●単行本のカバー装画
・エッセイ集「ターミナルから荒れ地へ」装画プロセス
中央公論新社より刊行の米文学翻訳家、藤井光さん著のエッセイ集「ターミナルから荒れ地へ」のカバー装画を担当しました。その制作過程をお話します。装丁は細野綾子さんです(画像1)。
画像1:完成した装丁(クリックで拡大) |
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・打ち合わせ→ラフ制作
今回ご依頼をいただいた経緯として、私の以前の個展のDM(画像2)をご覧いただきその雰囲気を今回の装丁に反映させたいとのことでしたので、その絵を交えながら編集者、デザイナー、と打ち合わせました。
画像2:個展のDMに用いたイラスト(クリックで拡大) |
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いただいた原稿を数日かけて読み、内容と全体の雰囲気をつかみます。現代アメリカ文学作品を翻訳者の観点から紐解き、解説、紹介するという点から、机の上に広げられた地図や、組み立てる前のパズルを眺めるような、俯瞰的視点の絵が良いのではないかと思いました。
タイトルである「ターミナルから荒れ地へ」という言葉、著者の翻訳でありこの本の中でも取り上げられているサルバドール・プラセンシア「紙の民」などのイメージから「さまざまな事象が渦巻く荒れ地から飛び立つ紙飛行機」というモチーフを選びラフを制作する流れに。
ラフは文字の入るスペースを考えつつ数パターン制作し、デザイナーさんに渡してタイトルを配置してもらいながら、紙飛行機の形や余白の取り方を探っていきました(画像3、画像4)。
画像3:線画スケッチ。(クリックで拡大) |
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画像4:文字組を確認する初期のラフデザイン。(クリックで拡大) |
●原画制作
ラフを元にビジュアルを制作します。
今回は使用する紙の質感が大きく反映されるので、荒野を思わせる荒めのクラフト紙や、シルエットの深い藍色などいろいろな紙を吟味して選びました。
紙版画の技法や、櫛、フォークなどを使って、飛行機の軌跡、人々の影や足跡、等高線など、さまざまなものが行き交った形跡を思わせるような抽象的な絵を制作。それを切り出し、その上に人型や窓などの具体的なイメージや、強い形の切り抜きを散りばめながらしっくりくるバランスを探っていきます。この段階で紙飛行機もよりわかりやすくシャープな形に。
数パターンを撮影し、デザイナーさんに送り文字を配置してもらい、疎密のバランスや細かい角度の調整などを繰り返します(画像5、画像6)。
画像5:いろいろな紙で確認。(クリックで拡大) |
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画像6:デザインのラフ。(クリックで拡大) |
OKをいただいたら切り抜いたものを貼付けていきます。完全に貼付ける部分、少し浮かす部分、置くだけの部分などをつくり画面に立体感をもたせるように制作しました。絵を撮影しPhotoshopで調整、デザイナーさんに送ります。
・使用ツール
インク、紙(用途に合わせ数種)、櫛、フォーク、ゴム版、カッター、はさみ、のり、Photoshop(画像7)。
画像7:基本アナログツールで作成(クリックで拡大) |
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次回は小林 晃さんの予定です。
(2017年1月16日更新)
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