●アーティスト・イン・レジデンス
10月、5日間仕事を休みアーティスト・イン・レジデンス(という名の古民家改装のお手伝い)に写真家の仲間と数人で訪れた。
田舎のない私のイメージの中にあった古民家が目の前に現れた。初めて来たのに何故か”ただいま”と言いたくなる。23時頃到着したので家の全貌はよく見えないが、広い玄関に広い庭、大きな車庫や立派な蔵が暗闇にうっすら見える。今回の作戦および労働内容としては、庭の手入れと物置きと化している蔵の掃除であった。その夜は延々とみんなでお酒を飲み、午前3時ごろ就寝。
翌朝9時ごろパッと自然に目が覚めて、そのままボケーッと庭に出ると、土木係の人がすでに木を切って労働している。私は寝ぼけたまま家を一周した。昨日は暗くて見えなかったものが光に照らされてよく見える。
それにしても見事な秋晴れ、持って来ていたコンパクトカメラで思わず何枚か撮った。起き抜けの撮影にひとしきり満足したあと、庭の手入れの作業をジッと眺めていた。
私の存在に気づいた土木係兼バリスタは、「コーヒーあるよ」と私をキッチンに連れて行きコーヒーを淹れてくれた。コーヒーメーカーのガタガタ言う音でみんながチラホラ起き始める。そのまま何となく、それぞれが庭やたくさんの物を片付け始める。そうだ、改装のお手伝いに来たのだった。
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▲朝起きて庭に出るとすでに作業する人が。実は6時半に誰かの目覚ましが鳴り響き眠れなくなって仕方なく作業を始めたとのこと。キレてた。(クリックで拡大) |
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▲見事な秋晴れ。(クリックで拡大) |
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▲裏庭には外された障子や襖があった。(クリックで拡大) |
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私ともう1人の女子は、蔵から無限に出てくる器を洗ったり段ボールをひたすら潰したり、ザクロを収穫して労働を楽しんだ。カゴに入った破裂したザクロに陽が当たり、カメラマンたちは一斉に写真を撮った。もう1人来ていた男子は土木係の一員となり、ひたすら木を運んでいた。男と女で役割分担、なんだか縄文時代の暮らしみたいだな、とふと思う。
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▲ザクロをたくさん収穫。でも誰も持って帰らない。写真は全員撮った。(クリックで拡大) |
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一所懸命働いたあとは温泉へ。汗を流しサッパリし、本日の夕食は庭でバーベキュー。完璧な1日だ。あとは火を点けるだけ、となったところで買ったはずの着火剤が見当たらない。仕方なく文明の利器ガスコンロで炭に火を点ける。ところがなかなか火は広がらない。藁を入れたり段ボールを団扇がわりに風を送ったりしてやや火がつき始めた頃、トドメにマキタのブロワで一発お見舞い、とんでもない勢いで火が燃えた。
大変な苦労の末のバーベキューであった。肉は旨く、夜は寒く、星が綺麗で酒が美味い。クゥ~、他には何も要らんのだ。それにしても着火剤はどこへやら…。
こんな感じで古民家滞在中は労働をし、風呂に入りサッパリし、美味しいご飯とお酒を思う存分いただきつつお互いを讃えあい、今後の改装計画を練る日々であった。東京にいる時よりシンプルで満たされた時間を過ごしている気がした。
ほとんど写真を撮らなかったこのレジデンスだけれど、家を出る寸前に名残惜しくなり、数枚撮った。もの悲しい扇風機が遅れてきた夏休みの終了を告げている。グッバイ、マイ・レジデンス。今年中にまた帰りたい。
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▲リビングの扇風機。(クリックで拡大) |
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ちなみに着火剤は最終日に玄関の下駄箱で見つけたよ。
※すべてCONTAX T3 / FUJICOLOR SUPERIA PREMIUM 400 で撮影。
次回は森本眞生さんです。
(2022年12月12日更新)
●連載「女子フォトグラファーの眼差し」のバックナンバー
第33回~
第1回~第32回
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