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Designデザイン

Interview

Webのデザインは体験だと思っています。見た目だけではなく、
ユーザーが入力したことに反応するすべてがデザインです。

Interactive Director

柳太漢/博報堂アイ・スタジオ

主に企業系のWebサイトやアプリケーションの開発を手がける博報堂アイ・スタジオにおいて、30歳ながらアートディレクターとして活躍している柳太漢氏。10代からネ ットとともに育った生粋のデジタル世代である柳氏がWebデザインを仕事に選んだきっかけ、現在の仕事内容、そしてWebデザインの可能性について話を聞いた。

博報堂アイ・スタジオ デジタルソリューション3部インタラクティブディレクター/アートディレクター。
商品広告キャンペーンや企業ブランディングサイト、Webサービス、スマートフォン アプリなど、デジタルクリエイティブ責任者としてさまざまなプロジェクトに従事。近年はデジタルを飛び越え、企業CI・VIのクリエイティブディレクションも手がける 。
http://www.i-studio.co.jp/

10代の頃の興味や影響を受けたクリエイター
--まずはじめに、10代の頃の興味、影響を受けたアーティストやミュージシャンなどを教えてください。
: 僕は今30歳なんですけど、10代のときはビジュアル系バンドのL'Arc~en~Ciel、GLAY、LUNA SEAなどが流行っていて、自分でもL'Arc~en~Cielはよく聴いていました。あとはずっとゲームをしていました。ちょうどPlayStationの1、2が盛り上がっていた時期で、そのときを生きていた感じですね。
--自分でもミュージシャンになろうとか、あるいはゲームを作ろうなど考えていたのですか。
: その当時は、みんなでしょっちゅうカラオケ行ったり、バンドを組んで、全然できないんですけどベースを弾いてみたりとか、憧れの人に近づこうみたいなことはしましたけど、特にミュージシャンになろうとは思ったことはないです 。
--理系、文系どちらでした?
: 高校は普通の私立でしたが、大学は理系です。コンピュータの勉強ばかりしていました。
--その頃からコンピュータ系の仕事が向いていると?
: 特に意識はなかったんですけど、高校3年の頃にオンラインゲームが流行りだしてきて、ネットを介していろいろな人がつながって遊べるということに興奮していました。ホームページも作ったりしていたので、バリバリの理系というよりは、大学にコンピュータの学部があったので、そこに行こうという、そういう流れです。
--コンピュータありきですね。
: そうですね。ゲームは上手くはなかったと思うんですけど、とにかく新しい世界が面白かった。今ではLINE、スマホのゲームで知らない人とつながって遊べますけど、昔はまだそれが新鮮で、とにかく楽しかった。
 
大学時代から現在に至るまで
--大学ではコンピュータを学んだのですか。
: 法政大学のコンピュータ科学部で学びました。高校も法政大学付属だったので、そのままエスカレーターで入学です。そこではハードウェアとソフトウェアの勉強をしました。PCを作ったり、いろいろなアプリケーションをプログラミングして作っていました。イメージで言うと、グラフィックソフトで何かを作るのではなくて、グラフィックソフトそのものを作っていました。

当時はまだ仕事のことは考えていなかったですね。単純にコンピュータが面白かったので触って、将来コンピュータの仕事をすることは考えたことがなかったです。今が楽しいみたいな感じでした(笑)。
--では卒業を控え、就職のタイミングになって、どうされたのですか?
: 大学ではコンピュータの技術を学びましたが、プライベートではホームページを自分で作ったときの感動があって、ホームページ、Webの勉強ばかりしていたんです。そのうち、大学で学んでいることと自分がやっていることは全然違うなと思い始めていて。そこからWebデザインって何だろうみたいなので勉強し始めて、本格的にコーディングを始めました。やっていくうちにWebデザイナーという仕事があることを知り、大学3、4年ぐらいから、俺はこれになるんだ、そういう職業に就くんだと思い始めましたね。

