このコラムでは、毎回1人のデザイナーに旬のデザインを見せていただき、その作品作りのきっかけ、コンセプト、世界観、制作テクニックなどを語っていただきます。リレーコラムですので、掲載クリエイターには次の方にバトンを渡していただきます。
小川晋平(デザインとコミュニケーション):デザイン&コミュニケーションディレクター。京都出身。金沢美術工芸大学で伝統工芸を学び、上京。ソニーグループにてソニーの国内外プロモーションを14年間担当。プロダクト、ブランド、ショールームなど、さまざまなプロモーションのディレクションを行う。2012年、一企業だけでなく、ひと、まち、店、会社、海外など、たくさんの人々のためにありたいと「デザインとコミュニケーション」設立。小さなお店のブランディングから企業のコミュニケーション戦略、地方産業活性プロジェクトなど、場所や規模を問わず、さまざまなシーンで活動中。
http://www.design-communication.jp/
●ブランド(新店舗)の目的
今回オファーをいただいた創業90年の金沢の布団屋「石田屋」さんは、寝具、衣類、雑貨、インテリアと幅広く「健康=しあわせ」を提案してくれる布団屋さん。
今回ブランドデザインを担当することになった新店舗「gamadan/ガマダン」は、「最高の眠り」を実現するためだけに設計された建物で、「最高の目覚め」を一晩かけて体験できる、ユニークな宿泊型ショールームです。
石田屋 http://www.ishitaya.com
●偶然生まれたネーミング
この不思議なお店のネーミング。実は会議中、ホワイトボードに布団を「蒲団」と書いた際、「がまだん」と読み間違えたことが始まりで、それがそのままお店の名前となりました。その字面を見れば見るほどに、耳から入れば入るほどに、スタッフの中で漠然としていたブランドの世界観が見えたような気がしました。
●ブランドの世界観
ブランドデザインを始めるにあたって、ネーミングからは雰囲気はつかめてきましたが、ビジュアル化するにはまだまだ情報が足りませんでした。
そんな時クライアントから、想いが綴られた「メッセージ」が送られてきました。
「人の息 光と影 働き 食べて 眠る 陽が昇り沈む 月の満ち欠け 原始から続く営み なにもない それが全て、、、(もっと続く)」
これは詩? お店の? 物語? 誰の? あまりの抽象的な言葉の羅列だったので、これはどうしたものかと困ってしまいました。
●最初の作業
「まずはブランドロゴをつくりたい」とのことで、机に向かいましたが、送られて来た「メッセージ」を眺めても、これは普通に考えても無理だなと「やり方」を変えることにしました。
まずは1つひとつの言葉を実践し、その情景を感じてみる。息をしてみる、光にあたってみる、何か食べてみる、一旦寝てみる、月でも眺めてみる、何もしないでいてみる…そして情景が浮かんだらスケッチにおこしてみる。そんなことを始めました。
●ワークフロー
スケッチを繰り返し、なんとなく案がまとまってきました。
それですぐにPC作業に移行して仕上げるのですが、なぜかしっくりこない。それを繰り返しているうちに、気づけば提出期限が目前に迫ってました。
これはまずい! まだ1つも出せるものがない!
焦りで一杯のその時、ふと自分の子供たちが無邪気に描いている絵を見て、クライアントのヒントが少しわかったような気がし、すべてやり直そうと思いました。
●表現技法
PCでのデザインでは表現できないと、すぐさまPCを閉じ、紙と鉛筆でもう一度最初からスケッチすることにしました。
直感のまま筆を運ばせていくうちに、鉛筆の限界を感じ、筆と絵具に、そして筆から竹串、割り箸、指へと、絵具は墨汁、インクへと、気づけば「さつま芋」の芋版でペタペタやっていました。
最後に出来上がったものをPCでスキャンして、いつのまにか完成となりました。
●採用デザインのポイント
数案提出したもの中で採用されたものは、物語のある自信作でした。
子供たちと布団の中で潜って遊んでいた時に、モコモコ変化する「布団のシルエット」を見て、「gamadan」の文字を布団に潜らせてモコモコ動くロゴにしよう!
今回採用となったブランドロゴデザインは、そんな子供たちとの楽しい物語から生まれたものでした。
●最後に
ブランドデザインは、その企業やお店の利益だけでなく、社会に貢献したり、人々の心を豊かにする役割を持つ「かたちのないもの」、いつもそう信じて取り組んでいます。
そして、それをかたちにすることはもちろん容易なことではないですが、そのために「夢や世界観」をとことんクライアントと共有し、想像し、議論し合うことが、ブランドを築く上でもっとも大切なことだと思っています。
次回は森穂高さんの予定です。
(2015年12月25日更新)