この原稿の依頼をいただいた今現在、「デザインクラッシュ」という日独デザイナー混合のグループ展に参加のため、ドイツのデュッセルドルフに滞在しています。
今日は丸1日予定もないので、30分ほど電車に揺られ、ケルンのルートヴィヒ美術館に来ました。開放感のある展示空間とコレクションが素晴らしく、この感動がホットなうちに原稿を書いていきたいと思います。

ルートヴィヒ美術館。子供向けの企画展があったためか子供連れが多く明るい雰囲気。天井が高くて気持ちが良い。(クリックで拡大) |
 |

(クリックで拡大) |
●横から見る絵画
コレクション展の最初の部屋にトム?ウェッセルマンの作品があり、ギリギリ身体を迫り出して横から見てみたところ、この見方は面白いかもしれない、と思ったので、「絵の側面」に注目しながらレポートしてみようと思います。

トム・ウェッセルマン / Great American Nude No.98 (1967)の正面と側面。裏に仕立てられた金属製の支えが見える。(クリックで拡大) |
 |

(クリックで拡大) |
絵画には、前提として正面が設定されており、そこに何かしらのモチーフやそれ未満の色形が表現されます。本やWebにアーカイブされる画像は、概ね正面から見た様子です。
しかし美術館に行けば、その絵の現物が目の前にあり、顔を近づけたり、ものすごく遠くから眺めたり、そして横に回り込んでみたり。画像にはない圧倒的に自由な視覚体験があります。
●側面は絵の内か外か
作品の側面が「塗られている」か「塗られていない」かに注目をして見てみます。
その作者にとって、キャンバスの側面は絵画の内側であると捉えているのか、それとも外側にすぎないのかが、じんわりと浮かび上がり興味深いです。
ちょうど目の前にマーク・ロスコとバーネット・ニューマンが並べられています。抽象表現主義の代表的なふたりの側面を見比べてみました。
ロスコは塗っています。

マーク・ロスコ / Earth and Green(1955年)。(クリックで拡大) |
 |
|
ニューマンは塗っていません。

バーネット・ニューマン / Midnight Blue(1970年)。(クリックで拡大) |
 |
|
バーネット・ニューマンの几帳面に塗られた絵の側面が塗られていないことに驚きました。しかも側面の処理は、絵の具の飛び散りもあり、割とテキトーに見えます。
バーネット・ニューマンは、非常に精緻な部分と手仕事のざらつきをあえて見せつけるような部分とのバランスが絶妙だなとあらためて思いました。横から見ることで、図録などでは決して表れない発見ができました。
●厚みの選択と影響
塗ってるかどうかの次に気になるのが、支持体の厚み具合です。

支持体の素材も厚みもそれぞれ。(クリックで拡大) |
 |

(クリックで拡大) |
絵画作品のキャンバスなどの厚みの選択は、グラフィックデザインにおける印刷用紙と似ています。
デザイナーがチラシの質感や紙厚を決めるとき、例えば、リッチな印象にしたいと思えば、嵩高のしっかりした紙にし、逆に薄く軽やかな印象にしたければ、持てばたわむようなペラペラの光沢紙にしたり、定着したいムードによって紙を選択します。ヘヴィな内容だからこそ、あえてサラッと薄い質にしてみたり、ということも当然あります。
紙の印刷物は、平面でありながら厚みを持つという事実のねじれが愉快であり、それは絵画の正面と側面の関係とも同質です。正面があるから側面が成り立つ。その逆も然り。作家(デザイナー)がなんとなくでキャンバス(印刷紙)の厚みを決めていたとしても、そのことは鑑賞者の捉え方に必ず影響を与えます。
今、この原稿の仕上げを成田行きの飛行機で書いています。前に座席の人に「カタカタうるせーよ」と注意されたのでここら辺でこの文章は終了して寝ます。
美術館に行ったら絵画を横から見てみるの、結構オススメです。それではおやすみなさい。
(2025年7月28日更新) |