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Designデザイン

Interview

アイデアと美しさの両立、プラス革新性が大事だと思っています。

清水千春

Art Director

清水千春/博報堂

博報堂のアートディレクター、清水千春さんは、入社9年目のまだまだ若手ながら、サントリーの「のんある気分」、リプトンのCMやブランディングなどで活躍している。ここでは清水さんの学生時代から現在に至るまでの、クリエイターとしての想いや悩み、行動を語っていただいた。

博報堂第三クリエイティブ局 アートディレクター。
1983年埼玉県深谷市生まれ。東京藝術大学美術学部デザイン科卒。2006年博報堂入社。第一クリエイティブ局を経て、2013年より博報堂ケトルへ、2014年10月より第三クリエイティブ局所属。グラフィック、CM、パッケージ、プロダクト、空間デザイン、PRイベントまで含めたインテグレートキャンペーンやブランディングを得意とする。趣味は山登り、海潜り、麺作り。特技は書道、空手、美術科教員免許取得。
http://www.hakuhodo.co.jp/

10代の頃の興味や影響を受けたクリエイター
--まず、清水さんは、10代の頃にどういう学生だったか、何を目指していたか、その辺からお話いただけますか
清水 : 10代の頃、私は女子高に通っていてチアリーディング部に所属していたのですけれど、文化祭などのイベントに力を入れている高校で、クラスの出し物、衣装、振り付けなどを考えるのが好きなタイプでした。イベントの準備などの活動を通して、徐々にこういうことを仕事にしたいなと考えるようになりました。

それまでは理系の大学に進みたいと思っていたのですけれど、美大に進むことを親に相談したら、見事に反対されました(笑)。親の世代ですと「美大=作家」という捉え方で、仕事のイメージがなかったようで、ものすごく反対されました。

でも、美大の道が諦めきれず専門学校や美術大学をいろいろ調べているうちに、東京藝大は1、2年生は基礎として一通りグラフィックもプロダクトも空間デザインも描画アートもすべて学ぶことができ、3年生から専攻が分かれていくのですが、卒業後も企業などへの就職の道があることが分かり、それで親を説得しました。親からは自宅から通える国立で1浪までなら許すと言われたのですが、そこに当てはまるのが東京藝大しかなく…。そこで本命を東京藝大に絞って受験しました。結局一浪して東京藝大に入学しました。
--高校時代のチアリーディングはフィジカルな活動だと思うのですけれど、文化祭などでは、モノ作りや絵を描くことでも活躍されていたわけですね。
清水 : そうですね。チアリーディングも、ただ運動が好きというより、どの曲を使ってどういう服を着て、どういう振り付けをしたらいいかといった構成を考えるところが面白かったんです。ダンスだったらどういうフォーメーションで隊形が変わったら面白いかとか、けっこう頭を使う部分があります。デザイナーには案外理系出身者が多いんですよ。物事を組み立てて考えるという部分は数学も美術も近くて、その辺はCMやキャンペーンを考えたりとか、今の仕事にもつながっていると思います。

清水さんの高校時代。チアリーディング部に所属。

文化祭などでも率先してさまざまなアイデアを実行していた。

--なるほど、そういった資質を生かすには美大だったということですね。
清水 : 普通の女子高だったので、周りに美大志望の友だちはあまりいなかったのですが、たまたま親がデザイナーで自分も美大を目指しているという子が近くにいたので、その子に相談したりして、決心しました。今はインターネットがあるので情報収集も簡単になりましたが、その頃は大変でした。
--東京藝大に入学した時点で、デザイナーになると決めていたのですか。
清水 : まだそこまで絞ってはいなくて、最初は空間デザインをやりたいと思っていました。大学1、2年の頃に、大学の体育の授業の先生がダンスカンパニーの主宰をされていて、青山のスパイラルで行う舞台美術のお手伝いをしていたのですが、舞台や空間デザインは、いいものを作ってもその場に来た人にしか見てもらえないないことに気がついて。

他にも、アートに挑戦して、日比野克彦さんが審査員をされていた岐阜のアートフラッグ展に参加したりしました。そこで通行人の皆さんに何をやっているのか知ってもらいたいと思って、作品に「ART FRAG展」という文字をデザインして入れたんです。そしたら、何で文字を入れるんだと怒られて、全然結果はダメだったんです(笑)。

