙と下書きがずれて動かないようにテープで止めておくための穴です。
●7.切り抜く
デザインカッターで、下書きをなぞるようにして2枚一緒に切り抜きます。カッタ―の刃が鋭いうちに丸いところや細かい部分を先に抜いてしまいます。端から抜いていくと袖などに引っ掛かって端からめくれてしまうことがあるので、真ん中から端へ、と切り抜くことが多いです。全部切り抜いたら下書きと本紙を外します。A4程度でひらがなが多いものだと1日~2日程度、A3程度で漢字だらけだと5~7日程度かかります。切り抜くのが一番好きな作業です。
●8. 整える
細かい部分の切り抜いた紙が取りきれていないか、そもそも切り抜き忘れたところがないか、白い紙を敷いてチェックし、気になる部分を整えていきます。
●9. 貼る
切り抜いたものを裏返してスプレー糊で台紙に貼り付けます。形がいびつなものは端と端がくっつきやすいので注意します。
●10. 完成
切文字作品だけでは文章が分からないため、Word文書も作ります。展示の時は来場者用に配付用文書を置いていました。でもお越しいただいた皆さん、けっこう頑張って作品を読んでくれていました。作品ファイルには印刷した作品の隣にWord文書を入れています。切文字とWord文書を並べて完成です。
●1日の作業後に
切文字作業は文字をつなげるにしても、切り抜くにしても、大変右手右腕に負担をかけるため、湿布を右手中指、右手の甲から肩にかけて5枚ほど貼って寝ます。これがけっこう大事です。
耳なし芳一の切文字作品をすべて並べた展示は、我ながら偏執的な何かを感じたものでした。今後、いつ展示をするかは未定ですが、いつかまた開催した時には是非多くの皆様にご覧いただきたいと思います。よろしくお願いします。
次回は 高田茂和さんの予定です。
(2016年5月17日更新)