大学では、周りはみんなシステム会社とか、サーバーの会社に就職するんですけど、僕だけ毛色が違うので、全然みんなと違うんだみたいな、学校でやっていることもちょっと違うしみたいな、雰囲気的にはそんな感じでした。
--HTLMをいじっていると、より面白いことがしたくなる感覚がありますよね?
: そうなんですよ。面白くて、その辺から惹かれていきました。ただ、当時はそこにデザインという概念があることは意識していませんでしたね。
--ちなみにどんなホームページを作っていたのですか。
: それこそゲームの攻略を自分でまとめてみたりとか(笑)、デジタルカメラで撮った写真を上げてみたりとか。
--なるほど。就職活動はいかがでしたか?
: 大学の卒業当時、行きたかったWebの会社があって、受けたんですけど、2次面接か何かで見事に落ちたんですよ。そのときに、何を思ったか僕、その1社しか受けてなかったんです。それでものすごい挫折感というか、入社したかった会社に入れなかったという思いが強くて、親と相談して、留学させてくださいということでカナダに行ったんです。

それで、卒業した年の夏から半年間カナダに留学して、戻ってきて次の年の2~3月にまた就職活動を始めました。そのときはWebデザインで就職先を探していたんですが、6、7人ぐらいのグラフィックデザインの会社で働くことになりました。
--そのデザイン会社に入られて、そこで実際のプロの仕事を修行されたということですか。
: そうです。そこの会社は、Web制作というよりはグラフィックデザイン全般だったので、周りはみんなグラフィックデザイナーばかりで、僕だけがかろうじてコーディングできたりとか、Webのノウハウを知っていたんですよ(笑)。

それまで僕が思っていたデザインは、本当にWebで自分がいじっていた世界だけだったんですけど、当時、今もよくしてくれる先輩が、デザインの何たるか、グラフィックデザインとはこういう歴史があって、その流れでWebデザインというのも生まれているんだ、みたいなことを教えてもらって、そこからデザインの勉強をちゃんとしていくんです。その先輩はWebデザインもできたんで、Webのデザインもやりながら、グラフィックデザインも教えられたし、絵本の装丁などもやらせていただきました。
--デザインセンスを磨くために他のWebサイトなどは参考にされましたか?
: 日本のサイトというよりは海外のサイトがかっこよくて、まねして、黒と白だけでやるとかっこいいんだなとか、今はあまり使われないですけど、グラデーションを使うとこんな色気出るんだなぁと学んでいった感じです。だから、ひたすらそういうのを見て、独学でやっていました。

デザイン会社に入ったときには、本をいっぱい渡されて。例えば、お前にはこれが向いているから、と原研哉の本を渡されて勉強したり。とにかく作品を見ろと言われました。そんな毎日を送っていました。

グラフィックデザインの世界ってミリ単位で気になるじゃないですか。印刷の0.01ミリの世界とか。先輩がものすごく厳しくて、例えば先輩が作ったデザインをコーディングすると、コーディングしたキャプチャー画面と印刷されたものを重ねてデスクに置かれるんです。要は、“ズレ”ているんです(笑)。画面でいうと1ピクセル単位で、とにかく直していく。

僕にはそれが初めてのデザインの現場でしたから、そうしないとダメなものなんだと教えられてきたので、そこでディテールにこだわることを学びました。本当に先輩が怖かったので(笑)。「こんなの世に出すな、どれだけ俺がここの調整に時間をかけてるんだ」みたいなことを言われるわけです。
--Webデザインは画面サイズによって異なりますし、今はスマホと両対応になってきているので、ミリ単位の調整はあまり意味がないのですが、でも、そういった基本は覚えておいてよかったのではないですか。
: そうなんですよ。それが今、例えば映像を作ったり、いろいろなものを作っていく際に生きてますね。細部にこだわるというのはすごく教えられました。
--博報堂アイ・スタジオは転職ということになりますが、そのデザイン会社には何年ぐらいいらっしゃったのですか。
: ひどい話なんですけど、以前の会社には1年しかいなかった。本当にそこは今どきの若い子だと思うんですけど、その当時、朝10~11時に出社して、夜帰るのが大体9~10時だったんです。まだ業界を何も分かっていなかったので、夜9時、10時に帰る仕事って何なのって思ったんですよ(笑)。

それに、Webの仕事に専念したくて、すごくイライラして辞めるって言ってしまい。前の会社でよくしてくれていた先輩がもともと博報堂アイ・スタジオにいたので、面接を受けさせてもらって入社しました。大変なこともあるんですけれど(笑)、Web1本でやりたいと思っていたのでよかったです。

