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リレーコラム
女子フォトグラファーの眼差し

本ページは、女性フォトグラファーの皆様によるリレーフォトコラムです。カジュアルなプライベートスナップから作品まで、仕事とも一味違う、リラックスしたパーソナルショットを拝見できればと思います。カメラはiPhoneなどスマホもOKです!

 

第87回

山越めぐみ

1983年生まれ、千葉県出身。2018年より写真家として活動。写真新世紀2018優秀賞受賞。2020年は使い捨てカメラをリモート操作し、写真家7名で撮影したプロジェクト「Connecting the dots」を発表。個展「witness」BOOK AND SONS 他。
https://www.megumiyamakoshi.jp/

 


▲マニラの病院で配られた新聞。撮影機材:ソニー α7R3、コンタックス distagon 35mm f1.4。撮影地:フィリピン・マニラ、バギオ。以下同。(クリックで拡大)

 
 


▲30年以上前から訪れている孤児院の敷地内。マニラからバギオまで車で約6時間。さらに車で4時間進んだ山奥にある。(クリックで拡大) 



▲埋めてもらった骨壺。(クリックで拡大)

 

●終のすみか

2020年2月、叔母がフィリピンで亡くなった。叔母と言っても私は養子に入っており、親とほとんど変わりない。フィリピン人なの? とたまに聞かれるが、生粋の日本人である。我が家はクリスチャンの家系で、また祖父が戦争の慰霊で訪れて以来、30年近く家族ぐるみで交流があった。

自分の周りにはいろいろなタイプの人がいるけれど、叔母はその中でも群を抜いて変わり者だったと思う。日本で友達はまったくいなかった。しいて言えば近所のいとこくらいである。タガログ語はもちろん、英語もほとんど話せないのに、なぜかいつもフィリピンに行きたがっていた。私はいつも荷物持ちで、日本の美味しいお菓子を見つけては、孤児院の子供たちに持って行くのを楽しみにしていたのだ。

亡くなる前年の夏に突然倒れ、日本で入院生活が始まった。大腸がんだった。病院嫌いだったので、本人は自分がどう言う状態か自覚していたし、出血しても私たちにはずっと隠していた。「死ぬときはフィリピンで」と元気な時から口癖のように言っていたけれど、いざその時が来るといったいどうした良いのか、こちらとしては問題が山積みである。

だが叔母は私の知らぬ間に、「終のすみか」を知人の敷地内に建てていたのだ。お葬式の費用も渡していた。用意周到である。

点滴を抜けば余命数日と言われ、車椅子でしか動けない。寝たきりなので飛行機でどうやって移動すれば良いのか…、私はフィリピンに住んでいたことがあるけれど、わざわざ海外に、しかもフィリピンに行ってまで最期を迎えたいと言う人は出会ったことがない。さらに世間ではコロナが少しづつ話題になった時期で、万が一入国拒否でもされたらたまったものではない。医療体勢も日本に比べたらあまり整っていないし、しかもすべてが自費である。いくら医師と言えども、正確な余命がひと月なのか1年なのかは分からない。

結論を言うと、叔母は着いて2週間ちょっとでぽっくり行ってしまった。

その間の2週間は肉体的にも精神的にも人生で一番ハードだったと思う。日本なら簡単な点滴も医師が3人がかりで失敗する。救急車には3回乗り、入院もした。車内でフィリピン人スタッフにカメラを向けると笑顔でピースである。日本なら不謹慎だ! と怒られそうだが、いつも底抜けに明るい国民性が叔母は好きだったのだろう。

写真家として写真を残したいと思いつつも、介護や手続きと同時進行でまったく思うように撮ることができなかった。

遺骨はフィリピン山奥の孤児院に埋めてもらった。ひと段落着いたので、もう少し写真でも撮ろうかと思っていた矢先、マニラのロックダウンが宣言された。警察以外の役職者にまで銃所持の許可を与えると言う、日本では考えられない強硬な措置である。慌てて帰国便を予約した。

幸運にも日本人、フィリピン人、多くの方々の助けで、本人の希望は叶えられたと思う。2020年、多くの人はさまざまな形で命というものに向き合い、自分の人生を見つめ直す機会が多かったのではないだろうか。少なくとも私には生涯忘れることのできない1年になったのは間違いない。

もしフィリピンで最期を迎えたいという稀な人がいたら、少しはお手伝い出来るかもしれない。ご連絡お待ちしております。



次回は王露さんです。
(2021年1月20日更新)


●連載「女子フォトグラファーの眼差し」のバックナンバー
第33回~
第1回~第32回

 

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