それで、ちょっと悶々とした気持ちで、その1週間後くらいに名古屋で開催されていた、世界グラフィックデザイン会議というイベントに参加しました。そのとき大貫卓也さん、佐藤可士和さんといった博報堂出身のアートディレクターの先輩が講演をしていて、すごく面白かったんです。言っていることがものすごく分かりやすくて。例えば可士和さんは渋谷をジャックしたSMAPのキャンペーンの説明をされていて、自分もこういうことがやりたいなと、そのときに思いました。
--表現の場所が限られる空間やアートより、もっと広く自分の表現をアピールしたいという気持ちがあったということですね。
清水 : そうですね。実家のお母さんでも分かるものを作っていきたいなと、そのとき思いました。
博報堂に行きたいと思ったのも、そういう先輩方がいたからというのは大きいですし、会社に入ってからも、クリエイターを大切にしてくれるいい会社だなというのを感じています。
--デザイン関連以外で、10代の頃影響を受けたアーティスト、ミュージシャンなどいますか。
清水 : 音楽だとJUDY AND MARYがその頃全盛期で、私が高3のときに解散してしまったのですけれど、解散ライブも観にいって。ファッションも音楽も、とてもインパクトがありました。ソロになってからもアーティスティックなパフォーマンスをみせてくれるので、今でもYUKIちゃんは好きですね。
--ご自分でもそんなファッションをしていたのですか。
清水 : メイクとか真似していました。あとは、イラストレーターだとMAYA MAXXさんからも影響を受けました。無邪気な感じのトーンのイラストなんですけど、子どもが描けそうで描けない感じが好きで。フォトグラファーだとHIROMIXさん、蜷川実花さん、ファッションだとISSEY MIYAKEさんも好きでした。
--女性写真家がどんどん台頭してきた時期ですよね。フォトグラファーは目指さなかったのですか。
清水 : 大学1年生のときに写真の授業を受けたんです。フィルムで撮って、自分で暗室で焼いて、ということを学んだのですが、覆い焼きとか職人ぽい繊細な作業が自分には向いてないなと思って。しかもそのときに、いきなりカラーフィルムを扱うのは難しいからという理由でモノクロフィルム指定だったんですけど、もっとカラフルでインパクトのあるアートが好きだったので、ストイックな作業がつまらなくなっちゃって(笑)。今だったらPhotoshopで暗室で行うような作業の代わりができるので、もしもデジタルから写真に入っていたら、もうちょっと違ったかもしれないですね。
--なるほど、JUDY AND MARYや蜷川実花、MAYA MAXXはみんなカラフルなイメージですよね。そういった感性は変わらないですか。
清水 : 人間、好きなものはそんなに変わらないなとは感じます。
東京藝大から博報堂入社まで
--世界グラフィックデザイン会議で博報堂の諸先輩の話を聞いて、こういう仕事をやりたいと思ってから、迷いはなかったですか? そのまま博報堂一直線だったのですか。
清水 : 行きたいというのは明確でしたが、それが順風満帆でもなくて。大学3年生になって、博報堂や電通にインターンシップ募集というのがあって両方に応募したのですが、クラスで応募した10人中8人ぐらい受かったのですが、私はどちらにも行けなくて…これはヤバいとすごく焦りました。ちょっと鬱になるんじゃないかなという一歩手前ぐらいまで落ち込んで。

ちょうどその頃、銀座のグラフィックギャラリーで、大学の非常勤講師をしてくれていた工藤青石さんのトークショーがあったので、友だちと見に行って、そのとき工藤さんに「スランプになったことはありますか。そういうときはどうしていますか?」と質問したんです。そうしたらバシっと言われたのが、「人って、悩んでいるときは案外手が動いてないんだよ、とりあえず手を動かせばいい」と言われて。その言葉がすごく心に沁みて、はっとさせられました。そこで、あ、そうかと。言葉をそのまま素直に受けとって、夏休み中あまり余計なことは考えないで、無心に作りたいものをひたすら作り続けていたんです。

東京藝大には9月に「藝祭」があるんですけど、そこで学生たちはお店を出します。私たちも友だちと3人で、Tシャツ、手ぬぐい、ポストカードやアクセサリーといったグッズを作ってお店を出したら、ものすごく売れて。3日で30万円くらいは売れたのかな。お客様にポスター可愛いですね、と言ってもらえてすごく嬉しかったのを覚えています。そうして慌ただしく3日過ぎた頃に、気がついたら2ケ月くらいずっと続いていた鬱々とした気分がなくなっていたんです。シンプルに、人に喜んでもらうことだけ考えて作ればいいんだ、とふっ切れて。

そこから就職活動まで時間がなくて、OBの先輩にはとにかくポートフォリオの作品は量を持っていけと言われたので、ひたすら作品を作ったり手直ししたりしていました。その中で博報堂の先輩に作品を見てもらったときに、作品のアドバイスはほとんどもらえず、君、空手やってるの? 空手の型ってどうやるの? みたいな話をされて。2人で空手と少林寺の型をやってそれでおしまい(笑)。こういう人を採用する会社って面白そうだなと思いました。

