●海中の情景をモノトーン基調で描く
普段、クライアントワークでは時代小説の装画、挿絵を手がけることがほとんどです。しかしそのほかにも、常日頃から本を読んだり、映画を見たりといった中で、気になるテーマや魅力的なモチーフが見つかると、ジャンルにこだわらず、とりあえず描いてみることにしています。
今回描いたのは昨年から気に入って描いている海中の情景シリーズの1枚です。このシリーズでは、あえて使用する絵の具の色幅を絞り、その代わりに細かい描き込みや色の重ね方、色の組み合わせを工夫することでできるバリエーションを増やし、表現の幅を広げていきたいという狙いもあります。こうして得た新たな発見を、お仕事の方にも反映させることも多いです。
完成イラスト。(クリックで拡大) |
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・資料
何であれ描きたいものが決まったら、本やネットでそれについて調べます。これはお仕事の時代小説では着物、建築、習慣などともかく調べ物が必要なので、他のモチーフでも調べ物をするのが癖になっています。
海の生き物については、実際の生態を知ることが、多少なりとも説得力につながるのではないかと考えています。最終的には絵として美しく、面白くなるようにというところを最優先にアレンジしています。
・下絵
パネルに水張りした水彩紙の上に鉛筆で直接描いていきます(画像1)。だいたいの構成が決まったら、黒の絵の具で線画をなぞり、色の乗る部分は薄く塗っておきます。この後背景色で塗りつぶしてしまうので、はっきり目に描いておきます(画像2)。
画像1:パネルに水張りした水彩紙の上に鉛筆で直接描いていく。(クリックで拡大) |
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画像2:黒の絵の具で線画をなぞり、色の乗る部分は薄く塗っておく。(クリックで拡大)
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・下地づくり
アクリルガッシュを数色混ぜて背景色を作り、全体を塗ります。今回はグレイッシュなブルーです。やや薄めに溶いたものを2回塗ります。絵の具は大量に使うので、多めに作って瓶に入ってます(画像3)。
画像3:今回の背景色はグレイッシュなブルーに。(クリックで拡大) |
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・着彩
下描きの線をもとに、今度は濃淡を作りながら黒1色で描き起こしていきます。この工程では濃淡の調子をつけやすい、透明感のあるリキテックスを使っています(画像4)。下描きにはいなかった生物を増やしたり、即興的に描いていきます。
ある程度進んできたら、白とベージュ系の絵の具もプラスして、細かいテクスチャーを描き込んでいきます。できる限りモノトーンで進めます。使う筆は日本画用の削用筆と面相筆がメインですが、細かくなってくるとほぼ面相筆1本です(画像5)。
画像4:濃淡の調子をつけやすいリキテックスを使用。(クリックで拡大) |
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画像5:細かいテクスチャーをできる限りモノトーンで描き込む。ディテールはほぼ面相筆1本で。(クリックで拡大)
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・仕上げ
モノトーンでほぼ描き込んだら、最後にブルーとイエロー系の色でポイントを作って終了です(画像6)。
画像6:ブルーとイエロー系の色をポイントに置いて仕上げる。(クリックで拡大) |
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次回は水野朋子さんの予定です。
(2022年6月10日更新)
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