▲写真はすべてSony RX100Vで撮影。(クリックで拡大)
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●こしかたゆくすえ
うっかりすると外に出ないという、今までであれば考えられないような日々が続き、日課として散歩をしている。空の色が日々違うことにあらためて気づく。季節というものが少しずつ変化していくことを体感する。家の周りにこんなに知らない道や場所があったかと楽しむ。そして街が日々更新されていくことを目の当たりにする。
シートがかけられ、重機が入り、大きな音がして、古い建物がなくなり、新しいビルが建つ。私の住んでいる町では最近それが日常御茶飯事だ。
ばらばらに崩されたコンクリートの塊や折れ曲がった金属は、次は何になるのだろうか。生物地球化学的循環をふと考える。元素まで分解され、私が生きている間に私の一部になる可能性はあるだろうか?
「そこにしかない空気感」などとよく言うけれど「そこ」がなくなってしまった場合、それはどうなってしまうのだろう。
これはシートがかけられ、病院であった建物がなくなった時、早朝に束の間見られたシーン。
道端に座り込んで撮影している私の後ろを、出勤する人たちの足音や車の音がいくつも通り過ぎていた。まだ工事の人たちが来ていないシートの向こう側は静かで、影のあたりには、持ち去られずに残ってしまった建物の欠片と、待合室に漂っていた空気がうずくまり、来し方行く末を思っているように感じた。私自身も仕事を失う予感と、母を亡くす予感の中、自分自身の来し方行く末を考えていて、シートの向こう側と共振しそうになった。
シートはすぐに金属製の防護壁に替えられ、もう中の様子はわからない。
新しくマンションが建つらしい。
次回は木坂美生さんです。
(2021年4月12日更新)
●連載「女子フォトグラファーの眼差し」のバックナンバー
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