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リレーコラム
カメラマンの独り言
-CG、生成AI時代の写真生活-


第1回:コバヤシモトユキ/写真家


2000年代に入り「写真」はデジタルテクノロジーにより大きく変貌した。そして最近では生成AIやCGレンダリングといった写真によく似た「新ビジュアル表現」が台頭してきている。そんな時代にカメラマン、フォトグラファーはどう対応していけばよいのか? そんな思いを語っていただくリレーコラムです。




Photographer's Murmur 01

コバヤシモトユキ:写真家、卑弥呼研究家、邪馬台国写真家。1992年湾岸戦争の帰還兵のドキュメント「ROPPONGI DAYS」にてPARCO Promising Photographersに選出。2004年写真集『青春トーキョースクールガール』出版。同作品にて、NYのエージェンシーART+COMMERCEより、PEEK2007世界の13人の写真家に選出される。以降7冊の関連写真集を刊行。2014年、映画『東京シャッターガール』監督(ハンブルグ国際映画祭招待作品)。写真作家活動と並行し、ファッション、カタログ、雑誌などでも活動する。主なクライアントにTOYOTA、帝国ホテル、4℃など。朝日広告賞、読売新聞奨励賞、毎日広告デザイン賞など受賞多数。2020年には、ポートレート雑誌、カメラホリックフレアを責任編集するなど、さまざまな分野で活動中の写真家。2021年より邪馬台国、卑弥呼の作品制作に情熱を注いでいる。
https://www.motoyukikobayashi.com/

●広告ビジュアルも生成AI時代へ

今回から始まるリレーコラム、初回を務めさせていただきます写真家のコバヤシモトユキと申します。

知らない間に広告業界はAI時代に生きることになってしまいましたね。意識するしないに関わらず現像ソフトにはAIが導入されていますし、SNSにはさまざまなAI利用画像が溢れています。私たちは知らない間にAIに囲まれていたのです。写真を撮る仕事はAIにとって変わると言われた時代がありました。それから何年か経ち、それぞれの分野で、AIとの共存、境界線ができてきた昨今のように思います。

「しまむら」の広告で使われて話題になったり、マッチングアプリの仕事は完全にAI化していますね。今後AI化していくであろう仕事を見極め、放棄していく。そしてAIにできない新しい分野を開拓していくのが写真家の生き残りの方法だと考えています。


しまむらのWebサイトより。しまむらのAIキャラクター「るな」。(クリックでリンク)
 

広告を撮影するとき、作品と同時に思うことは、現場を仕事っぽくしないで楽しくやるということです。それはクライアントやスタッフと”思い出”を共有するという理由からなのです。

撮影はプロジェクトの真ん中にしか過ぎません。プレゼンからアイデアを練りあげキャスティング、スタッフが準備して撮影になります。僕らの仕事はここで終わりますが、ディレクターや制作担当者はこの画像を思い出とともにクライアントと共有して、より良い広告の成功に導くのです。

撮影はAIでも済んでしまうかもしれません。しかし、思い出が欠如した制作物には、思い入れは持てないでしょう。一時期はAIで制作された広告が話題になれど、すぐに本来の撮影形式に戻っていくのでしょう。それほど、制作における”思い出”のパワーは大きいのです。

駅やネットで広告を見る消費者たちには、そこに制作者たちの思い出を見ることはできませんが、それは広告に対する熱意として伝わるのです。”思い出”を大切にするプロが今後残っていく時代になると確信しています。

●作家路線へ


自分は最近、広告の仕事のある今のうちに、将来に備えた作品制作の基盤を作ろうと考えました。写真作品を売っていく作家路線への移行です。

現在、京都NODE HOTELにて「NegativePop(ネガティブポップ)」参加の写真家によるグループ展「Behind Memories 時の記憶」が開催中です。ここで筆者は、「DREAM HORIZON 邪馬台国へ」と題し、弥生時代、邪馬台国と卑弥呼のいた時代を再現する作品を展示しています。Everybody knows but, Nobody knows. …誰でも知っているが誰も知らない卑弥呼の存在と、邪馬台国を夢の国と仮定し、後世の人に見てもらいたいという思いで制作しています。

