Company file

Company file


旧サイト(更新終了)






お問い合わせメール

 

INDEX  イラスト>  写真>  デザイン>  テキスト



神が潜むデザイン


第46回:辿る/玉置太一


「神は細部に宿る」と言いますが、本コラムでは、デザイナーがこれまでに「神」を感じた作品を紹介していただくとともに、ご自身のこだわりを語っていただきます。リレーコラムですので、執筆者には次の方にバトンを渡していただきます。




Designer FILE 46

玉置太一(たまきたいち):電通クリエイティブディレクター、アートディレクター。日本大学芸術学部卒業。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科講師、日本大学芸術学部デザイン学科非常勤講師、日本デザイナー学院講師。主な仕事に、ユニクロ「母の日・父の日(あたしンち、ちびまる子ちゃん、ダイアン津田)」、東京ミッドタウン「ブランディング」、Google「android」、Honda「VEZEL(藤井風 きらり)」「Honda Green Machine(PEANUTS)」、大塚製薬「カロリーメイトリキッド」、RADWIMPS「正解」、FUJIFILM「写真幸福論」、東急不動産「いきもの東急不動産」など。東京ADC賞、JAGDA賞、JAGDA新人賞、朝日広告賞グランプリ、毎日広告デザイン賞最高賞、日本タイポグラフィ年鑑グランプリ、世界ポスタートリエンナーレトヤマ銅賞などを受賞。
https://taichitamaki.com/
Instagram:@taichitamaki


●辿る

デザインをしている時、そのデザインが一瞬で分かること。と同時に、鑑賞時間に耐えられるか。ということをよく考える。

鑑賞時間に耐えられるか。とはすなわち、ずっと見てて飽きなかったり、見る場所がたくさんあったり、そのデザインの背景や未来を辿れること。だと思っている。

この辿る。という時間が個人的にとても好きだ。ギャラリーや美術館で作品を鑑賞しているときも、ディテールを見ているのと同時に、頭の中でこの作品のことを自分なりに辿っていく。それが楽しい

●「左折道路狭し」

とある日のお昼休み。外を歩いていると標識が目に入ってきた。「左折道路狭し」と書かれた標識。その上にステッカーがベタベタと貼られている。こういうの、よく見る光景といえばよく見る光景なんだけど、この日は少し立ち止まって見入ってしまった。


ステッカーを貼られた「左折道路狭し」の標識。(クリックでリンク)
 

きっとステッカーを貼ったのは1人じゃないだろう。そしていろんな人が、いろんな時間に貼っていってできたもの。だと思う。

そう考えると、これができたプロセスも含めて妙に面白いものに思えてきてしまった。もちろん標識を汚すこと自体は良くないことなんだけど、いつの間にかじーっと鑑賞している自分がいた。

ギリギリ読める「左折道路狭し」。左側の文章はもはや読めない部分が多いけど、逆に右が読めるから左を推測したくなる。右側に貼っていった人は、もしかして少しだけ文字を読ませようと配慮したのか? 「さすがに[左折]は読めた方がいいでしょ」「そこはマナーだよね」なんて。

もしみんながそう思って「左折」を避けて貼っていったと考え始めるとめちゃくちゃ面白いし、読めなくなる場所にバン! と貼った人は挑戦的な思考だなとか。おそらくみんな知り合いじゃないのに、でもなんだか画面全体のバランスを無意識にとっている気もしてしまって、どうにも見入ってしまう。

モノクロームのステッカーが多いことも背景の黄色が逆に見えてくる。実は赤いドローイング(落書き)が効いている。

よくよく考えたらこれは完成ではなくて、明日にはまた更新されているかもしれない。そうだとすると、「左折」はまた避けて貼って欲しいような。いや、ここはあえて…なんて(そもそも標識が見えなくなることはよくないのだが)。

ああ、1人で何考えてるんだろうか。と思いながら、お昼ご飯そっちのけで立ち尽くし、このデザイン(とは呼ばない気もするが)の背景を辿っている自分がいた。

●「セミの誕生」

以前、セミの誕生に立ち会った。これがどうにもすごく感動した。


幼虫から成虫に変わりはじめる。(クリックでリンク)
 


徐々に姿を現す(クリックでリンク)
 


セミと抜け殻。(クリックでリンク)
 

昔から図鑑が好きだったからか、セミが羽化する写真は見たことがあったし、知ったつもりではいた。だけど、実際に見ると全然違った。

まず、幼虫から出てくるスピードが想像より早い。これには驚いた。少し目を離したら、さっきよりも出てる! みたいな。

目はクリクリっとしていて想像以上にかわいい。かなりかわいい。いま絶対自分と目が合っている(気がする)。透明感があって美しい。表情も声もないけど、めちゃくちゃ力を振り絞って頑張っているのが伝わってくる。羽がすべて出たとき、すごくホッとした。やった。無事に出てきた(涙)と。

新しい門出の場面に立ち会うと、人は未来を辿る。

この子(セミ)がどうなっていくのか。この地を離れるのか、離れないのか。ここは東京だが、近くに広い自然はあっただろうか。そもそもオスなのか? メスなのか? 大好きな人(セミ)に出会えるのか。

この誕生に立ち会った林のような場所には、他にもたくさんのセミが誕生していた。ただ、自分が立ち会ったセミは、面白いもので他のセミとなぜか違って見える。何様だが、自分が見たこのセミはこれから良い未来が訪れて欲しい。

この子の人生(セミだけど)はあと2週間。羽化の瞬間にそれを考えてしまうのはすごくつらいのだが、そんなことを考えたところで何も変わることはなく、ただひたすら蒸し暑い夏の夜に、全身蚊に刺されながらもまた、ぼーっと見入っている自分がいた。

●ものごとを辿る

それは創作活動ではないけれど、創作においてきっと大事な思考回路。自分のデザインは辿れるほどの価値があるか。すぐに分かられて、つまらないものになってないだろうか。

この辿る行為に神が潜んでいるかはよく分からないけれど、デザインの背景に、未来に、なにかが潜んでいるミステリアスな感じは大好きだ。そんなことを今日も考えながらデザインをする。


(2025年5月14日更新)

 

[ご利用について] [プライバシーについて] [会社概要] [お問い合わせ]
Copyright (c)2015 colors ltd. All rights reserved