博報堂アイ・スタジオにはプロ中のプロがたくさんいて、中でも佐野勝彦さんは国内外の広告賞をガツガツ取っていた有名人でした。その人をずっと見ていたので、会ってみたいという気持ちもあってこの会社に入りました。
コーディングとデザイン
--コーディングとデザインではどちらが得意なのですか?
: Webデザインって、「インタラクティブ」なんです。入力に対して、フィードバックがある、つまり表面の表現とプログラムは密接にからみ合っている。僕はHTMLやFlashもできますし、ちゃんとWebデザインできる自信もあります。どっちがどっちというわけでもないです。
--グラフィックデザインも経験されているので、紙とWebの違いもよくご存知だと思うのですけれども、どちらが好きかといったら、Webの方が好きですか。
: Webの方が好きですね。誤解を恐れずに言うと、グラフィック、紙は印刷物で終わりじゃないですか。Webは見えない部分に無限の可能性があるので、そういう意味では、多分Webの方が難しいんだろうなと思います。

インパクトを出すのは紙のグラフィックデザイナーの人の方が強いと思いますが、Webのデザインは体験だと思っています。Webは見た目だけではなく、ユーザーが入力したことに反応するすべてがデザインです。人の動きをどう体験として作っていくかという、そこを表現に落とし込まないといけないので難しいですね。
--なるほど、Webは体験そのもの。
: 最近、後輩にも言うんですけど、紙らしくデザインするのもいいんですけど、それではグラフィックデザイナーがWebをデザインしたときに僕たちはあっさり負けるんですよ。我々ができるのは、それをどう展開するかという、そこのデザインだと。 だから表現も、カラフルに彩るだけではなくて、そのカラフルが動くのが我々のデザインだし、触れるのが我々のデザインだと。それは僕自身も常に意識していますし、後輩にも伝えています。
--今、紙媒体が売れない時代になってきていて、一方でみんなスマホを持っているわけですから、情報の入手やコミュニケーションはWebの方が身近です。もしかして、スマホの画面で何かを伝えるかという発想やアプローチは、原体験としてのゲームも活きているのではないでしょうか。
: それはすごくあります、原体験として。そういえばあのゲームはああいうことを表現していたなとか、こう触ったらああ動いてたっていうのが今、すごく活きています。 しかも最近でいうと、ソーシャルゲームはかなり深い表現になってきていて、誰とどうつながるかとか細かいんですよ。だからデザインだけじゃなくて、Webの企画を作るときも、とにかくそういうトレンドは意識しています。
--ユーザーから見ると、グラフィックデザインと違って、Webデザインは何だかよく分からないですよね? デザイナーのする仕事はどこまでなのかが分かりにくい気がします。
: Webに求められていることが多過ぎて。例えば、ネットで商品情報やインタビュー記事を載せるとき、インタラクティブにがんがん動かしたりすると、多分ユーザーはストレスを感じてしまう。そういう場合は、スタティックに見せないといけないんですけど、一方で商品のキャンペーンなどで世界観を感じさせるときは、がんがん動かしたりしないといけない。Webは役割、範疇が広すぎて、決まったアプローチがないような気がするんです。
--つまりリアル、現実がかなり入っているのかもしれません。例えば、クルマを欲しい人がディーラーさんに行って試乗する。その体験をWebで表現しないといけないわけですよね?
: そうなんですよ。だから、ものすごくリアルです。自動車の試乗イメージをWebでテクノロジーを使ってどう体験してもらうか、どう落とし込むかですね。
--Webデザイナーはいわゆるデザインの範疇ではもう収まらないですね。
: 最近そう思いますね。僕の名刺にも「インタラクティブディレクター」と入っているんです。いわゆるWebのアートディレクターという意味で使っていて、僕はすごくしっくりきているんです。いわゆる表面的なデザインだけではなく、体験も含めてWebならではのデザインをしていくという意味が込められているなと思っています。

 

