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Portfolio NOW!

このコラムでは、毎回1人のデザイナーに旬のデザインを見せていただき、その作品作りのきっかけ、コンセプト、世界観、制作テクニックなどを語っていただきます。リレーコラムですので、掲載クリエイターには次の方にバトンを渡していただきます。

Designer FILE 16:森 穂高

第六十九代横綱 白鵬関の家紋制作

森 穂高(DOT):グラフィックデザイナー。1977年生まれ。京都生まれ京都育ち京都在住。デザイン事務所を数社を経て2009年DOTを設立。ロゴデザイン、商業広告、店舗アイテム等のデザインをはじめ、京都にいきづく伝統工芸の発信等にも携わる。
http://www.dot-creative.net/

●家紋ってなんだろう?

●白鳳関の家紋をつくる
日本人であれば誰でも持っている家紋ですが、モンゴル人である白鳳関には家紋がありません。白鳳関は、これまで羽織などに家紋を入れる際には親方の家紋や、奥様のご実家の家紋を使用されていたそうです。

そこで白鳳関のタニマチ(後援者)の方から「横綱・白鳳の家紋がほしい」というご要望があり、京都で神官装束などを手がける吉田装束店さん(http://www.shouzokushi.com/)に相談がありました。

ちなみに装束店とは、神主さんや巫女さんの装束をはじめ、神社における工芸品を幅広く扱うお仕事です。いわば、神社関係の手仕事の総代理店ともいえる存在で、伝統工芸が今も残る京都らしい業種です。

ただ、そんな吉田装束店さんでも新規の家紋制作(しかも力士)については経験がなく、驚かれたそうです。そこで、これまでに伝統工芸に関するお仕事で吉田装束店さんとご一緒させていただいていたDOTにデザインの相談がありました。

●家紋ってなんだろう
これまで家紋について意識して考えたことはありませんでした。なんとなく見慣れているものですが、いざつくるとなると知っているようで知らないことだらけ。

「家紋のデザインにはどんなルールがあるの?」「タブーは?」「文様の意味は?」「既存の文様を組み合わせてもいいの?」「そもそも新しい文様をつくっちゃってもOK?」と頭のなかが疑問でいっぱいに。

吉田装束店さんに借してもらった呉服業界における家紋のバイブル『平安紋鑑』に記載された3,000種以上もの家紋とにらめっこしながら悩む日々が続きました。

●その道のプロに聞く
考えていても分からなければ家紋のプロに聞いてみよう、と呉服に家紋を描き入れるお仕事をされている森田紋章工芸さんに相談に伺いました。森田さんによると、家紋には地域ごとの決まり事などがあるが、基本的には自由にデザインされたものが多い、ということでちょっと安心。

日本の家紋を勉強するのと並行して、モンゴルの伝統柄についても調べました。日本と同様に、モンゴルにも大切に受け継がれてきた多くの伝統的な文様があり、それぞれに意味が込められていることがわかりました。また、日本とモンゴルの文様の多くに類似性があることにも気づきました。

●家紋をデザインする
デザインを始めるうえで、白鳳関からの具体的な要望はありませんでした。また、白鳳関に関する情報もメディアで知る以上のことはありませんでしたので、吉田装束店と一緒に手探りで制作をスタートしました。

初回の提案用に数点の家紋を制作。モンゴルの伝統文様から着想したものや、日本の銀杏や鳳などの文様をモチーフにしたものです。また、日本の伝統的な角字などもデザインに取り込んでみました。


「平安紋鑑」に記載された3,000種以上もの家紋とにらめっこ



●2つの文様を軸にデザイン

方向性を絞り込んでいく


最終候補の中から、実際に決定したデザイン


「アルハンヘー(縁取りの「かなづち文様」)」と「軍配」の中に「羽の角文字」を入れている


家紋を入れた羽織

●打ち合わせ―デザイン提案

・初回のデザイン提案
いくつかの家紋を提案したなかで、白鳳関がとくに興味を示されたのが、モンゴルの吉祥文様で、永遠の強さを表す「アルハンへー」と「ウルジーヘー」でした。次回からはこの2つの文様を軸にデザインを練り直すことに。

また、初回の打ち合わせでは、白鳳関からそもそもの「家紋を持つこと」の意味や役割などについての質問も出ました。これは次回の宿題に。

・2回目以降
前回の宿題となっていた「家紋の意味」についての説明をしつつ、デザインの肝となる文様を決める打ち合わせが続きました。

そんな中で、白鳳関の「翔」の字(白鳳関の四股名は『白鳳翔』)と、3人のお子さんの名前に入っている「羽」の文字を使うアイデアがでました。 デザイン案を作っては、提示し、削ぎ落す作業を繰り返します。 徐々に白鳳関の意向が固まってきて、このあたりでようやく方向性が見えてきました。

●デザインの最終提案
最終候補に残った4案を持って、ふたたび森田紋章工芸さんへ。 実際に羽織の生地に家紋を入れてもらい、白鳳関に見てもらうためです。

白鳳関が気に入っていた「アルハンヘー(縁取りのかなづち文様)」と「軍配」の中に「羽の角文字」を入れたデザインで決定! その家紋を入れた羽織をつくり、はじめての家紋制作は無事に終了しました。

●京都の人の縁
京都というヘンコ(=ヘンテコで面白い)な街で仕事をしていると、学ぶことが多いです。人の縁を大切にする街なので、仕事をするにもまず信頼関係ありき。価格やネームバリューよりも、「顔を知っている」という安心感から仕事を頼み、頼まれることが多いように思います。ある意味、そうして地域でのお金の循環が守られてるのかもしれません。

今回、ご一緒した吉田装束店さんも普段は遊び友達、森田紋章工芸さんは同級生のお父さんです。そもそも白鳳関のタニマチと吉田装束店さんをつないだのは、吉田装束店さんの向かいにお住まいの京大教授です。仕事なんだけど、仕事で出会った人々じゃないメンバーだからこその面白さがありました。こうして人の縁や、土地の歴史・文化に育てられることが京都の魅力なのかなあと思っています。

●デザインについて
今回の家紋制作のように、仕事を通じて、これまで自分がまったく知らなかった分野に出会えるのはデザインの醍醐味です。

家紋に限らず、クライアントだけを見ていては良いデザインは生まれないと思います。今回であれば、白鳳関との間に入って依頼をしてくださったタニマチの方をはじめ、そのプロジェクトの関係者全員と膝をつきあわせて一緒に考えていくことが、結果的に白鳳関に満足してもらえるデザインにつながりましました。制作過程ではいろんな意見で二転三転してややこしいですけどね。

●最後に
私の仕事は、その人らしさが表現できるツールを提供することだと思っています。プロジェクトの先頭に立って人を引っ張るタイプではありませんので、アイデアの提案を通じてコミュニケーションの潤滑油になりたいと思っています。これからも人と人の縁の中で、あたらしい縁をつないでいければと思います。



次回は木村陽一さんの予定です。

(2016年2月8日更新)

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