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JC INTERVIEW

コマーシャルからテクノロジーへ。
自然研究までデザインする先駆者

山崎みどり/東京大学DLX-Design Lab

アディダス、ナイキ、コンデナストなどで、常に斬新で切れのあるデザインを展開しているクリエイティブディレクター、山崎みどり。2019年末から東京大学生産技術研究所のDLX - Design Labに在籍し、新たな展開をはじめようとしている。コマーシャルからテクノロジーへ。山崎氏の見据えるデザイン領域はマクロ的に広がっていく。

山崎みどり(Midori Yamazaki)
クリエイティブディレクター。Central Saint Martins College of Arts and Design / MA Communication Design卒業。adidas、Nikeなどのクリエイティブディレクターを経て、デジタルデザイン、グラフィック、広告、空間などのコミュニケーションデザインを中心に活動。DSA賞、DDA賞、ADC賞、TDC賞など受賞および入選多数。
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聞き手:森屋義男/Japan Creators編集長

●デザイナーになるきっかけ

--デザイナーは子供の頃からの夢だったのですか?

山崎:いえ子供の頃は、デザイナーになる自分が考えられなかったですね(笑)。生まれは埼玉で、サラリーマンの父を持つ2人兄弟の長女という一般的な家庭で育ち、アートは無縁な環境でした。どちらかというとお勉強はあまりしないタイプで、スポーツと読書が好きで、長い間水泳を習っていました。

--では、デザインに興味を持ったのはいつ頃からですか?

山崎:中学生の時、街中で見かけた大貫卓也さんデザインの広告ポスターを見て、ああ、こういう世界があるんだと認識したことをすごく覚えています。高校は進学校だったのですが、当時ファッションが好きになり、自分で服を作ったりしはじめていて、高校卒業後は文化服装学園に入学しました。そこで服飾を学び、卒業後、三陽商会に入社してバーバリーを担当しました(当時は三陽商会がライセンシーを保有)。

--社会人1年目がバーバリーなんですね。

山崎:私はパタンナーとして、バーバリーの日本独自のバージョンを作って全国展開していたのですが、眞木準さんにコピーをお願いして、安室奈美恵さんが着てくれたことで、めちゃめちゃ売れました(笑)。そこで服を売るためのコミュニケーション、企画、広告、今で言うインフルエンサービジネスなどを学びました。

アパレルは、ハイシーズンが終わった後に売れ残った服がたくさん出るので、そういうロスを出さないためにはどうすればよいか、ブランディングとは何ぞやとか、すごく意識していましたね。そこで、パターンやデザインだけではどうにもならない部分はあるなとぼんやり感じはじめ、やがて外に出てみようと思い始めました。若かったこともあって、一生懸命作ったものが売れ残ることがすごくもったいなくて、売れるようにするにはどうすればよいのだろう…それはいまでも自分のモチベーションの1つです。

--そしてバーバリーを飛び出しました。

山崎:はい、その後、コム・デ・ギャルソンに入社し、働きながらMacでグラフィックデザインを学べる学校に通いました。私は服のデザインはできましたが、美大を出たわけでもないので、ギャルソンと学校で、平面、立体そして広告を学びながら経験を積んでいきました。

ギャルソンには1年くらいお世話になったのですが、やはり自分はデザインを志向していたので退職し、それからいくつかのデザイン会社で経験を積んでいきました。数年して、運よくアディダスのアートディレクターになれたんですが、ちょうどリーマンショックが重なり、自分のいたクリエイティブ部署が1年後くらいにクローズになることが決まり…そこが一番の転機でしたね。

そんなある日、ふと留学しようと浮かんだのです。理由は、私は大学、美大に行かなかったので、同期のコミュニティがなにもなかったんです。伝手もコネもなかった。そこが自分には足りないと考えたのかもしれません。それと、デジタルデザインをロンドンでしっかり行いたかった。

英語はぜんぜんできなかったのですが(笑)、ロンドン芸術大学の中のカレッジの1つ、著名なデザイナーを輩出している大学Central Saint Martinsのマスターのコミュニケーションデザインに入学できました。2年後、マスターを取得してロンドンから帰国する直前に、こちらも運よくナイキからオファーをいただきまして、帰国後3日目から働き始めました。

--なるほど、ここまでのお話でもかなりドラマチックな展開ですね(笑)。

山崎:私、順風満帆に思われがちなんですけれど…そうですね(笑)。アディダスに入る前の下積み時代の数年間は、徹夜で帰れなかったり、会社の倒産の現場にいたり、そういった経験も実はいろいろしています(笑)。

--バーバリー、コム・デ・ギャルソン、アディダス、ナイキ、そしてコンデナスト・ジャパンと素晴らしい経歴ですが、デザイナーとして確信を持てるようになったのはいつ頃からですか?

