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Designデザイン

Portfolio NOW!

このコラムでは、毎回1人のデザイナーに旬のデザインを見せていただき、その作品作りのきっかけ、コンセプト、世界観、制作テクニックなどを語っていただきます。リレーコラムですので、掲載クリエイターには次の方にバトンを渡していただきます。

Designer FILE 10:瀬戸山雅彦

服飾作家ブランド「sensense」の
アートディレクション

瀬戸山雅彦:グラフィックデザイナー。1981年長崎生まれの大阪育ち。東京都在住。三木健デザイン事務所で約10年間勤務後、2014年上京と同時にフリーランスへ。また、イベントなどに「うみひこやまひこCOFFEE」という屋号で珈琲淹れとしても活動。
http://www.seto-yama.com

●ブランド世界観の選定

●テーマとデザインスタンス
「sensense(センセンス)」は「より良い普段着」をテーマにセミオーダーでの服作りをしている服飾作家中村章洋氏のブランドです。仕立てから天然の染料による染めまで作家自身が一点一点手作りしています。着る人の佇まいや着た瞬間、動いた瞬間の肌に触れる心地良さや機能性といったすべてが計算された丁寧な作りが特徴です。

はじめにお話をいただいた時は、展示会を一度開いた段階で、ロゴも定まっていませんでした。よって、自身の思い描く世界観と現状の視覚的な情報の誤差を埋めたいとのことでした。 私の仕事に対する基本的なスタンスは、本当にデザインがこの案件には必要なのかという点から入ります。そもそもデザインをあえてする必要のないこともあります。

それに、作り出すということは一定の社会的責任が課せられます。このデザインがあることによって何らかの形でも社会的意義があるのか。また、それは可能であるのならば今後も継続的に存在していけるのか。

●「より良い普段着」という思想
打ち合わせの中に中村氏に聞いた自身の服作りにおける「大事にしていること」とは何かの答えからこの案件の根幹が決まりました。

一般的に「服」とは着飾る目的のものが多い。それは自分のためである以上に他人から見た自分を考えたものかもしれない。それも間違いなくひとつの「服」のかたちではあるが、sensenseは出かける予定が何もない普段の日でも着られる服を作りたい。

着る自分が一番気持ち良くなれる「服」。着替える時に自然と手が伸びてしまう「服」。だから「天然」を主とした素材や技法で作り、身体的にもかかる負担をできるだけ排除しているとのことでした。

その考えと技術に共感を抱きました。同時にこれは普遍性を持ったデザインが必要であると考えました。そして、デザインに落とし込む前にこの「大事にしていること」を簡潔に言い表す言葉として「より良い普段着」をコンセプトワードに定めました。

sensenseの思想を成文化することでデザインの方向性がより明確になると同時に、依頼者である中村氏自身も今後のもの作りに大きな柱が持てるようになります。デザインは単にカタチを生み出すことではありません。きちんとした思想から生まれるものです。そして、思想は言葉から作られるのです。






●デザイン作業

●ロゴ制作
sensenseというブランド名は作る側のセンスと着てもらう側のセンスが融合し、新たに生み出されるセンスという事象を目指して付けた名前だそうです。その話と字並びから、まずは化学式のような案が浮かびました。しかし、前述のように普遍性を持ったデザインであるならばあまりに「手」を加えたものには違和感がありました。

そう考察していくうちに「セミオーダー」の服作りに呼応するようにロゴ書体は作るのではなく既存で特別スタンダードなものをそのまま使用してみようと思い、Helveticaを選定しました。

そして、最小限の表現として作り手と着る人のセンスを紡いでひとつになるという意味合いを表現するため、senseseの字間を/で区切ることで視覚的に「縫い糸」を想起させるようにしました。

●撮影
紙ブランドの制作物である服をどう見せるかといった点では、決してスタジオでは撮影しないことにしました。日常性を少しでも出すために、街中や公園などを「気分良く」遊歩しているように。あくまでもただの日常を切り取ったような写真にしたいと考えました。

●デザインって何だろう
それはきっとデザイナー1人ひとりに違う考えがあると思います。 私自身はデザインってこれだ! と胸を張って言える格言めいたものはありません。

ただ、最近少しだけ見えてきた言葉は「継続」というものです。長く使われていく年月の中でさまざまな立場の人に育てられて成長していくことのように思います。

それは本当に必要なものか。デザイナーは深く考えながら責任をもって「デザイン」していくことに尽きるのだと思います。

 



次回は多々良直治さんの予定です。

(2015年8月14日更新)

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