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神が潜むデザイン


第45回:「鳥の目」と「蟻の目」を持つ/八木 彩


「神は細部に宿る」と言いますが、本コラムでは、デザイナーがこれまでに「神」を感じた作品を紹介していただくとともに、ご自身のこだわりを語っていただきます。リレーコラムですので、執筆者には次の方にバトンを渡していただきます。




Designer FILE 45

八木 彩(やぎ あや):1985年兵庫県生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科を卒業後、電通へ入社。さまざまな企業の広告制作、ブランディングを行う。2023年に独立し、アレンス株式会社を設立する。現在は、コンセプト開発、商品開発からコミュニケーション設計までを、アートディレクションを軸に、トータルで手掛けている。主な仕事として、クラシエ「いち髪」ブランディング、トリコ「FUJIMI」リブランディング、トリコ「GINZUBA」ブランディング、よーじやグループ リブランディング、コージー本舗「DOLLY WINK」リブランディング、新潟県糸魚川市「石のまち糸魚川」ブランディング、「飯尾醸造」コーポレートブランディング、電通「DENTSU RECRUIT 2020」採用コミュニケーション、武蔵野美術大学「1/M」VI開発など。著書に『デザインを、経営のそばに。』(かんき出版)がある。
https://arence.jp/



●思想と体験の一貫性

SHIROは、2009年に北海道で生まれた、日本の自然派コスメブランドです。私は仕事柄、美容系の商品に関わる機会が多いのですが、そのなかでもSHIROの名前は、ほぼ例外なくベンチマークとして挙がります。これまで表参道や新宿の店舗には何度か訪れたことがありましたが、「SHIROの人気の理由」をもっと深く知りたい……そう思い、ブランドが誕生した場所、北海道・砂川市を訪ねました


北海道・砂川市にある「みんなの工場」。(クリックでリンク)
 

目的地は「みんなの工場」と名付けられた施設です。ここは、「工場を開く」というユニークなコンセプトのもとに誕生しました。砂川市の人々と一緒に内装や外装を手づくりしたり、森の循環を育てるために伐採した木を外壁や家具に使ったり。大人も子どもも、地元の人も観光客も、動物も植物も。誰もが居場所を感じられる「みんなのための場所」にしたいという想いが詰まっています。実際に足を踏み入れてみると、その願いが空間の至るところから伝わってきました。

最初に目に飛び込んできたのは、入り口に広がる展示スペースです。SHIROの商品に使われている素材が、標本のように美しく並べられており、1つひとつに手書きのメモが添えられていました。昆布、酒かす、生姜…。料理にもよく使われる身近な素材が中心で、どれも丁寧に選び抜かれたことが一目で分かります。ホームページには、「生産者の顔が見える、安心で良質な素材をもとに、自分たちが毎日使いたいものをつくる」という姿勢が掲げられていました。展示スペースに並ぶ素材を見ていると、その想いが言葉ではなく、肌感として伝わってきました。

次に目に入ったのは、ガラス貼りの工場で働くスタッフの姿でした。研究を重ねる人、素材を加工する人、製品を詰める人。すべての工程を、来訪者が目にする場所で行っていることに驚きました。お客様が行き来する環境の中で、すべてをさらけ出して働くことは、商品に自信がなければできないことでしょう。開発過程を透明化することで、商品に真摯に向き合う姿が感じられました。


ガラス貼りの工場で働くスタッフ。(クリックでリンク)
 

そのほかにも「みんなの工場」にはさまざまな工夫が凝らされていました。たとえば、壁一面に並んだカード。近隣の飲食店やお土産の情報が紹介されていて、自由に持ち帰ることができます。SHIROを目指して訪れた人が、砂川の街を回遊するきっかけになる仕組みです。さらに、子どもたちのためのキッズスペースも充実していました。天井にはジャングルネットが張られていて、子どもたちは空中を自由に探検しながら遊ぶことができます。訪れた人全員が、それぞれの楽しみ方でこの空間に触れられるよう、細やかな心配りが感じられました。このようなブランドの裏側にはどのような思想があるのだろうと興味を持ち、改めてホームページで企業理念を調べてみたところ、こんな言葉が並んでいました。

【私たちの役割】
私たちは、自分たちの感性と正直に向き合い、ただただ純粋に良いものを創り続けることで世の中をしあわせにしていきます。
【私たちの仕事】
私たちは、「良いものを、より多くの人に届けたい」というシンプルで確たる思いにぶれることなく、私たちが掲げる理念の実現に日々取り組みます。
【私たちの価値感】
私たちは、大地の豊かな恵みである素材に向き合い、自分たちが本当に使いたいと思えるものだけを正直に創り続けることを誓い、人・地球・社会に対しても誠実に正しいことを行います。

ブランドの思想と工場での体験。そのすべてに一貫性があり、納得感を覚えました。

●「鳥の目」と「蟻の目」を持つ

私は2023年に電通を退職し、現在はブランディングデザインの会社ARENCEを運営しています。ブランディングデザインにおいて大切なのは「思想」と「世界観」の両輪だと考えています。そして、それを目に見える形にするのがデザインの役割です。どちらか一方だけでは、魅力的なブランドにはなりません。商品、活動、制作物‥‥すべてのアウトプットに一貫性があるからこそ、ブランドとしての芯が生まれるのです。

ブランディングの仕事に携わるようになってから、パッケージデザイン、タイポグラフィー、グラフィック、建築、音楽、サイン計画など、あらゆる体験が「デザイン」の一部であることを実感するようになりました。デザイナーは細部へのこだわりが注目されがちですが、「どれだけ全体を俯瞰できるか」「どれだけ遠くから問いを立てられるか」といったスケールの大きさも、同じくらい重要だと感じています。

「鳥の目」と「蟻の目」という言葉があります。私は日々、ブランドを俯瞰する視点と、細部にまで目を配る感覚を、行き来しながら仕事をしています。一見地道なこの往復の積み重ねが、ブランドの魅力をかたちづくっていくのではないでしょうか。SHIROの世界に触れることで、これからのブランドづくりに活かせる視点を得ることができました。

参照 :
https://factory.shiro-shiro.jp/
https://hello.shiro-shiro.jp/

(2025年4月17日更新)

 

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