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神が潜むデザイン


第40回:本というメディアのデザインについて/米山菜津子


「神は細部に宿る」と言いますが、本コラムでは、デザイナーがこれまでに「神」を感じた作品を紹介していただくとともに、ご自身のこだわりを語っていただきます。リレーコラムですので、執筆者には次の方にバトンを渡していただきます。




Designer FILE 40

米山菜津子(よねやまなつこ):グラフィック/エディトリアルデザイナー。2003年に東京藝術大学デザイン科卒業、2014年にデザイン事務所YONEYAMA LLC. を設立。出版レーベルYYY PRESS運営、オムニバス書籍『GATEWAY』を不定期で発行。オルタナティブスペースSTUDIO STAFF ONLY共同運営。
https://natsukoyoneyama.tokyo.jp/

●折りたたまれ綴じられた平面

少し前、普段の仕事に加えて「ひとに教える」という任務が加わったのもあって、自分がこの職業に就いてから20年近く取り組んできた「紙媒体」というものについて改めて考える機会があった。遅ればせながら。

紙媒体、についてはいろいろな角度から言えることがあってなかなかまとまらないのだが、まずシンプルに「本の歴史」について調べてみると、大抵、人がイメージを定着させる営みをはじめた際の記録媒体は、洞窟の壁だったらしい、というところから始まる。

想像するに、地面や砂浜に枝や指で線を描く、みたいなことがたぶん最初で、それを残しておくためにだんだん岩や亀の甲羅、粘土や植物の一部などを使うことが考え出された。

次に、身の回りにあるものからちょうどいい記録媒体を選び出すだけではなく、動物の皮をなめしたり、植物をたたいて繊維をほぐしたりして、人はより記録しやすい平面をつくりだすようになっていく(ごつごつざらざらした面をなめし続けて平面として行き着いた先がスマートフォンの画面だ)。

平面がつくり出さされるようになってから、かなりの長いあいだ、それは巻かれていた。巻かれていたときはもちろんページ数なんてものはないので目次や索引もなかった。改行やタイトルを入れるというような、いまでは当たり前の情報の整理術も最初はなくて、あるタイミングで発明された。あてどなくスクロールすることしかできない重たい巻物の不便さと、逆にそこには自分の知らない没入感があったのかもということを想像する。

そしてあるとき、平面が折りたたまれ、綴じられ、ふわりと空間をまとう時がくる。それが本だ。

この「本」という仕組みを発明した人の名前は伝わっていないらしいが、これってものすごいことなのではないか。いま当たり前にわたしたちが手にする本というフォーマットはいろいろな蓄積のもと、ふと発明されてこういう形になった。何世紀も採用し続けられてきた「これ折り畳めば便利じゃん」というアイデアがひらめいたとき、その名も知らぬ人の脳内に走った快感を、想像する。

●感覚の残滓をなぞる

今回、神が潜むデザイン、というお題をもらって自分は少し怯んでしまった。自分が普段やっているのはもっともっと、極々、ささやかなことだ。

本になるべくして用意された文字を読むとき、図版を見るとき、そしてそれをどう「本」として世の中に存在させるのがよいのか考えるとき、つまり本の装丁ーもしくはデザインーを考えるとき、自分は頭のなかで、自分が過去に見た本たちに実装されてきた細部をなぞっている。

あの本のスピンがあの色だったのはどうしてなのかな、妙に心に残ったな、とか、あの本の紙のしなり加減があの作者の硬い文章をフラットに感じさせてくれたよな、とか、そういう、微細で感覚的な行為の数々を。

自分は、自分の仕事をやっているというよりは、そういう過去に本をつくってきた数え切れないたくさんの人たちの手や思考の跡を辿って、まだ生まれていない本の在り方を考える。たくさんの人の工夫の集積の結果いまこうなっているこの本というメディアの空間フォーマットを拝借して、そこで遊ばせてもらっているだけなのかも、とも思う。そこになんとかほんの少しだけでも広がりをつくり出していくことができればと願いながら。

そこに潜んでいるのは神ではなく、本を必要としてきた、数えきれないたくさんの人たちの感覚の残滓なのではないか。デザインとは人の営みだよなあと思う。よくも悪くも。


ダミーブックをつくったり色校正を切り貼りした際に残る紙片が綺麗だなと思うことが多く、なんとなく撮り溜めている。捨てられる断片を集めた本をいつかつくりたい。(クリックで拡大)

 



(2024年10月4
日更新)

 

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