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神が潜むデザイン


第44回:手で触れ、感じ、試す。/髙谷 廉


「神は細部に宿る」と言いますが、本コラムでは、デザイナーがこれまでに「神」を感じた作品を紹介していただくとともに、ご自身のこだわりを語っていただきます。リレーコラムですので、執筆者には次の方にバトンを渡していただきます。




Designer FILE 44

髙谷 廉(たかやれん):仙台生まれ。東北芸術工科大学芸術学部彫刻科卒業。good design companyを経てAD&D設立。主な仕事に、ロート製薬×MTIによる妊活プロジェクト「THE LOVING INSTRUCTION MANUAL」、六本木ヒルズファッションキャンペーン「FLOWER LUSH IN ROPPONGI HILLS」、Bunkamura 25周年のVI、PARCO GIFTキャンペーン、社会人向け講座「夏芸大」や東北芸術工科大学卒展の宣伝美術など。主な受賞に、CANNES LIONS、ONE SHOW、NY ADC、NY TDC、D&AD、The Brno Biennial、GOLDEN BEE、Taiwan International Graphic Design Award、China International Poster Biennial Award、JAGDA新人賞、空間デザイン賞BEST50、造本装幀コンクール、日本タイポグラフィ年鑑ベストワークおよびグランプリほか。東北芸術工科大学准教授、桑沢デザイン研究所非常勤講師。



●美とは何か

“美とは何か”。30年前、大学に入学し最初の授業「デザイン概論」にて先生に問われたこの言葉は、後の私を形成していく大きな教えになった。卒業し、彫刻を専攻していたが、デザイナーとしての道を志し上京。幾度の挫折を繰り返しながら、グラフィックデザインを主軸としたデザインやアートディレクションの本業と並行し、ワークショップや特別講師および非常勤講師などを含め約10年間、教育の現場に身を置いてきた。現在は母校のグラフィックデザイン学科教員と桑沢デザイン研究所にてアドバタイジングの授業を担当している。

都度、思い出されるのは「最初の授業のことば」だ。仕事においても、受け持っている授業においても、美を追求し、探求し、その過程を人に伝え、共に考えることができているか。社会に対し、芸術の役割は何なのか。デザインの役割は何なのか…。教育に携わるようになってから、デザインやアートディレクションの仕事の現場で培った技術、思考、追求と探求、表現方法を通して、デザインの「今」を伝え、共に考えていく(教えていく)ことに努めてきた。その中で、私はグラフィックデザインの重要性について、改めて気づかされた。

グラフィックデザインのプロセスをいくつかのフェーズに分けると、まず、洞察から始まる。対象とする事象を観察し、関する情報を収集・考察し、整理したのちに課題となる問題点を洗い出す。そして、問題解決の糸口(アイデア)を見つけ、社会と結びつけたときにどのような機能(効果)をもたらすのかをシミュレーションする。この段階では、機能したあとの未来を想定し、新たに発生しうる問題提起とその解決方法にまで至ることもある。最後のフェーズ(または前項と同時進行)では、ようやく見出したアイデアを具現化(ビジュアライズ)していく。

近年、グラフィックデザインの考え方とその役割は、より多様化し、拡張している。そして、この一連の思考と作業の一部をAIが担い、デジタルデバイスの機能向上とネットワークの普及によって、デザインの教育を受けていない人々もこうした「情報」に触れ、扱うことが日常となった。つまり「デザイン」という思考と技術がローカライゼーションした結果とも言える。しかしながら、私たちは便利なデジタルデバイスやアプリケーションに頼りすぎてしまう傾向がある。ここで、再びあの問いが頭をよぎる。
“美とは何か”

均一に描かれたパスの線に「心の機微」や、人が認識する「美の淵源」を感じ取るにはあまりにも冷たい。クリエイティブに携わる者として、今一度この状況を省みる必要がある。私たちはグラフィックデザインという技術や思考を深めることで、常識に囚われずに人生を前進させ、常に自分をアップデートしながら生きることができるはずだ。デザインの技術や思考がローカライズされた今(都市と地方においてデジタルデバイスやアプリケーションを利用する年代層が拡大し普及したという意味)、思考する前からそれらに頼らず、デザインプロセスに触れることの意義を伝える必要があると考える。


●紙で知るデザインという行為

さて、少し話は変わるが、冒頭でも記したとおり桑沢では広告の授業を担当している。この授業では、想定したクライアントを充てた課題を制作するのではなく、実践的な制作プロセスを学ぶため、実際の広告主を招いて数チームで取り組む。つまり、課題制作と同時に実務の経験を積むことになる。

2024年度のクライアントは紙の商社である竹尾さんにお願いした。課題の目的は「グラフィックと紙によって新しいコミュニケーションを探究し、その成果を展示発表することで竹尾をクリエイティブ従事者へ伝える」こと。2人チーム計24人がこの課題に取り組んだ。しかし、そのうちの1人が履修申請のミスにより履修できないという事態が発生し、数合わせのために教員である私自身も学生の1人とペアを組み、この課題に向き合うこととなった。

私たちがよく知っている紙。その可能性を、少し別の角度から意識することはできないか。私のチームは、紙を構成している繊維や表面の加工に対し、摩擦や圧力をかけたときに生じる音に着目し、紙の音でビートを作った。


(クリックで再生)
 

さらに、その音をレコードへプレスし(写真1)、竹尾の商材である「ファインフルート」(写真2)を使用してレコードを収めるパッケージ(写真3)を制作した。ファインフルートの特徴は、両面の板紙とその間にサンドされている波型の紙(フルート)部分が、それぞれ異なる紙でオーダーできることだ。一般的に、波型部分を表面に使用することはないが、その空洞構造によって内包する物を適度な距離感(写真4)で見せられることに気づいた。何度も強度の検証を重ね(写真5、6)、波型部分を表面に用いたパッケージが完成した。


写真1。(クリックで拡大)

写真2。(クリックで拡大)


写真3。(クリックで拡大)

写真4。(クリックで拡大)


写真5。(クリックで拡大)

写真6。(クリックで拡大)

この試みを通じて、デザインとは単なる造形ではなく、洞察を経たのちは、実際に手で触れ、感じ、試しながら新たな価値を見出すプロセスなのだと改めて実感した。紙というメディアの可能性を探求することは、記録と伝達の機能を持つデザインを考える上での本質そのものに迫る行為の1つであるのかもしれない。

この成果発表は、昨年12月に桑沢学園・新教育施設にて「P is for PAPER」(写真7~10)と題し開催した。

2月21日(金)から23日(日)までの桑沢デザイン研究所の「桑沢2025卒業生作品展」でも展示されるので、ぜひ実際に観に来て、触れて、紙の可能性を体感してほしい。


写真7。(クリックで拡大)

写真8。(クリックで拡大)


写真9。(クリックで拡大)

写真10。(クリックで拡大)

●VIDEO
 Recording & Beat Make: Jun Yamaguchi
 Direction & Edit: Manabu Numata
 Performance: Pollard Midori
 Hair & Makeup: Azumi Hori

●GRAPHIC DESIGN
 Package: Azumi Hori, Ren Takaya
 Art Direction: Ren Takaya
 Cooperation: TAKEO Co.,Ltd. & SHOEI INC.

●Organiser: KUWASAWA DESIGN SCHOOL
 Photograph: Yasuhiro Ueda, Taichi Yamamoto



(2025年2月19日更新)

 

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