東京藝大の浪人時代も1年間誰とも友だちとまったく遊ばないで、月曜から土曜まで毎日朝から夜まで絵を描く生活をしていたのですが、就活のときも毎日3~4時間睡眠みたいな生活を半年ぐらいやっていたので、あれ以上就職活動を続けていたら倒れていたと思います。
--焦りもあったと思うのですが、人一倍、やることをやっていますね。
清水 : はい、二度とやりたくないです(笑)。
新人時代のデザイナーとしてのトレーニング方法
--新人時代のデザイナーとしてのトレーニング方法
清水 : ひたすらアイデア出しでした。藝大では、ものづくりの勉強はするんですけど、アイデアの幅を出す訓練はほとんどしていなかったので、最初にロゴを作る仕事で2案だけ持っていったら上司にすごく怒られて。そういうことじゃないと気づいて、2回目の打ち合わせの時は手書きで50案ぐらい持っていきました。

1年目は、デザイン作業もあまりやらせてもらえなかったんですよ。だからひたすらデザインのアイデア出しをしていて。案の良し悪しの判断がまだつかないので、とにかく案数を持っていくことだけを続けていたら、清水はアイデアの泉だね、とあだ名をもらえるようになって。
--デザインの前段階の、アイデア出しのトレーニングですね。
清水 : そうですね、まずはコンセプト。得意先にデザインを説明するときに、なぜこのデザインがいいかというのを説明しなければいけなくて、これいいでしょう、オシャレでしょう、だけではダメなんです。今、消費者はこういうことを考えているから、こういう考えでこういうデザインにするといいです、というプレゼンをしてクライアントに納得してもらわないといけないので、アイデア出し、コンセプトづくりの部分はかなり訓練しました。

広告は特にそうだと思うんですけど、コンセプト作りやスタッフとのコミュニケーション能力がすごく大事で、デザインセンスも大事だけど、それだけじゃないなというのは、社会人になって実感しましたね。
--デザイナーには、プレーヤーとプロデューサーといいますか、定着の美しさに重点をおく職人肌の人と、デザインのアイデア部分に重点をおく人と、2通りのタイプがいると思うのです。アートディレクターの仕事はどちらかというと監督でしょうし。清水さんご自身はどちらかというと監督タイプですか。
清水 : どっちもやりたいタイプですね。アイデアも考えるけど、定着を完全に人任せにするのがあまり好きじゃなくて。アートディレクターは、いずれクリエイティブディレクターとしてコミュニケーション全体を見たり、クリエイティブディレクターにはならずにグラフィックデザイナーとして職人に徹する人もいるんですけど、やっぱりディテールを見られない人は全体を見ることもできないと私は考えているので、どっちもやりたいなと思っています。
--アートディレクターは、1つのコンセプトを決めたら、それをムービー、グラフィック、あるいはWebにどう落とし込むか、それらをディレクションする立場ということですね。
清水 : お金をクライアントから預からせていただいたら、グラフィックにはこのくらい、映像にはこのくらい、イベントにはこのくらい、PRにはこのくらいなど、全体を管理できるアートディレクターになりたいと思っています。
--アートディレクターはマネージメント責任がありますし、デザイナーやアーティストの方がある意味自由奔放かもしれせん。
清水 : 職人型のプレーヤーになるんだったら、スペシャリストにならないといけないじゃないですか。それはそれでとても大変なことだと思います。だからカメラマンとかイラストレーターのように、その人の作家性で勝負できる、突き抜けている人はとても素晴らしいと思うし、尊敬しています。
--スペシャリストは必要ですね。アートディレクターというのは、そういう意味ではゼネラリストなんですね。
清水 : そうですね。でも、アートディレクターの中にも2パターンいる気がして、個人の作家性で勝負している方と、もう少し企画やコンセプトから入ってプロデューサー的役割で動くタイプ、そこは今後分かれていくんじゃないかなと思います。
これまでの仕事ベスト3
--では、これまでの清水さんの仕事ベスト3を伺います。
清水 : ベストというより、自分の中でのきっかけになった仕事になりますが。

まず1つ目が、入社5年目に手がけたサントリーさんの「のんある気分」です。3年前になりますが、柴咲コウさん出演のCMですね。商品開発から手がけたので、発売の1年半ぐらい前からコンセプトを考え始めて、パッケージも、試作品で300デザインぐらい作りました。味とパッケージのデザインを何回何回も調査にかけて、やっとできました。

