●季節の判じ絵、なぞなぞイラストの制作
完成イラスト。 |
|
|
こんにちは。髙安恭ノ介です。今回は、2017年から問題考案とイラストレーションを担当させていただいているお仕事からご紹介させていただきますね。季刊『1・2・3歳』(株式会社赤ちゃんとママ社)の中の「季節の判じ絵」というコーナーのものです。
判じ絵とは、江戸時代に流行した目で見るなぞなぞのことです。
仕事につながった経緯は、私がつくった書籍の企画とそのダミーページに、赤ちゃんとママ社の編集部の方が興味を持ってくださったことがはじまりです。そこから編集の方が判じ絵と歳時記をからめた企画にブラッシュアップしてくださり、企画実現になりました。 そのあたりも少しですがお話できればと思いますので、お付き合いくださいますとうれしいです。
・アイデア、構想、描くきっかけ
そもそものきっかけは、企画から自分で考えることにより、自ら仕事を生みたいと思ったからです。せっかくフリーランスになったので、受注業務だけではなく、発信できる仕事もつくりたい。だけど、何をすればいいのだろうか。と長らくくすぶっていました。
それにくわえ、当時は現在よりも仕事が安定していなかったので、仕事がないなら自分で作っちゃえ! とも思っていました。 くすぶる火が消え入る前に思い立ち、1人で判じ絵の現代版や企画をつくっていたところ、いくつかご縁が重なり、 もともとお世話になっていたランドリーグラフィックスギャラリーさん(東京)での「my book planninng展」という展示に参加させていただく運びとなりました。
補足になりますが、この展示は著書の出版や連載を目的にしており、イラストレーター自らが考案した企画の企画書やダミーページを展示するというユニークな企画展です。 展示がはじまる半年ぐらい前から、作家の方や編集者の方などをゲストに迎え、お話をうかがいながら自分の企画をブラッシュアップしていくので、とても実践的ですし企画力が身につくと思っています。
判じ絵を手段にした理由はいくつかあるのですが、絵のシュールさと謎解きというゲーム性、そして、1人でも楽しめるけれども、人と一緒に考えたりすることでコミュニケーションとしても成立すると思ったからです。
それに、当時流行した判じ絵を見ていると、モチーフ・解答ともに現在では姿を消してしまったもの、馴染みのないものなどがあります。時代が変わっても判じ絵のおもしろさはきっと変わらないと思い(事実、判じ絵のルーツとされる言葉遊びは平安時代からある)、現代版の判じ絵をつくろうと思いました。
・制作環境と使用ツール
iMac(OS high sierra 10.13.6)、Photoshop CS5 、ペンタブレット(intuos 4)。
・ワークフロー
全部で(6)までの手順がありますが、絵を描きはじめるのは(4)からになります。
(1)収集
問題をつくる前に答えを集めます。書籍やインターネットを使い、歳時記や季語をただひたすらに収集します。
(2)選別
聞き慣れなかったり、分かりにくいもの、現代ではそんなに使わない古い言葉などはここで分別します。また、毎号3問ずつの掲載という決まりと季刊誌という媒体上、問題が同じ月のものに偏らないように、できる範囲で気をつけています。
(3)問題考案
たとえば、「にゆうどうぐも」「にゆうとうくも」といったように、ことばをばらばらにします。区切ったり、逆さまにしたり、間に違う文字を入れたりして問題をつくります。 ここが一番重要で、苦しいところなんです。
この段階で問題がうまくつくれずに、作業終了するものもたくさんあります。
このときは、「にゅうどう」と「くも(に濁点をつける)」ということで問題が決まりました。
それに、この段階で問題がうまくつくれずに、作業終了するものもたくさんあります。このときは、「にゅうどう」と「くも(に濁点をつける)」ということで問題が決まりました。
(4)アイデア出し