山崎:いまだに思っていませんけど(笑)、やってきたなとは思います。印象だけで天才肌とか言われることもあるのですけれど、そうではなくて下積み時代に経験してきたことが「次も大丈夫かな?」と思えることにつながっているのかもしれません。

私は才能とプロジェクトを完結させることは別の能力だと思っています。そのバランスをいかにとるかをいつも真剣に考えています。クリエイティブディレクターとして、大きな仕事の時は、誰と組むかを意識します。一緒に仕事して刺激しあえるか、その人にとってのメリットは何か、お金、知識、モチベーション、いろいろあると思いますが、それを必ず渡せるように心がけています。


●デザインイメージの源泉とは

--山崎さんのお仕事はグラフィックから空間、インスタレーションまで幅広く、また斬新ですが、そういったイメージの源泉はなんなのでしょうか?

山崎:まず、私が「綺麗」だと思うことを表現したい。人間ってすごく単純だと思っていて、例えば「合わせ鏡のように、鏡に光が反射していたら綺麗だよね」という発想があれば、それだけを考えるようにします。

例えばBMW5シリーズのインスタレーションの場合、「5」がボディに映り込むと綺麗かなという発想で、シンプルなんです。単純に「キレイだな」と思えることを表現する、そしてそれをコミュニケーションとしてまとめるということです。


▲BMW 5Series Launch Event Installation DSA空間デザインAward(クリックで拡大)
 

私の作品は写真だけですと、よくCGと間違えられるのですが、ナイキのインスタレーションなどは、実際にマネキン、布、糸などを用いて、プロジェクションマッピング、デジタルイメージの組み合わせなどで表現しています。ちなみにこれは女性が跳んだ時にひらりとスカートが翻る、躍動的でエレガントな瞬間を表現しています。


▲NIKE Innovation House DSA空間デザインAward。(クリックで拡大)

▲NikeLab x sacai Showroom DSA空間デザインAward。(クリックで拡大)

--コンデナスト時代はメーカーでなく、出版社での仕事ですが、何をなさっていたのですか。

山崎:2016年からのコンデナスト時代は新規ビジネス部署にて雑誌に紐付かないクライアント直の広告系の制作をしていました。例えばヴォーグのクライアントのために様々なメディアで露出できるデジタルインタラクティブ動画を制作しWeb、スマートフォン、PC,直営店のタッチスクリーンなど、1コンテンツをさまざまなデバイスで動くようなインタラクションにしています。インタラクションは、自分で基本的なプログラムを書いて、各デバイス上でのフィックスは外部に依頼していました。


▲VOGUE/Boucheron インタラクション動画。(クリックで拡大)

▲読売新聞 企業広告 ADC Award。(クリックで拡大)

--実際の空間もWeb上のバーチャル空間も山崎さんの中ではつながっているようですね。

山崎:そうですね、メーカーブランドのブランディングをやっていたので、平面作るだけではダメで、直営店でのインスタレーション、VIP用のプレゼンテーションなど必要に迫られて、できるようになったというのが本当のところですね。

--仕事をしていった中で、改めて影響を受けたクリエイターはいらっしゃいますか?。

山崎:ニック・ナイト、川久保玲、葛西薫、FIELD、ガウディなど…。でも私は自然からもっとも影響を受けていると思います。
今はフォトグラファーのニック・ナイトさんとお仕事できればいいな。それが目標ですね。川久保玲さんは、私がギャルソンにいた当時、私には分からなかったのですが、川久保さんは今世の中が欲しいものをエッジの利いた考え方で捉えていて、それをずっと貫いていらっしゃる。それがようやく分かるようになりました(笑)。本当にかっこいいです。それとDover Street Market GINZAに関わることもできたのも嬉しかったです。


●現在、そしてこれからのデザイン

--そして現在は2019年の暮れより、東京大学生産技術研究所のDLX-Design Labに在籍されていて、また新しい展開を始められるのか、興味深いのですが。

山崎:DLX-Design Labは、ロンドンのRCA(Royal College of Art)と東京大学生産技術研究所が連携したデザインラボとして2年半くらい前にスタートしました。生産技術研究所では120以上のラボで、バイオテクノロジー、ナノテクノロジー、3Dプリンティング、義足など、工学系の最新技術をリサーチ、生み出しています。

そしてここは、いろいろな分野、カテゴリーのエンジニアリングとデザインを融合させてイノベーションを創造している場なんです。

--たとえば、民間企業から依頼を受けてデザインをフィードバックするビジネスモデルなどもあるのですか?

