このコラムでは、毎回1人のイラストレーター、絵師の皆様に旬の作品を見せていただき、その作品作りのきっかけ、コンセプト、世界観、制作テクニックなどを語っていただきます。リレーコラムですので、掲載クリエイターには次の方にバトンを渡していただきます。
嶽まいこ(だけ まいこ):イラストレーター。石川県生まれ、東京都在住。2008年金沢美術工芸大学卒業。広告、書籍、雑誌、Web、パッケージなどでイラストレーションを手がける。“日常の中のふしぎなモノ・コト” をテーマに、個展、グループ展など展覧会でも作品を発表。
http://dakemaiko.com/
早川書房「24人のビリー・ミリガン(新版)」上下巻の装画2点です。
●初回打ち合わせ
「すこし不穏な雰囲気を感じさせるものを」
まずは、装丁デザインを担当されるデザイナーさん、書籍を担当される編集者さんと3人で打ち合わせをしました。過去の自身の作品を出力し持ち込んでいただけていたのでそちらをベースにまずはイメージをおうかがいしつつ、
・本作品は作家ダニエル・キイスが多重人格者ビリーミリガンについてえがいたもので、作品の持つ雰囲気やストーリーから、すこし不穏な雰囲気を感じさせられるとよい
・色は冷たい印象の寒色よりも、暖色のイメージ(あたたかみは残したい)
など、すでにある条件やイメージのヒントになるものがないかを確認しました。
打ち合わせ後、
・主人公の心理的内面にフォーカスする方向
・作品を抽象的にとらえて、なにかしらのモチーフにたとえる方向
この2方向で検討しようと考えました。
●使用ツール
ラフ: 鉛筆、Photoshop
本原稿: 色鉛筆、アクリル絵の具、Photoshop(補正時)
●制作手順
(1)ラフ
鉛筆で描いたラフにPhotoshopで着色したものを提出。
(2)再ラフ
絞っていただいた案をブラッシュアップしていきます。今回「主人公の心理的内面にフォーカスする方向」が通りました。当初のラフでは上下巻のうち、片方は人物が部屋の中ではなく、森の中にいる案で提案をしていましたが、どちらも部屋の中としたほうが主人公の内面描写ということがわかりやすく、面白いのではとご意見をいただき、同じ構成で色・光の印象が違うものに変更しました。
ベースになる色味で大きく印象が異なる絵になるため、カラーバリエーションを用意し、あわせてご検討いただきました。
(3)仕上げ
下描きをトレースし、色鉛筆とアクリル絵の具で着色。はじめにそれぞれの絵のベースとなる色(えんじ色と青緑)をアクリル絵の具で塗り、そのあと色鉛筆でかきこんで仕上げ、気になる細かい色味の補正はPhotoshop上で行いました。
原稿を納品後、色校正確認の機会をいただけたので、より原画に近い色味になるようコメントさせていただきました。
献本いただいた本を拝見しましたが、深い色が綺麗に出ていて、とても素敵な仕上がりでした。
「24人のビリー・ミリガン(新版)」上下巻
著者:ダニエル・キイス/翻訳:堀内 静子/早川書房
次回はオカヤイヅミさんの予定です。
(2015年6月26日更新)