CMの監督は映画「ハチミツとクローバー」の高田雅博さん、スタイリストはSMAPの衣装も手がける宇都宮いく子さんという方で、カメラマンは瀧本幹也さん。憧れの素敵な方たちとお仕事できてすごく嬉しかったです。そして商品もCMもグラフィックも、全て一貫した世界観で作ることができた最初の仕事でした。
--製品開発の初期段階からの踏み込まれた仕事になっているのですね。
清水 : そうですね。昔は広告のCMとグラフィックを作ってくださいという仕事が多かったと思うんですけど、今はネーミングなどからクライアントと一緒に商品開発を行うような、共創型の仕事が増えています。

サントリー「のんある気分」のパッケージデザイン。

サントリー「のんある気分」のCMムービー。

--続いて、2つ目の仕事は何でしょう
清水 : 2013年に社内研修出向で、博報堂ケトルというクリエイティブとPRを組み合わせたインテグレートキャンペーンを得意とする会社に異動したのですが、異動してすぐにリプトンの仕事をいただきました。リプトンの紅茶は、紙パックは森永乳業、ペットボトルはサントリー、缶はユニリーバと製造元がそれぞれ異なり、バラバラにコミュニケーションを行っていたのですが、それらを統一したいというお話でした。

そこでBEAMSさんが持っているB:MINGというブランドとタイアップして、B:MINGさんの2013A/Wの服装を、紙パック、ペットボトル、缶に着せてしまおうと考えました。さらに景品として同じ柄のパジャマやダイアリーノートを作ったり、原宿に特設カフェを作って、ティーバッグ型のハンモックを吊るしたり、洋服型のオリジナルクッキーも販売しました。他にもB:MINGさんの店頭をジャックしたり、神田うのさんとハマカーンを呼んでPR発表会を行ったり。イラストレーションはBob Foundationさんにお願いしました。

これは、いわゆる交通広告などのCMはしていないんです。商品とPRイベントだけで、2億円分ぐらいの露出効果がありました。テレビCMは、あ、見たことある程度の量のCMを流すのに3億円くらいかかってしまうんですけど、リプトンの仕事ではそうではないアプローチを試みました。

この仕事では、プロデューサー的な関わり方をしました。クライアントさんからはさまざまなご要望が出てくるので、ユニリーバさん、ビームスさん、森永乳業さん、サントリーさん、すべてのご要望を聞いて、えいっ! と1つにまとめあげました。とても大変な仕事でしたが、Twitterでパッケージが可愛い! といったリアルな反応を見られたり、缶も売上がいつもの3倍くらい伸びてすぐに売り切れるなどの好評をいただき、とても思い入れがあった仕事です。

紅茶のリプトンとBEAMSのコラボ展開 その1。

紅茶のリプトンとBEAMSのコラボ展開 その2。

そして3つ目が、最近AD STARSという海外の国際賞のデザイン部門でグランプリをいただいた「HIBIKI GLASS」という仕事です。これは、テレビCMといったいわゆるマス広告ではなくて、デジタルテクノロジーを使ったグラスとバーを使用したイベントと、その様子をまとめたWebムービーです。

グラスを持つ、揺らす、置く、といったウイスキーを飲む仕草に合わせて、鶯の鳴き声が流れたり桜の花が咲いたりといった、日本の四季を表現する音と映像がバーでハーモニーを奏でます。それをAKB48の恋するフォーチュンクッキーのPVを手がけた関根光才監督に撮影していただきました。江戸切子と彫金を組み合わせたグラスも、メディアアーティストの齋藤達也さんと共に制作しました。

この3つの仕事で、自分の仕事の領域を広げることができたと思っています。

デジタルテクノロジーを使用したイベント「HIBIKI GLASS」のプレゼンボード。

「HIBIKI GLASS」のムービー。

得意なクリエイティブワーク
--デザイナーやアートディレクターとして、清水さんの得意なクリエイティブワークは何でしょうか。例えばコンセプトやアイデア作りから、スタッフの選定、実際のデザインワークまでいろいろあると思うのですが、一番自分の適性にあっているのはどの辺だと思いますか。
清水 : 全部できるところですかね。あまり自分のことを職人タイプだとは思っていないので。

