トップページ > デザイン > Portfolio NOW!Designer FILE 18:平野聡子

Designデザイン

Portfolio NOW!

このコラムでは、毎回1人のデザイナーに旬のデザインを見せていただき、その作品作りのきっかけ、コンセプト、世界観、制作テクニックなどを語っていただきます。リレーコラムですので、掲載クリエイターには次の方にバトンを渡していただきます。

Designer FILE 18:平野聡子

赤ちゃんがピタリと泣き止む不思議なアプリ、「baby rattle bab bab」の制作

平野聡子(baby toi代表):映像ディレクターを経て、出産後「パパ・ママの気持ちをちょっぴり軽くする」ブランド baby toi を立ち上げる。
http://baby.to-i.net/
http://babytoi.net/service/
ママのクリエイティブ&デザインを軸に、赤ちゃんとの暮らしが楽しくなるアプリやワークショップ、映像、グッズなどジャンルを越えて企画・制作している。パリ発キッズファッション誌・Milk Japonの公式ブロガー。小さな子どもとの暮らし方や、子連れアートの楽しみ方を提案するアートブログ「アート・ミー!」連載中。
http://milkjapon.com/blog/hirano/

●ママの荷物とストレスをひとつ減らす方法

●出産後、とにかくテンパった

「核家族、保活失敗で退職、夫は仕事で毎日深夜帰宅、睡眠不足、慣れない育児のストレス……これが、ハイ詰んだ。ってやつか」 と、漠然と思いました。

電車やバス内での「ベビーカー畳むべきか畳まないで良いか」論争が巻き起こっていた当時。 たまたま入ったカフェで、グズった息子をあやしていたら「うるさい!」と怒鳴られたこともありました。 いつ泣き出すか分からない、時限爆弾のような小さな赤ちゃんと2人っきりのお出かけは、私にとって恐怖でしかありませんでした。

●携帯電話に赤ちゃんをあやす機能がつけば…

当時、日本ではiPhoneが発売されたばかりでした。 まだアプリの概念は一般的ではありませんでしたが「加速度センサーがついているので、iPhoneの動きを感知して何やら新しいことができるらしいよ」という話を友人から聞いて「すごい未来感だな」とワクワクしていました。

そこで初めて「ママが常に持ち歩いてる携帯電話に、赤ちゃんをあやすガラガラの機能がつけば、お出かけ先でのとっさのギャン泣きに対応できるのでは…!」と思いつきました。 ただでさえ荷物の多いママバッグの中の、ギャン泣き対策用グッズ(おもちゃや絵本、お菓子、おしゃぶり等々)を忘れても安心、荷物も減らせる! そして「今、それがいちばん必要なのは、私だ!」と強く感じたのでした。

●デザインへの落し込み
●赤ちゃんに使うものを選ぶのは、パパ・ママ自身

赤ちゃん用のおもちゃは、アプリといえども「子ども騙しのデザインではダメ」と直感的に感じていました。 ダウンロードするのはパパ・ママ自身。 大人にまず「イイ!」と思ってもらわないと、届けたい子どもには届かない。 そこで、あまり赤ちゃんに寄り過ぎたトーンにはせず、大人が「使ってみたいな」と感じられるようなラインを意識しました。

ただ「まだ視力が完成していない赤ちゃんが認識できるカタチ」「赤ちゃんが好きなカラー」など、赤ちゃんの特性に合ったポイントをきちんと押さえること。 そして遊び心を刺激するようなものであること。その2点に注力しました。

●検証、検証、また検証

赤ちゃんを泣き止ますガラガラの、1番重要なポイントは「音」でした。 サウンドデザイナーに相談して「赤ちゃんが好むといわれている周波数」に基づいた音作りをお願いしました。 デジタルのおもちゃですが、できるだけぬくもりを感じられるよう「生の楽器」に近い音質にこだわり、当時7ヶ月だった息子の反応を見ながら作りあげていきました。

音やデザインひとつで、びっくりするほど反応するものや、しないものがあることが分かりました。 荷物が多いお母さんがすべて片手で操作できるようなUIや、ひっくり返すとデザインが変わったり、昼と夜でモチーフが変身するなど、デジタルならではの特性を活かした検証は思った以上に時間がかかり、要した期間は1年近くにも及びました。


ラフスケッチ。どんなオブジェクトがどんな風に変化するか、そこにどんなストーリーがあるか、を考えながらスケッチしていった


キャラクターのバブバブちゃん


昼→夜で栗、青虫、太陽、水のモチーフが花、ちょうちょ、星、氷に変身



●デザインで世界は救えるか

たくさんのファミリーに出会えるリアルイベント


口コミでAP通信に取り上げられたことをきっかけに全世界へと広がった


●突然ですが、話は20年ほど前に遡ります

18才の頃、地方の美大の入学式で学長が放った言葉の中に、私の耳にずっと残った台詞がありました。「デザインで世界は救えるか」。 当時は「大袈裟だなあ」と思っていました。世界は混沌としていて、問題は山積みで、救いようがない程めちゃくちゃに見えていましたし(それは2016年の現在も大して変わりませんが)デザインひとつでどうこうなるような問題なんて、もともと大した問題じゃないでしょ。そもそも世界を救うなんて、ヒーローじゃあるまいし。と。

●少なくとも、お母さんは救える

しかし、このアプリをリリースして間もなく、驚くことが起こりました。 「本当に泣き止みました」「病院の待合室で使って、すごく助かりました!」「もう手放せません」・・・パパ・ママからのレビューが、世界中から届いたのです。 さらにその口コミが引き金となり、AP通信の記事で取り上げられ、アプリはまたたく間に世界中に拡がりました。

デザインで世界が救えるかどうかは、まだ分かりません。 でも、少なくとも「赤ちゃんが泣きやまなくて、1人でテンパっているお母さん」は救える。かつての私のように。そう実感させてくれる出来事でした。

●ひとりじゃない

このアプリはもちろん、私ひとりの力では産むことができませんでした。 モバイルのシステム開発・運営会社に勤めている友人、サウンドデザイナー、夫、アシスタントの女の子、息子、友人たち、たくさんの人の力を得て世に生まれてきた、とてもラッキーなアプリだったと思います。

「子育て」=「孤育て」をしていた当時の私は、このアプリ制作を通して「人・社会とのつながり」を感じることができて、一気に視界が拡がりました。 それらの経験は、現在の活動に生きています。 これからこのアプリを手にする新米ママには、アプリを通じて「ひとりじゃないよ」というメッセージを伝えることができたら、と思っています。



次回は水鳥雅文さんの予定です。

(2016年3月17日更新)

Design top

ページTOPへ