このコラムでは、毎回1人のデザイナーに旬のデザインを見せていただき、その作品作りのきっかけ、コンセプト、世界観、制作テクニックなどを語っていただきます。リレーコラムですので、掲載クリエイターには次の方にバトンを渡していただきます。
長谷川晋平(はせがわ しんぺい):グラフィックデザイナー/アートディレクター。
PEACE inc.所属。2012年よりJAGDA会員。2010年六本木フラッグデザインコンテスト入選。2011年ラハティポスタービエンナーレ入選。2013年読売広告賞 企業協賛賞。2014年SONY MOBILE city talentsキャンペーンにてXPERIAドイツ国内限定販売モデルのデザイン。パッケージデザイン、企業CI、ブックデザイン、美術展のポスターやフライヤーなどジャンルを問わず日々デザイン活動中。
http://shinpe-pp.tumblr.com(個人サイト)
「たゆたう自然-floating nature-」という、2014年の10月に行われた現代アートの作家による展覧会のアートディレクションに携わりました。東京都現代美術館のキュレーター、長谷川祐子さんが指導を務める展覧会設計ゼミのゼミ生自らが企画した展示で、今回はこの展覧会の紙媒体のデザインにメインで携わりました。
2年前、自主制作として細かいオブジェクトが集合したようなグラフィックのポスターを作っていた時期があり、その際、アメリカのハイウェイを鳥瞰したようなポスターを作りました。これは一瞬では把握しきれないような細かいオブジェクトたちが、よく見るといろいろなストーリーを持ち合わせて混在しているというグラフィックでした。
僕のWebサイトでこれを見ていた展覧会設計ゼミの生徒から、打ち合わせの段階で、この表現を今回の展覧会のメインビジュアルに変換したアプローチができないか、という話が上がったことがきっかけとなり、ビジュアルの制作が始まりました。
というのも、今回の展示のテーマは自然。展示会場は小石川植物園という約1,60000㎡の敷地に4,000種の植物が植生する植物園に面したギャラリーで、開放的なギャラリーの窓からは、全体を把握できないほど大きな森が広がっています。それらを表現するように、無数の木々を描き、木々が異なる物語を持ち合わせて存在しているようなビジュアルが面白いのではないかと考えました。
制作する際に念頭に置いたポイントは、たゆたう感覚です。たゆたうという言葉を辞書で引くと、ゆらゆらと揺れ動く様だったり、気持ちが定まらずためらうという、やや不安な心情を含んだ言葉の意味があることを知りました。
このたゆたう感覚と、ビジュアル表現がうまくクロスするポイントやバランスを探っていくことで、今回の最終的なアウトプットに辿り着くことができました。初回の提案の中で、例えばグラフィックの要素がゆらゆらと揺れていたり、何かが大きくかけていたり、隠れていたり、といったたゆたう感覚のアプローチを、異なるビジュアルでいくつか提案しました。
その中から最も相応しいビジュアルを検討し、1つの方向性が決まりました。
150種類ほどの木々や植物、実際に世の中に存在するかは分からない植物のようなグラフィックを描き、その大自然のグラフィックの真ん中に
大きなカーブを描いたあぜ道を入れることで、真っすぐでない森の深部へと続くたゆたう道を入れ、迷い込んだら抜け出せないような不思議な森の姿のメインビジュアルができました。
配布後、フライヤーを見た方からも「これはどれぐらい時間がかかったの!?」「これは何??」というリアルな反応をいただくことができました。細かい要素の中には、切り出した木を運ぶトラックだったり、木、花といった文字だったり、様々なストーリーを持ったいろいろな遊びを取り込みました。じっくり見ていただけたらいろいろな発見があると思います。現在、展覧会のアーカイブをまとめた記録集を制作予定です。
次回は 大澤悠大さんの予定です。
(2014年11月26日更新)