ラフになる前の下描きたちです。判じ絵の絵は、シュールでめちゃくちゃなところがあって、絵としてもおもしろい。 そこもまた魅力だと思うんです。なので、1つの問題に対しても、何パターンが描いてみて、絵としておもしろいかどうか、そして、分かりやすいかという点をいい塩梅になるよう調整していきます。コピー用紙に鉛筆やペンで描くことが多いですが、残していないので、画像はないです。ごめんなさい。
(5)ラフ作成
アイデア出しで固まったものをスキャン、あるいはスマホのカメラで撮り、ドロップボックスにアップしてPCと共有します。
ラフもデジタルで進めます。
ここで、途中ですが先に絵のポイントをまとめてみました。
・筆圧感知のブラシでアナログっぽく表現
・テクスチャーやブラシの合成で質感を出す
・描きすぎないことで隙をつくっておく
この3つです。
5-1 ラフ
筆圧感知ができ、鉛筆に近い質感のブラシでラフを描きます。描いている最中は迷い線や描き込みが多かったりしますが、クライアントに提出する状態のものでは、シンプルにしています。とりわけ、こちらの案件では答えを伏せた状態で提出し、担当の方に実際に判じていただいてから掲載する問題を決めていただくので、分かりやすく整った仕上がりを目指しています。
一番最初に提出したラフ。(クリックで拡大) |
|
|
5-2 ラフ修正1
戻しの際、「入道っぽさと雲っぽさをもっと出してほしい」というご要望がありました。自分の中で前回以上の入道っぽさがなかなかつかめず、担当の方やいろいろな方に入道っぽさを聞いたりしました。その結果、入道は妖怪に近づけ、蜘蛛は巣にくっついているものにしました。
修正案。(クリックで拡大) |
|
|
5-3 ラフ修正2
再び戻しが返ってきました。「答えが分かったときに理解・納得しやすいように」ということで、入道部分は前回の座っているものにして、破戒僧のような格好に決まりました。これでラフも固まりました。
決定したラフ。(クリックで拡大) |
|
|
(6)着彩
6-1 線入れ
まず、和風な毛筆ブラシで本番用の線画を描きます。このブラシも筆圧を感知する設定です。線入れのレイヤーの下に先程のラフを置いていますが、きっちりトレースするというよりは、跳ねやはらいなど遊びの部分を意識しながら描いていきます。描いてもしっくりこない線は、⌘Zで何度でも描き直しています。はやく一発でいい線を引けるようになりたいです。
Macで線画を描く。(クリックで拡大) |
|
|
6-2 彩色
彩色レイヤーは線画レイヤー(乗算にしている)の下につくり、色ごとにレイヤー分けをしています。 また、昔の判じ絵は木版で刷られているので、版画のような質感とアナログの温かみを醸し出せるように意識しています。このときもブラシにはペンタブの筆圧が反映するものを選んでいるので、塗りの濃淡やかすりを出すことができます。
それにしても、この入道さん、ちょっと肌が黒いですよね。
色ごとにレイヤー分けして彩色。(クリックで拡大) |
|
|
6-3 調整
人の肌を塗るときは、荒々しさといいますか、イラストレーションだからこそ出せる生命感を表現したいので、はじめは濃い色で描き、その上(別レイヤー)に荒めのブラシで色を施し、合成しています。合成方法はスクリーンです。これで、ちょうどよい肌色になりました。
肌色を微調整。(クリックで拡大) |
|
|
6-4 仕上げ
最後の仕上げです。昔っぽさを出すために、すこし色あせた印象の色彩にします。ここでは、セピアっぽい色のレイヤーを一番上につくり、オーバーレイで合成することで調整しています。
セピアっぽく仕上げして完成。(クリックで拡大) |
|
|
以上の手順で、完成です。
お付き合いくださいまして、ありがとうございました。
最後に、ぼくから皆さまへ問題です。
ぜひ、判じてみてください(ヒントは、春のものです)。
春に吹く風? (クリックで拡大) |
|
|
次回はアイハラチグサさんの予定です。
(2019年1月22日更新) |