ご自分の仕事ベスト3
--博報堂アイ・スタジオは入社6年目とのことですが、これまでで印象深い仕事とか、飛躍のきっかけになった仕事など、3つ選んでお話しいただけますか。
: 全部ターニングポイントになった仕事なんですけど、時系列にいくと、まず入社2年目、2011年にサントリーの「Recycloop」という企画に関わったんです。このプロジェクトに入って、デザインとFlashのバナーのコーディングをしました。今は輝かしいSIXという会社のメンバーの人とか、博報堂で今も活躍されている方々と一緒に行った仕事です。

内容は、サントリーから畳みやすい天然水のペットボトルが出たので、それをPRするバナーを作りました。バナー上で無限にループするリサイクルストーリーを作りました。ボトルがあって、水を飲んで、畳んで、ゴミ箱に捨てて、そのペットボトルがまたリサイクルされてよい環境づくりにつながってくるという内容を示したバナーで、1サイクル終わるとまた初めに戻るとういう、無限のリサイクルストーリーがよりよい環境を作るというのを表現したんです。

これが電通賞で最優秀賞を取って、こういう華々しい世界があるんだと思って。単純に得意先から依頼された仕事をこなして、誰にも気づかれず、僕がやった仕事とかいうのが知られずやっていくんだというのを覆したというか。自分の名前が出るし、自分の名誉になる仕事なんだというのを思った案件ですね。これが1つ目です。

サントリーの「Recycloop」

--2つ目はなんでしょう?
: ちょうどその時期に博報堂グループで友だちができ始めて、自分たちで何か考えてやってみようという話になりました。自主的に何かモノ作りをしてみようというプロジェクトで「ちきゅうどうぶつえん」というサイトを作りました。東京インタラクティブ・アド・アワードというのが昔ありましたが、それにグーグルイノベーション部門(Google Innovative広告部門)という、グーグルの技術を使って何かやってくださいという部門が新設されたんです。そこで、仲のいい仲間で作ったのがこの企画です。

子供のための企画で、グーグルマップに、Web上に広がっている動物の写真や動画を検索で拾ってきて散りばめました。例えば、子供がこのマップで象がどこに住んでいるのか探して、その姿形や鳴き声を写真や動画で見て楽しむという企画です。グーグルの特性を生かした無限のデジタル動物園をつくり、子供の無限の探究心を育てるWebの原体験をつくったんです。

これもその部門で最優秀賞をもらって、別に広告じゃなくても、自分たちで考えたアイデアで人に認められていくこともできるんだと思った案件というか企画です。これは実際グーグルからアプリ化されていくというところまで評価いただきました。
--そしてもう1つは。
: 3つ目はグーグルの「未来へのキオク」というサイトで、これは、2011年3月11日の震災で失われた思い出を、未来へ残そうという企画です。いろいろな人たちが撮ったデジタルカメラの写真、動画を全部集めて、Web上に残していくという企画です。僕が参加したときには既に完成していたんですが、よりよく使いやすいユーザーインターフェイスを作りましょうということで、グーグルのWebマスターの方と一緒にインターフェイスをリニューアルしていきました。

