このコラムでは、毎回1人のイラストレーター、絵師の皆様に旬の作品を見せていただき、その作品作りのきっかけ、コンセプト、世界観、制作テクニックなどを語っていただきます。リレーコラムですので、掲載クリエイターには次の方にバトンを渡していただきます。
あずまよしお:漫画家。福岡県出身。主な作品「ぼ・ん・ど」(月刊少年マガジン1998~2007年、講談社)、「ぼくらのカプトン」(ゲッサン 2010~連載中、小学館)など。
「ぼくらのカプトン」8巻のカバーイラストより。
下描きは「2Bの鉛筆」。
ペン入れは「ComicStudio EX」、着色は「IllustStudio」。
自分は落書きでも最初に「絶対」テーマを考えます。
今連載してる漫画の内容は「世代交代する男子サッカー部の日常系のお話」。
部員たちにとってキャプテンがどんな人なのかを描いた漫画です。
現在のキャプテンで4代目なんですが、まず考えるのが他の世代のキャプテンとの違いです。
・4代目キャプテンは可愛い顔してスパルタ指導。
・部員もしごかれながらもまんざらでない様子。
以上の2点を考えると、「どS主将と愉快な下僕」というテーマが降りてきました。
次に、それにハマる絵をあれこれ考えます。
この作業は本当に自由です。
主将が部員を熱血指導している古典的なイメージから、女王様とその下僕のようなSMチックなお馬鹿で過激なものまで本当に自由。ここで自分に枷をかけてしまうと良くないので、「こんなものでも大丈夫かな‥」と思ってもためらいません。
ある程度点数が揃ったら、神様(編集さん)に丸投げ。反応が良かったものを採用し、下描きに入ります。実は、最初に自由にやれるのは、ここで編集さんという第三者の目が入る安心感があるからなんです。感謝、感謝です。
・下描き
気をつけているのは、まずリアル頭身にすること。漫画が日常系なので、背景や小物はすべてリアル系の作画を心がけています。なので、人物画をデフォルメしすぎて頭が大きくなりすぎると、ヘルメットや剣道の面が出てくるとおかしなことになります。同様に手足が長すぎるとバイクや自転車、自動車と、乗せることが難しくなります。
日常に出てくるアイテムすべてに対応するには、リアル頭身が都合いいんです。
・それから作画の配分。
すべて自分が描ければよいんでしょうけど、漫画の連載の場合は毎月大量(?)のページ数をこなさなくてはならないので(このカラーも連載の合間に描きますがあまり時間はとれません)、必然的にアシスタント(作画補助スタッフ)に投げれる仕事は投げてしまわないと間に合わなくなります。〆切は絶対なんで。
自分はキャラだけを描いて、小物や背景はアシスタントさんにお願いすることがほとんどです。中でもベテランのアシスタントさんは驚くほど作家の絵に合わせるスキルが高く、助かっています。そんなアシスタントさんには、丸投げしちゃいます。
指示するのも自分は細かい性格なんで、けっこう時間取られるんですよね。頼れる人には頼るが自分のスタイルです。あと漫画を読まない人にすんなり馴染んでもらうために、極端なデフォルメをしないというのも考えています。極端に目が大きいとか、頭が大きいのって嫌がる人が多いですからね。できるだけ、初見の人への間口を広げておこうという狙いもあります。
・着色
着色は、自分の絵がパキッとした感じのものなので、アニメ塗り一択です。一番好きですし、合っていると思います。
着色でいつも悩むのが配色です。漫画家さんには多いんじゃないかと思うのですが、普段白黒で絵を描いているせいか、急にカラーになると脳がフリーズするんですよね。白黒とカラーというのは大きな隔たりがありまして、そもそも白黒は「線で見せる絵」であるのに対し、カラーは「印影で見せる絵」になる。この違いは大きく、フリーズしちゃいます。
でもデジタルのおかげで試し塗りが何パターンも用意することができるのでとても助かっています。それを周りの人の意見を聞いて決めれば、多少配色のスキルがなくてもおかしなものにはなりません。ただいつも見てくれる人がいるというわけじゃないので、いない時は正直いけてないことが多いです。家族や友達、重要! そして生活リズム(朝型推奨)!!
このサイズだと分かりづらいかと思いますが、着色でこだわっているのは手描き感。自分はデジタルよりアナログの方があたたかいなって思っているので、アニメ塗りなのにも関わらず、流し込みを使わずペンで何度も重ねて塗ります。
色ムラ上等です。いや、むしろあえて残します。するとコピックで塗ったような感じになります。
いつもは描き上げてうっとりするのですが、この時はロゴの配置が難しいことに気づきます。でもそこはデザイナーさんの腕の見せどころだと思いますので‥‥‥丸投げしちゃいます。
何だか丸投げばかりで、「いい加減だなぁ」と思われるかもしれませんが、漫画は短い期間でお話を考え、大量の枚数を量産しないといけないので、できるだけ作家本人が仕事を抱え込まないようにするというのもクオリティを保つのに重要だと思っています。タイトルロゴの入った気持ちのいいデザインのカバーは書店でご覧になってください。丸投げ成功してますんで♪
次回はトミイマサコさんの予定です。
(2015年1月21日更新)