▲「トイレのタイル」。撮影はすべてCANON EOS-1Ds Mark III (クリックで拡大)
|
|
|
▲「階段のニッチ」。(クリックで拡大)
|
|
|
▲「階段の踊り場」。(クリックで拡大)
|
|
|
●奥野ビル
銀座一丁目にそのビルはある。
旧名「銀座アパートメント」だった奥野ビルは2つの建物が連結しており、向かって左側の本館は1932年(昭和7年)に竣工し、新館と呼ばれる右側は1934年に完成したのだそうだ。
設計を担当したのは、同潤会アパートで知られる川元良一氏とのこと。当時はまだ珍しかった鉄筋コンクリートに住宅用エレベーターまで備え付けられている。
本館と新館とを交差する階段はエッシャーを彷彿とさせる。地下を含め、7階までギャラリーなどがひしめき合う。
まずシャッターを切ることがない、そもそもカメラすら持ち歩くこともない、写真家と言うのもはばかるわたしも、奥野ビルには勇んでいく。
なぜこんなにも惹かれるのか。
一度押せば他の階には止まらないエレベーター。膝を押し付けて座る個室トイレ。現代人に忖度ない建造物は魅力的だ。
当時の面影をいまに残す306号室。壁紙が年輪のように分厚く重なっていた。ハードボイルドな鉄筋コンクリートの裏は花柄の壁紙に覆われていたりするのだ。
511号室Gallery Nayutaのオーナー佐藤香織さんの寄稿されたものに「以前なにかで読みましたが、携帯、GPSが網羅された現在、真の秘境は地図上になくなってしまったが、唯一それが残っているのが 家の中だ、と」とあった。そこには、時空さえも凌駕する真の秘境がある。
次回は沼山かおりさんです。
(2021年5月14日更新)
●連載「女子フォトグラファーの眼差し」のバックナンバー
第33回~
第1回~第32回
|