●エッセイの挿絵を描く
・TRANSIT エッセイ挿絵の仕事 今回ご紹介させていただくのは雑誌「TRANSIT 33号」での作家・石田千さんのエッセイの挿絵のお仕事です。
特に指定もいただかなかったため、どのシーンを切り取るのか、どれくらい説明するのかなどのさじ加減を考えつつも過去のエピソードを振り返るようなモノローグ感のある絵を描きました。
画像1:完成イラスト(クリックで拡大) |
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・絵を描く前に
絵の仕事を受ける時に必ず行うようにしていることがあります。文章や内容に関して自分なりに調べることと、絵を描くときの音楽を決めることです。
今回は実際に石田千さんの経歴を調べたり著書「平日」を読みました(時間の許す限りですが)。フランス旅行中のエピソードの、一見華やかなように見える時代の不安や重圧を考慮して、アメリカの方ですが音楽はBill Evansの「You Must Believe in Spring」を選びました。
・ラフ出し
ラフはあまり描きすぎずに、実際のモチーフなどに相違がないか共有するのを目的に提出します。
この時点で自分でも気になった箇所は本番で修正をしていきます。この時は構図がシンメトリーになって第三者の目線に見えるのを、少し著者側(女性側)にずらすことでどちらのストーリーなのかを見る人に伝えるために構図の変更をしました。
画像2:ラフ(クリックで拡大) |
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・画材 青やモノクロなど1色で描くことが多いので、同じ色の画材の中でも複数の画材を揃えます。青の場合よく使用するのはウルトラマリンブルー・ロイヤルブルーのアクリルガッシュ、インク、パステル、色鉛筆、サインペン、ミリペンなどです。同じ色名で販売していても微妙に色相が違うので一見単色に見えますが深みのある画面になります。
画像3:さまざまな「青」の画材。(クリックで拡大) |
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・清書
大きい画面の場合ざっとアタリを取ることもありますが、大体は下描きなしで清書に臨みます。まずはミリペンやサインペンで形やレイアウトを追っていきます。
画像4:清書(クリックで拡大) |
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次に濃淡を出すためにパステルや色鉛筆で中間色を描いていきます。気をつける点はぬり絵にならないことで、物が本来持っている色味よりも物との関係性や光を描いていきます。自分の絵の特性上ここで中間色を付けたところの方が引き立て役になるので、絵の主題となる部分は特にあまり描き込まないようにします。
画像5:中間色を描く。(クリックで拡大) |
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先ほどパステルで描いた部分の質感を分ける作業をします。グラデーションで光を表現したかったりタッチを消したいところはティッシュや指でこすって目を細かくします。そうすると版画のようなしっとりした風合いになります。これは以前にリトグラフで版を制作していた時に使っていた技法で、それを絵を描く時にも応用しています。一般的な受験用デッサンでも同じような技法が用いられます。
画像6:質感を出す。(クリックで拡大) |
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最後に部分的に線をもう一度なぞる作業をします。この作業が実質の清書になる場合もありますし、感情の揺らぎのようなものを少し足して終わる時もあります。最初に描いた線で直したい部分があればここで直すことも多いです。間違いを消すということはせず、アクシデントを残すようにしています。上手く描きすぎたときは左手でなぞるなど頭を使っていない線を引いて調和を計ります。
画像7:最後に線を加える。(クリックで拡大) |
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・終わりに
自分の絵柄や個性を認知してもらうには著名性の高い絵を描く必要がありますが、一般的に雑誌などでのイラストレーターの絵柄の寿命は7年などと言われています。近頃では情報の回転率が上がりそのスパンはもっと短くなるかもしれません。
絵の表現の仕方も時代に合わせて新しくなったり古くなったりしますので、その時その時の時代や、そしてその時の自分にしっくりくる方法で絵を描いてみてください。
次回は西山寛紀さんの予定です。
(2016年10月31日更新)
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