山崎:あります。共同研究、受託研究などを行っています。また、オーストリアのリンツで、アートとサイエンスが融合するフェスティバル、アワード「アルツエレクトロニカ」に出展もしています。まだお話できる段階ではないですが、企業が持っている技術とデザインを融合させて新しいイノベーションを創ろうというプロジェクトも進めています。

--これまでのお仕事からは、また大きな転身ですね。

山崎:私がどうしてDLX-Design Labに入所したかですね? ロンドンのマスター時代に私はビジュアライゼーションを研究していたんです。具体的には、マリンコンディションのビジュアライゼーションを行っていました。波の高さ、風の向きなど8つの要素の可視化ですね。

実は私15年来のサーファーなので(笑)、世界50か所の有名サーフスポットの海況情報を取得して、それをビジュアライゼーションすることで、各ビーチが今どんな傾向の波質なのかを一目で分かるような研究がしたかったのです。研究自体は、コーディングの勉強から始めてAPIで海外からデータを取ってきて格納するということを行っていました。

日本に帰ってきてからも、サーフスポットのビジュアライゼーションは少しずつ進めていたのですが、2016年に、それをWIRDに取り上げてもらって、それがコンデナンスの仕事につながったきっかけなんですけど、イベントをさせてもらった。その時に東大の地震研関係者の方がいらしててお話させてもらったことが、今につながるきっかけですね。

コンデナスト在籍中も、研究会にときどき参加させていただいていました。今までにない形のデータのコミュニケーションに関して協力してほしいとお声がけいただき、私自身も例えば津波の早期検知に関するビジュアライゼーションに関心があって、お手伝いさせていただいていました。

東大の研究者の方々は、これまでの自分にはまったく違う世界の方でしたが、ここにロンドン時代の友人がいたこともあって、また自分自身博士をとってもいい時期かなとも考えていたので、正式にお声がけいただき、2019年に入所することにしました。


▲WAVE ARCHIVE PROJECT。世界中のサーフスポットの波データをビジュアライズし年間海況情報として実用化するプロジェクト 。(クリックで拡大)

▲(クリックで拡大)

--DLX-Design Labでは何をされるのですか?

山崎:私のここでの役割ですが、現在は対企業との共同研究や各研究室とのコラボレーション、そして賛同いただいた企業とオープンイノベーションプラットフォームとしてのコンソーシアム運営、そしてそのブランディングといったマネージメント的なことをクリエイティブディレクターの立場で進めています。

デザインを使って、科学、エンジニアリングの価値をさらに引き上げることで、貢献したいですね。そのためにはそれぞれの研究を根本から理解しないとならないので大変なのですが(笑)。

--山崎さんが手掛けるデザインのフィールドがとても広いので、分かりにくい面もあるのですが、山崎さんのデザインのコアを一言で言うと、どんな感じでしょう?

山崎:デザインの中でもAesthetics(美学)に興味をもっています。今までマスメディア前提のデザインをしていたので、最大公約数としての美しさ、つまり誰でも美しいと感じる、普遍的な美しさを作れるようになりたいと思っていて、そのために、何で人は美しいと感じるのか? ということに興味をもちはじめました。

具体的に言うと自然の法則を公式化した、黄金律、フラクタル、流体力学などに興味を持っています。たとえばサーファーの私が興味を持っている波の形にも物理的な理由があって、数式でも表すことができるわけです。私がプログラミングを勉強しているのは、それが最大の理由です。

プログラミングできる=理解し応用できる。そのことによって新しい可能性があると思います。エンジニアバックグラウンドのデジタルクリエイターは比較的多い気がするのですが、そもそも美しいものを創る方法論を持っているデザイナーがプログラムを解釈できたら何ができるのか、ということに興味をもっています。

--これからはテクノロジーのデザイン、ビジュアライゼーションですね。でも研究室にこもっていると、コマーシャルの世界が懐かしくないですか?(笑)

山崎デザインワーク、アートディレクション・クリエイティブディレクションも外の仕事としていくつか手掛けています。やはりクリエイターとの仕事は刺激的ですし、外の仕事を続けることも現在の仕事に生かせるでしょう。私自身、コマーシャルの世界と研究の世界、両面から、デザインの領域、概念を広げられる立場にいることがなにより刺激的だと思っています。

--ありがとうございました。






2020年2月、東京・東京大学生産技術研究所にてインタビュー。
(2020年4月1日更新)

 

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