なぜこのテーマが浮かんだのですか? とよく聞かれるのですが、運命、人の導き、なのです。きっかけは小学生だった息子に「邪馬台国はどこにあるの?」と聞かれて即答できなかったことでした。「パパが次に会うときに調べておくね」と言った何気ない親子の会話から始まりました。

こういったアイデア、人生のきっかけというのは、AIはくれないのです。今後、どんなにAIが進化してもAIが人生を教えてくれるわけではありません。入力する情報の密度、正確さによっても違うでしょうが、AIには得意なことと得意でないことがあるように思います。

●絆と思い出が写真の本領

さて、ここからが本題です。今、自分は写真作家としてのフェーズに入っていきます。注文された撮影ではなく、自分の生涯のテーマを捻出し、後世に残していく作業です。ここでもAIには生成不可能な”思い出”が大きく関係してきます。

撮影場所を調べ上げ、現地に赴きましたが、現地には弥生時代の名残や風習は残っていません。1800年前の情景を想像力で膨らませていく作業です。霊感、霊的な導きといったほうがいいかもしれません。現地に行った写真作家が思う想像を超えるものは、AIにはできません。霊感や、運気、人のつながり、などはAIの不得意分野だと思うのです。偶然と場所の力など運命が導き出した写真作品とAI画像とは、似て非なるものでしょう。

現在、3年間の撮影の中では、卑弥呼役に登場してくれた方の巡り合わせも大きいです。ゆきめさんという九州出身のモデルさんを起用することにより、九州のファンが作品についてきました。魏志倭人伝に記述されている卑弥呼は老婆ですが、ゆきめさんによって、ときには戦士のように勇ましく、災害を悲しみ、平和を祈る、不思議な雰囲気の卑弥呼像が創作できました。ゆきめさんの人気もあり、見る人と、作品をつなぐ架け橋、すなわち”絆”になりました。


九州在住のモデル、ゆきめさんを卑弥呼に起用した作品。実際に邪馬台国の候補地を歩き、その場所で撮影している。(クリックで拡大)。

豪雨の中、氾濫する池で撮影した、こんな思い出が作品に宿る。(クリックで拡大) 。

この”絆”こそ、AIにはどうしても生成できないものだと思います。撮影時に自分が精神的に追い込まれている時でも、わたしは大丈夫ですから撮影しましょう、と言われた時を思い出します。雨の日の湿気、天から刺す一陣の光、奇跡のような崇高な瞬間。そうして撮影された作品はどんなAIでも画像化は不可能なのです。

現在、活動停止されているモデルさんへの応援も含めて、DREAM HORIZONのTシャツを制作して販売しています。毎日着用していると「それはなんですか?」と問い合わせをいただき、多くの仕事につながりました。これは、謎を含んだ卑弥呼の存在、誰もが知ってるけど誰もが知らない邪馬台国というテーマへの疑問です。そして卑弥呼という大きなテーマに挑んでくれたモデルさんの存在感にあると思います。


グッズTシャツを製作して作品の販売につなげていく。作品の可能性を広げる試み。(クリックで拡大)。

「DREAM HORIZON 邪馬台国へ」の展示風景。(クリックで拡大) 。

作品の世界には、AIではとても追いつかないものがあると思います。撮影だけではない、人と人とのつながり、ご縁、そして制作サイドの”絆”が大事だと思うからです。

”絆”と“思い出”はまだ今の段階ではAIでは表現できないのです。撮影時の絆と思い出が、人を感動させ、新しい展開を呼び込みます。

自分の知る現状、写真撮影、作品活動において語らせていただきましたが、心のつながり、”絆”は私が撮影において一番大切にしていることです。写る人と見る人の架け橋。目に見えない絆こそが見る人の脳裏に残っていくものだと信じています。今後もAIに負けない作品を制作するために精進していきたいと思っています。


グループ展「Behind Memories 時の記憶」での筆者。(クリックで拡大)

思い出と絆が作品を展開する気持ちをバックアップしてくれる。撮影許可をいただいた現地の方々の気持ちも作品にこもっている。AIで作った画像にはない効果だ。(クリックで拡大)




次回のコラムは脇 秀彦さんの予定です。

(2024年9月1日更新)

 

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