老若男女、どういうインターフェイスなら使いやすいか、徹底的に考えていきました。社会のためになるような、意味があることができたなというプロジェクトでした。

得意なクリエイティブワーク
--Webデザインのワークフローの話もお伺いしたいのですが、クライアントさんから受注して納品するまでの流れを簡単に説明してもらえますか。
: 一般的な流れでいくと、クライアントからどんなことがやりたいのかオーダーがあって、まず企画を詰めます。例えば、コーポレートサイトなのか、プロダクトサイトなのか、アプリなのか、その他デジタル施策なのか。できた企画を得意先に持っていって、了承いただければ、そこから構成、つまりどういう設計にするかを考え、デザインを作ります。デザインは方向性別にA案、B案作って、それをまた提案しにいくという感じです。デザインが決まれば、実装フェーズに入り、その後実装されたものを確認するタイミングを経て、公開という形になります。
--仕事はチームで動かれていると思うのですが、その中で柳さんはどういう立場で関わっていますか。
: 僕は基本はアートディレクターで動きます。いわゆるデザインをどういうふうにしようかとか、そこを見るんですけど、インタラクティブディレクターの肩書通り、企画も考えます。Webでのクリエイティブディレクターという感じですね。
--現場仕事よりディレクションメインですか?
: 博報堂アイ・スタジオはWeb制作では大手の方だと思いますが、仕事量も多いので、人手が足りないときは僕もデザインします。プログラミングできない人も多いので、自分で組んだり、プロトタイプを作ったりとかもしています。
--Webデザインの場合、最初のページイメージはやはり手描きでラフを描くのですか。
: それもさまざまで、人によって流派が違うんですけど、手描きの人はあまり見たことないですね。大体こんな感じという参考資料を持ってきた後に、Photoshopでラフデザイン作っちゃうことが多いですね。
--例えば、クライアントさんが初期の段階で了承しても、やっていくうちにちょっとイメージが違ってしまってやり直していただくとかもあると思います。
: あります。あれが一番しんどいですね(笑)。Webは紙と違って、入稿しても直せると思われているんです。それは間違いないんですけど、その先には五万と作業があるんですよ。例えばデザインを直せば、当然実装もしないといけないし、その修正がシステムと絡むような場所に及べば、内容とは裏腹に、めちゃくちゃ大変な作業が発生することも多々あります。そのときはうまく説明して時期をずらしたり、追加で予算いただくこともありますが。でも本当に直さないといけないときがあるし、うまくやるしかないんですね(笑)。
--Webのインタラクティブ性をどう見せるか、そういったアイデア発想はどのように生み出していますか。
: Webは見た目の話で言えば、グラフィックの流れは組んでいるし、動きの話で言えば、映像の流れも組んでいると思うんです。だから、映像とグラフィックはたくさん見ますね。グラフィックデザインもとにかく見て、年鑑とかも見るし、どんなものがかっこいいのかとか。映像も古いものを見たりとか、映画はよく見ます。特に大衆向けのものはよく見ます。より共通のインサイトを含んだものですから。それらで得た知識を複合して、どうWebに昇華していくかというのがすごくポイントだと思います。

これからのWebテクノロジー
--今、Webのテクノロジー的には、技術的にどんなことができるのか。あるいは今後どんなことがより可能になってくるのでしょうか。
: 今やもう、例えばOculusという機器があって、バーチャルリアリティーの世界ですね。360度違う世界が見える。デバイス自体もPCじゃなくてスマホやタブレットになって、より人の身体に馴染むものになってきています。だから、我々の職業もディスプレイの画面内でデザインすることが本当にいいのかな? なんて考えています。突拍子もないことが可能になってきている時代なので、なんとなく予想がつくかもしれませんが、真の意味では、次はここに向かうだろうというのが、多分誰も分からないような気がしています。

今、ウエアラブルデバイスが次に来るなんて言われていると思うんですけど、どうなんだろうなと思って。ファッションとのバッティングがあるので。映画や漫画、アニメの世界みたいに、空中にディスプレイ出せるようになっていくのかとか気になりますね。
--Webデザインはデバイスとの関連性が非常に強いですね。
: 本当にそこにつきます。スマホやタブレットが出てきて、それでまた一苦労ですよね。PCの画面ではなくスマホ中心にデザインしなければいけなくなりました。
さらに得意先は表現を求めているのに、スマホの能力によってはいろいろ動かすことができないとかそういう限界もあったり。だから、デバイスにはみんな敏感です。次は何が主流のデバイスになるんだというのは、みんな意識していると思います。
--Webデザイナーにとってはデバイスが最終の表現装置ですから、それは非常に大きいですよね。しかもクライアントは、PCと同じ画面をスマホでもやってくれとか普通に言うでしょうし。
: そうですね(笑)。もちろんちゃんと説明して、どこを取ってどこを捨てるという話し合いはしますが、ブラウザやデバイスの機種の違いも関係があって、それによっては全然動かないみたいな。そこの縛りの中でどう表現するか、いつも振り回されています。

