このコラムでは、毎回1人のデザイナーに旬のデザインを見せていただき、その作品作りのきっかけ、コンセプト、世界観、制作テクニックなどを語っていただきます。リレーコラムですので、掲載クリエイターには次の方にバトンを渡していただきます。
タキ加奈子:アートディレクター・グラフィックデザイナー。東京造形大学卒業後、アキタ・デザイン・カン、CAPを経て2012年に独立。柴田ユウスケと共にsoda designとして活動中。2013年に法人化。エディトリアルを中心として、多岐に渡るグラフィックデザインの分野に関わっている。
http://sodadesign-tokyo.tumblr.com/
●アイデア、世界観
渋谷パルコで行われた「PARTY SALE」と呼ばれるセールのビジュアルの依頼を受け、DMや屋外広告などに展開できるようなビジュアルの制作を担当しました。今回、いわゆる「セール」という側面だけでなく、「meets MUSIC」ということで、セール期間中に音楽関連のイベントが多々行われるという告知も兼ねるものを、という条件がありました。
「セール」というワクワク感、音楽を感じさせる疾走感、そして、パルコさんの持つ「ファッション感」。それらの要素を兼ね備えるビジュアルを考えるべくアイデアを練り始めました。
●アイデアを練る
アイデアを考えるとき、ビジュアルよりも先に「言葉」で整理することが多く、この時も「音楽」と「セール」から思いつく言葉をひたすら書き出しました。そのうちに「走る」「スピード感」「点描」「ストライプ」など、両方から派生できるような言葉が出てきたので、そこからビジュアルへのアイデアへつなげていきました。
●ラフの提案
今回、予算内であればイラストや写真での表現も可能でしたが、当初はイラストか、タイポグラフィのみでの表現を考えていました。というのも、「音楽」とひとことで言っても、個人個人で受け取り方は大きく異なるため、「写真」という、一番直接的にコミュニケーションできる方法をとってしまうと、イメージが固定されすぎてしまうかもしれないと危惧したからでした。
●プレゼンテーション
イラストを使う案と、タイポグラフィのみで構成する案を提案しました。結果、タイポグラフィの案に決まったのですが、セールということを考えると、白い背景が若干寂しいかもしれない、との指摘を受けました。
また、今のビジュアルだとファッションよりもアート要素が強いかもしれない、という意見もありました。そこで頭を切り替え、より「ファッション」を強く前面に出すために、イメージとしてモデルの写真を背景に入れることを考えました。このように、最初に考えていたアイデアにほかの方の意見が加わって、化学反応のように変わっていくのが、仕事をする上でひとつの楽しみだったりします。
●撮影
フォトグラファーとヘアメイク、モデルのアサインをし、撮影を組みました。気分が盛り上がるような音楽を用意し、モデルさんにはヘッドフォンをして音楽にあわせて踊ってもらいました。ヘアメイクさんには髪の毛がふわっと風で舞い上がるようにしたい旨を伝え、動きをつけやすい髪型を作ってもらい、撮影中はドライヤーで風を起こしてもらいました。
●デザインのポイント
季節・タイミング的にも、夏のファッションを買いたくなるような色味にしたいということで、青と黄色をメインカラーとし、リズムを感じさせるべく水彩のタッチや、点描や有機的な線を配していきました。
最初に書いたとおり、モデルの「個」が立ちすぎてしまうと、刺さる人を限定してしまう可能性があるので、あえて写真は青一色で加工をして、1枚の背景レイヤーに見えるようにしました。撮影中に実際写真を青くしてチェックし(写真は自分自身です…)、影の付き方などをチェックしました。
青と黄という色合わせは、少し間違えると子供っぽい色味になってしまうので、タイポグラフィや線画はスミを使って全体的に締まった印象になるように注意しました。
●イメージビジュアルを作る上で注意すること
今回のようなイメージビジュアルを作る仕事では、タテヨコ両方の比率で展開されることが考えられるため、どちらになることも想定しておかねばなりません。今回はタテを基本とし、ヨコの時はモデルを90度回転させて配すことを決めていました。
●まとめ
セールは5日間だけでしたが、その間に作ったビジュアルを大々的に展開していただき、PARCOの周辺が明るい色で染まっていて、人も多く、盛り上がっている様子がうかがえました。ただの告知だけでなく、その街全体を明るくできたことはよかったなと思いました。
●思うこと
2011年の東日本大震災の直後、「デザイナーは何もできない」と思った時期がありました。何か変えたいと思って選挙で票を投じても、自分の思うようになることはありませんでした。
遠い地に足を運び、危険な集団と直接言葉を使ってコンタクトをとろうとするジャーナリストの方々を見て、デザイナーとはなんて回りくどいコミュニケーションをする職業なんだろう、と無力に感じたこともありました。けれど、口で言えないからこそ、自分の得意な形でコミュニケーションをとることも大事なのだ、と最近は思えるようになりました。
時に言葉は直接的すぎて、暴力のように人を傷つけることもあります。一見遠回りでも、ウィットに富んだビジュアルや表現で伝える方が、聞く耳を持ってもらえることもありますし、それが自分にできることなのではないだろうか、と感じます。
とはいえ、普段の毎日は目の前のことで精一杯です。ひたすら今関わっているお仕事をありがたく思い、真摯に取り組むことで、関わる人たちがハッピーになること。そのハッピーが周りにも連鎖していったらいいな、と思います。
日々物凄いスピードで過ぎていきますが、世の中の動きを忘れず、常に自分は社会の一部であること、そして「何かと何かを繋げて、より世の中を楽しくするのだ」という意識を忘れずに生きたいなと思います。
次回は関 翔吾さんの予定です。
(2015年6月10日更新)