でも、先ほどの3つの仕事は、全部デザインが起点になっていると思うんです。何かのデザインアイデアがあって、そこを起点にしてイベント、CM、商品、ムービー、PRイベントなどに展開しています。コミュニケーションの軸にちゃんとデザインがあるものというのが好きだし、これからもやりたいと思っています。
--まず、確実な世界観があって、それを広げていくアプローチということなのでしょうか。
清水 : そうですね。世界観を1つポンと作って、そこから広げるのが得意です。広げ方はその都度さまざまですが。
若い世代へのメッセージ
--現在の充実度、これからの目標はいかがですか。
清水 : 私は入社9年目になります。1年半前に博報堂ケトルに異動して、また博報堂に戻るんですけど、デザイナーの人が今までいなかった環境というのは、すごく学びが多かったです。今後は、もう少しアートディレクションを軸に置いた上で、テクノロジーやPRなどを使いこなした大きな仕事をしたいと思っています。
自分の根っこの部分はあまり変わっていなくて、美しいけれど誰も知らないものというよりは、美しくて、なおかつ、みんなも知っているデザインを作りたいと思うので、それを実現できるように頑張りたいと思っています。
--冒頭に伺った、例えば実家のお母さんでも分かるようなアプローチですね。
清水 : はい。あとはできるだけみんなに広く長く愛されて、使ってもらえるものを作りたいです。

アイデアと美しさの両立はデザインですごく大事だと思うんですけど、プラス革新性も大事だと思っていて。作ったものが新しいのかどうか、世の中をいい方向にを変えているのか、といったテーマはいくら突き詰めてもゴールがないので、これからもずっと追求していきたいと思っています。
--清水さんは今の20代の身近な目標になられる方だと思いますので、清水さんが10代だった頃の人たちに向けてメッセージがあればお願いします。
清水 : Wannabe.jpの特集アンケートで、私が挙げた5ヶ条は、「コミュニケーション能力」「課題理解力」「向上心」「根性」「変化を恐れないこと」ですが、やはりこの5つが大事だと思います。
--「根性」は必要ですか。
清水 : 根性は大事ですね。すぐに結果が出なくて嫌になっちゃう人だと続かないと思います。デザインの仕事は一見華やかに見えるかもしれないけど、そうじゃない面もいっぱいあります。それこそ徹夜したり、何案もひたすら出さなきゃいけなかったり、何度も再提案になったり、入稿に追われたり…。これはおそらく学生時代には想像できないことだと思います。
--「コミュニケーション能力」についてですが、例えばA案、B案、C案を提案して、自分の中でA案がベストだと思っていても、クライアントがC案を選んだ場合ってどうされます?
清水 : まず、最初に提案するときに、なぜA案がいいかというコンセプトも含めてクライアントに分かりやすく説明します。そしてクライアントがC案を選んだ場合、なぜそれがよかったのかを聞きます。話を伺った上で自分もC案の方がいいと思えばそうしますし、クライアントがC案を評価した部分が企画の本質とずれている場合は、理解が深まるようにディスカッションをします。

実制作の段階でクリエイティブに修正の戻しをいただいても、直しの意図の本質が何かを汲み取って、こういうお戻しをいただきましたけど、こういう考え方もありますよと、別の提案してみたりもします。

例えば、お腹が痛いです、盲腸だと思うから切ってくださいと言われても、違う場合があるじゃないですか。そのときに何も考えず盲腸を切っちゃダメで、あなたは盲腸だと思っているかもしれないけど、本当は胃潰瘍です、と言って違う薬を出してあげる。そういうことは必要だと思います。
--それがコミュニケーション能力なんでしょうね。
清水 : コミュニケーション能力はものすごく大切です。ただ、この薬を飲んでおけばいいんですっていう一方的な言い方だと相手に納得してもらえないので、こういう理由であなたは盲腸ではなく胃潰瘍だと思うから、この薬を飲んでくださいと言ったら、大抵の方は理解してくれると思うんです。
--多分それがアートディレクターの資質だと思います。プレーヤーは割と思い込むから、もう絶対A案みたいなことになってしまうんですよね。
清水 : だから、逆に私がイラストレーターや映像作家の方に修正をお願いするときには、今回はこういう意図だからここをこういうふうに直していただきたいんですと、丁寧に説明をすることを心がけています。
--そこで共有していければより良いものができますからね。「課題理解力」も同じような意味ですよね。それと「変化を恐れないこと」というのは、自分が築き上げてきたものも壊してもいいんじゃないかぐらいのレベルですか。
清水 : 価値観って、デザインでも何でも、いずれ古くなってしまうと思うので、これが自分のスタイルと決めてしまうと、そこからどこにもいけなくなってしまう。例えば世の中がFacebookでがらっと変わったら、それを取り入れた方が得じゃないですか。環境の変化に適応して進化できなかった生物が絶滅したのと一緒で、デザイナーを取り巻く環境もこれからどんどん変わっていくと思うので、臨機応変にできるというのがすごく大事だと思います。
--どうもありがとうございました。
 

(2014年11月10日更新)

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