このコラムでは、毎回1人のデザイナーに旬のデザインを見せていただき、その作品作りのきっかけ、コンセプト、世界観、制作テクニックなどを語っていただきます。リレーコラムですので、掲載クリエイターには次の方にバトンを渡していただきます。
塚田綾(株式会社TAF DESIGN):グラフィックデザイナー。1975年生まれ。京都精華大学を卒業後、デザイン事務所を経てフリーランスに。約5年後、夫とともに株式会社TAF DESIGN(http://www.tafdesign.net)を立ち上げる。スタンプ・ポチ袋などを制作・販売しているtokka(http://www.tokka-japan.net)も運営。
●コミュニケーションツールとしての小冊子作り
クライアントは三重県伊賀市丸柱で築窯から180年以上の歴史を持つ窯元、長谷園さんです。七代目が発明家で、「いかに飯をうまく食い、いかに酒をうまく飲むか」をモットーにものづくりをされており、炊飯専用の土鍋や燻製土鍋など、一風変わった土鍋を多数ヒットさせています。
しかし、ユニークな製品であることが逆に枷となり、使い方が想像し難いという問題を生んでいました。そこで、消費者(使い手)、デパートなどの販売員さん(売り手)双方に土鍋の魅力が伝わるコミュニケーションツールが必要ということになりました。
小冊子の具体的な使い方は、1年に1度実施している感謝セールで顧客に郵送するカタログに同封、ホームページ(http://www.igamono.co.jp)やアンテナショップで販売、展示会などで取引先に配布など。
どうせなら土鍋のことだけでなく、長谷園さんという作り手の魅力も伝えたい。こうして小冊子「recipe」の企画はスタートしました。
●制作フロー
「recipe 長谷園の土鍋レシピ」は20ページ前後の小冊子で、1年に1冊発行しています(今年で9冊目)。タイトルは長谷園の機能土鍋ができるまでのレシピ、という意味です。ここ数年はその名の通り土鍋を使った料理のレシピを中心に編集していますが、最初の6年間はじっくりと作り手の想いを形にしていきました。
これまでのテーマは「土鍋の産地、伊賀について」「デザインは機能」「土鍋の扱い方、お手入れ方法の掘り下げ」「長谷園の沿革」「毎日使える土鍋」などなど。伊賀まで何度も取材に行き、長谷園のこと、土鍋のこと、土鍋料理のこと、ものづくりのことを学びました。
予算の都合やページ数が比較的少ないなどの理由から、制作作業は基本1人で担当します。大変なこともありますが、すべてを手掛けることで情報を隅々まで把握でき、またロスなくイメージを形にでき、私にとっては仕事しやすい環境となりました。大学でカメラを専攻していたので写真は撮れましたが、コピーは言葉の使い方など細かな校正を外注でお願いしました。調理やスタイリングは長谷園さんと一緒に行います。
ここでは今年のテーマ「土鍋でスイーツ」の制作フローについて書きます。
テーマ決定。企画書・台割りを作成(手描き・Illustrator)。
具体的なスイーツ案&レシピの提案。写真のイメージは料理本や雑誌から近いものをコラージュ。
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長谷園さんとイメージのすり合わせをしつつブラッシュアップ。
決定したスイーツメニューの試作・レシピ完成。
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OKが出たら必要なカットや情報をリストアップし、使用する土鍋や器の手配を依頼。日程を組み、食材の買い出し・調理・スタイリング・撮影(デジタル一眼レフ)。
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材料が揃ったらコピーを書き、デザインに落とし込み作業(Illustrator、Photoshop)。
いつもは長谷園さんのVIに沿った渋めの色使い、シンプル、重厚感などを軸にデザインしますが、今回のテーマはスイーツなので、ちょっと可愛らしく、かつ土鍋スイーツの素朴さを出したいと考えました。
具体的にはパステルピンクをページのベースカラーにしたり、撮影時にカラフルなファブリックを使ってスタイリングしたり、お菓子の質感を感じる寄りの写真を撮ったり。スタンプ風の数字パーツはオリジナルで制作したゴム印を紙に押してスキャンし、パス化しています。
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予算に合わせて紙を決め、印刷料を見積もり。印刷屋さんに数パターンの束見本を作ってもらい、紙の厚みなど細かく決める。
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修正・色校正を重ねて校了。
●日々、土鍋を使ってみる
レシピ提案をするために、毎日土鍋を使います。「recipe」vol.1と同時期にスタートした週1更新の土鍋レシピブログ「長谷園の週刊webレシピ(http://recipe.igamono.jp)」では、レシピ提案、料理、撮影、ブログアップなど担当し、今はライフワークとなっています。
もともと料理が好きだったので、やらせてほしいと申し出て、実現しました。
この経験が、ここ数年の「recipe」で活きています。毎日土鍋を使っているうちに土鍋活用術や簡単土鍋レシピなどたくさん引き出しができたので、それを形にしています。
●クライアントとの関係
長谷園さんは七代目であるお父さん、お母さん、八代目であるお兄さん、お姉さん、弟さん、妹さんと家族で会社を切り盛りされています。ご両親と兄弟2人は伊賀で、姉妹2人は東京で。その姉妹と私は同世代で、プライベートでも興味のあるものや好きなものが似ていて気が合ったことが、この仕事には大きかったと感じています。
長谷家の姉妹と一緒に「recipe」の他にも土鍋に添付する説明書やカタログなど、たくさんの印刷物を作っています。きっちり作りこんだ料理の写真を撮るときはスタイリングを姉妹が担当し、私が撮影。台割りを作って「こんなことがしたい」というイメージを私に伝えてくれることもあります。
製品開発では土鍋ユーザーとしての意見を求められることもあります。長いお付き合いなので、クライアントとデザイナーが時には互いの垣根を超えて仕事をする、そんな関係が築けています。
●デザインについて思うこと
人付き合いの中で、同じ内容なのに言い方1つでぜんぜん伝わり方が違う…という場面に遭遇します。グラフィックデザインはクライアントの考えや想いを、世の中に愛嬌よく魅力的に伝えられるよう言い方を工夫する、そんな仕事だと思います。
次回は小川晋平さんの予定です。
(2015年11月30日更新)