▲「尾根で待つ父」 OLYMPUS PEN F/G.Zuiko Auto-S 40mm F1.4 |
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▲「眠る父」 OLYMPUS PEN F/G.Zuiko Auto-S 40mm F1.4 |
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▲「75歳の誕生日の父」 iPhone4 |
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●フィルムの父
フィルムを見返すとだいたい最初か最後のカットによく父が写っていた。私のそばで懸命に何かをしている父や、歩みが遅れた私を20メートル位先でちょこんと待っている父。フィルム交換時に空撮りの振りをして撮っていたからだ。父が照れてしまう前に不意打ちで撮るのが好きだった。
思春期には別の部屋に居ても家族皆を鬱陶しく思った記憶があるが、少し早めに母(父にとっては妻)を病気で失くした私と父は時折一緒に山登りに出掛けたりして仲睦まじく暮らしていた。
2008年の年の瀬、父は脳梗塞で倒れてしまう。介護生活が始まると父ばかりが写ったフィルムが続くようになった。表情の機微を懸命に捕らえようと同じようなカットがずらりと並んでいる。コンセプチュアルな意図など無く、ふとした瞬間に撮りたいから撮るというスタンスで生活を撮り続けたらそうなった。病前の父を取り戻したかのような笑顔や物憂げな眼差しにカメラを向けてきた。
10年近くの月日が流れ、重症だった父は奇跡的に穏やかに過ごせている。父ばかりが並ぶ写真展を開催しようと企画を温めている。お菓子のおまけのようにフィルムの最後に写っている元気な頃の父。頭の中にそのイメージを浮かべるとフィルムの向こうの世界に歩いて行ってしまいそうに思えてくる。
脳梗塞という、父自身にも私にも“わからない”病気とともに過ごす日々を率直に壁に並べられたらなぁ、とずっと考えている。相変わらず撮り続けながら。
次回は岡部 文さんです。
(2017年10月16日更新)
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