ですから、とにかくいろいろなWebツールを使っています。アドビツールをはじめ、ブラウザのチェッカーとか。またさまざまな端末、デバイスも検証用に用意しています。新しい製品が出たらすぐ買って、動作検証に関しては準備万端にしています。
--今、開発時にターゲットとされているメインのデバイスは何ですか。
: PC、スマホとタブレットPCが多いですね。
--iOSとAndroidだとコーディングなど結構違うのですか。
: 全然違いますね。別のものと考えた方がよいです。挙動に差が出ますし、タップやフリックなど、全然アクションが違うんです。
--その挙動の違いというのは、コーディングで処理するしかないのですか。
: それはもうそこでやっていくしかないです。 それと、アプリ開発の場合は、AndroidとiPhoneで全然違うので、アプリが必要になった場合、まずiPhoneでやりますか、Androidでやりますかみたいな確認をします。変な話ですよね、みんなに届けたいのに、予算の関係でどちらかを削らないといけないとか。紙だったら印刷してしまえばどなたにでもお渡しできると思うんですけど、Webの場合は端末の制限を受けてしまう場合もあるわけです。
--今、お使いのツールは何ですか。
: 大体当社のデザイナーはみんなそうなんですけど、Photoshopでデザインして、あとはIllustratorで細かいイラストやアイコンを作ります。基本的にはその2つです。 マークアップの人たちはさまざまですね。Dreamweaverじゃなくても、とにかく自分用のテキストエディタを使ってたりとか。Flashの人は多分Flashを使っていると思いますが。
これからの目標や課題、若い世代へのメッセージ
--仕事をされていて、まだまだやり切れていない面もあるかと思いますが、そういったこれからの課題などはいかがですか。
: いわゆるCMとかグラフィック広告というのは受動的じゃないですか。流れていく中で見るものだと思うんですけど、Webはかなり能動的です。アプリもそうだしサイトもそうです。

それで、今の時代、1分1秒が昔より価値が上がっている気がしています。検索したらすぐ答えが出てくるし、ゲームで強くなろうと思えば、お金を払えば強くなれる。そんな時代の中で、ユーザーは時間をかけてWebサイトにくるし、アプリを使うので、その1分1秒の価値をもっと高めていかないとダメだなと思っています。 なので、単純に広告として得意先が伝えたいものを伝えるんじゃなくて、何か感動するものとか、時間を割いてくれたことに対しての対価がないといけないなというのはすごく、日夜思っています。チャレンジですね。

 

--ユーザー満足というのは、すごく難しいですよね。
: 難しいです。本当に難しいんですけど、今後、よりデジタル中心になると思うので、いろいろなデバイスも出てきて、なおさら価値のあるものを届けないといけないなというのはすごく思います。
--それはクリエイターとしての本能かもしれませんね。たとえ匿名の仕事であっても、何かを届けたい、仕込みたいといった気持ちなのでしょうか。
: 存在証明みたいなところはあるかなと思います。特にキャンペーンサイトなどは一定期間でなくなってしまうものですから、何のために、何カ月時間を使って、何日徹夜して、何日考えたものをユーザーに届けられるんだろうという想いは、常に意識しているところです。
--最後に、今後若い人たちがWebやデジタルの世界に入ろうとしたときに、何か言葉はありますか。
: 僕は、自分にいつも言い聞かせていることがあって、自分に忠実にということをすごく大事にしているんです。それは後輩が入ってくるごとに言いますね。Webデザインはまだまだ新しい分野の業界なので、何が正しいかもまだ分からない中で、自分の体験をベースに、自分がいいなと思ったことをちゃんと伝えられたりとか、信じられたりするようにしないといけない、というのは言いたいです。

もう1つ、人を信じられるようにしないといけない。人を信じられる強さというのですかね。自分に忠実にあると同時に、例えば自分より長く生きてきた先輩とか、自分と違った体験をした人の意見を聞けるようにならないと、広告業界とかWeb業界で、人の心を動かす体験を作っていけはしないですね。
--Webは、ここ10年、20年のメディアであって、紙メディアに比べればまだまだ新しい。ですから、そこにいる人たちはすごくフロンティア・スピリットに溢れていて、なんでも自分たちで解決していて、すごくたくましいと思う反面、過去の伝承というのがあまりないのではないかという印象があります。
: それはそうですね。そのとおりだと思います。多分自分の体験、今までの感じたことをベースに、新しい何かを生み出していくところがあるので、方程式があまりない。
--でもゼロスタートだからこそ面白いのでしょうね。
: そうですね。だからいろいろなアイデアがどんどん出てくるじゃないですか、たくさんの面白いことが。それがこの業界のすごくいいところですね。
--ありがとうございました。
 
 

(2015年2月25日更新)

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