●ミステリー小説のカバー装画
・パトリシア・ハイスミス「アメリカの友人」装画プロセス
河出文庫より刊行のパトリシア・ハイスミスのミステリー小説「アメリカの友人」の改訳新装版のカバー装画を担当しました。その装画の制作過程をお話していきます。なお、カバーデザインは川名潤さん(prigraphics)です。
・構想
1955年~1991年に発表されたパトリシア・ハイスミスの”トム・リプリーシリーズ”と呼ばれる作品の第3作目の物語になります。今回、改訳新装版の装画を描くにあたっては、すでに刊行された前2作の「太陽がいっぱい」「贋作」と調和するデザインを目指しました。今作では、主人公のトム・リプリーと、物語のキーマンであるジョナサンを表紙に登場させました。
・使用ツール
アイデアスケッチ:紙、鉛筆。ラフ:Photoshop。原画清書:板、アクリル絵の具。
画像A:完成した「アメリカの友人」文庫本カバー(クリックで拡大) |
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画像B:太陽がいっぱい、贋作、アメリカの友人文庫本写真(クリックで拡大) |
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・1.打ち合わせ→アイデアスケッチ
本のゲラを何日かかけて読んだ後、デザイナー、出版社の方と打ち合わせをします。この時に本の表紙としてふさわしい絵面を話し合います(仕事によっては、仕事の依頼が来た次点でデザイナーの方から描くモチーフを指定される場合もあります)。
打ち合わせでは話し合いながら簡単なスケッチを描きます。今回は描くものを「車(内装)」「主人公のリプリー」「物語のキーマンとなるジョナサン」に絞り、(写真1)の構図に決定しました。描くもの、おおまかな色彩や雰囲気の方向性がだいたい共有できたら打ち合わせ終了です。この時決めた内容がラフ制作の構図、色彩計画の軸になります。
画像1:打ち合わせのアイデアスケッチ(会話の中での作成のため、かなりラフなスケッチです)。(クリックで拡大) |
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・2.ラフ制作
本格的なラフを作成します。自分は線よりも色面を意識して絵を描くので、色、形を同時に検討できるPhotoshopでラフを制作しています。
背景、人物などをレイヤー別に鉛筆ツールで描いていきます(画像2~5)。ある程度進んで候補に近いものができたらその都度別名で保存し、形や色彩配置を微妙に調整ます。その後それらの調整案を見比べ、色、形の精度を吟味していきます。そうしていくと多い時で計20パターンほど調整案が出ます。その中から1案に絞っていきます。制作中は良し悪しの判断が麻痺することも多いです(特に真夜中に作ったものなど …)。なので、いいなと思ったものができても少し寝かせておき、後日冷静な目で確認して判断したりしています。人やモチーフを描く時は、色、形の響き合いがグラフィックとして視覚的に心地よいかどうかを重視しています。「人(あるいはモチーフ)」を、画面を構成する上での「図形」として捉え、意外性と共感性が両立できそうなデフォルメを探っています。
また、ラフの段階でデザイナーの方が組む文字の位置も想像しておきます。今回のパトリシア・ハイスミス 「アメリカの友人」は、シリーズものの中の1作品なので、すでに刊行された前2作の表紙との文字の高さ、バランスを考慮しながら要素をどこに描くか吟味しました。
完成したラフ(画像6)をデザイナーの方にメールで送ります。場合によっては、そこでアドバイスを受けて修正案を制作することもありますし、そのままOKをいただくこともあります。デザイナー、出版社の方のGoサインがいただけたら原画制作に移ります。
画像2:背景、人物などをレイヤーに分け、鉛筆ツールで描いていく。画像6までその工程。(クリックで拡大) |
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画像3:(クリックで拡大) |
画像4:(クリックで拡大) |
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画像5:Photoshopのレイヤーでこのように分けている(クリックで拡大) |
画像6:レイヤーを統合して確認。(クリックで拡大) |
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・3.原画清書
板に下地を作り、下描き後、アクリル絵の具で彩色します。基本的にはラフの内容に沿ってきっちり仕上げます。案件によってはPhotoshopで制作したものをそのまま入稿用のデータで提出することもありますが、ほとんどの場合は原画をアナログで制作してスキャンし、入稿用のデータを作ります。肉筆のちょっとした線の味、絵の具で塗った色面の微妙なムラが温かい風合いとなってくれます。Photoshopで制作したラフの粗い形を活かすところ、手描きのフリーハンドでできた鮮度のある線など、それぞれの旨味を吟味しながら良いラインを探っていきます。色面のささいなムラも活かすところ、なくすところなど、印刷が仕上がった時の見栄えを想像しながら描いていきます。
原画が完成(画像7)したらデザイナーの方の事務所に届け、スキャニングをお願いします。
画像7:Photoshopで描いたラフを元に、板にアクリル絵の具で彩色して仕上げる。(クリックで拡大) |
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次回は山本アマネさんの予定です。
(2016年11月30日更新)
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