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リレーコラム
女子フォトグラファーの眼差し

本ページは、女性フォトグラファーの皆様によるリレーフォトコラムです。カジュアルなプライベートスナップから作品まで、仕事とも一味違う、リラックスしたパーソナルショットを拝見できればと思います。カメラはiPhoneなどスマホもOKです!

 

第79回

YUKO CHIBA

長野県上伊那生まれ。米国の大学でフォトジャーナリズムを専攻、卒業。東京にて西澤 崇氏、福島典昭氏に師事後、出版社カメラマンを経て独立。雑誌、カタログ、広告、書籍など多ジャンルで活動中。
http://yukogillc.com/

 


撮影機材: Canon F3、Nikon F100。以下同じ(クリックで拡大)

 
 


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●My neighbor roses

キッチンのすりガラスの窓から赤い影がぼんやりと見えた。
早朝の淡い青の空気に包まれた赤色。
いったい何だろうか…。
窓を開けると目があった。
「あっ、おはようございます。」「おはようございます…」
それが彼女との出会いである。
雨粒をまとった彼女がとても綺麗で、私はパジャマのままカメラを握りしめた。

私の部屋はアパートの通路の一番奥にあり、そのさらに先は区の施設の敷地になっている。
数ヶ月前からその敷地で大掛かりな新築工事が始まり、アパートとの境には工事現場用の高い壁が立てられていた。
アパートの壁とその高い壁の間の狭い通路、誰の目にも留まらない場所で彼女は暮らしていた。
管理された美しさからは程遠いけれど、荒々しい棘の集合や柔軟に伸びようとする生命力に、私は野性的な美しさを感じたのだった。
春の光を浴びて、彼女は日々自由に伸びていった。

定期的に彼女の姿を記録するようになったある日。
数日の出張から家に戻ると、彼女は変わり果てた姿になっていた。
工事の邪魔になると考えた大家さんが、枝を切り落としたのだろう。
整えられた通路は以前よりも広く感じ、人が住みやすい場所のようになっていたけれど、自由に生い茂った茎や葉っぱ、赤い花のなくなったその場所はとても空虚だった。

1年が経ったこの春、徐々にだけれど、彼女は大きくなっている。
今日は赤い花が一輪開いていた。
彼女は生きている。

covid-19が突如猛威を振るい、世界が変容の中にある今。
先がクリアには見えない。
けれど、内なる光に目を向けて柔軟に生きなければと、彼女を見て思った。



次回は大畑陽子さんです。
(2020年5月11日更新)


●連載「女子フォトグラファーの眼差し」のバックナンバー
第33回~
第1回~第32回

 

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