●プロダクトとグラフィック
私はもともとプロダクトデザインを学び、コクヨに入社し、プロダクトデザイナーとして仕事をしていた中、30代になってから本格的にグラフィックデザインをするようになり、アートディレクターとなった。
デザインを学びはじめたときから、美しい造形を生み出すデザイナーはたくさんいて、自分もそういったデザイナーに憧れて、見様見真似で必死にデザインに励んだ。
プロダクトデザインをいくつかしていくうちに、ものが溢れている時代の中で、新しいものを作るよりもすでにあるものから良いところを発見していくことの方が、今の時代の中で自分がデザインに関わる意義が感じられるように思えるようになった。
そのように考えるきっかけになった1つに2016年に企画した「INTO THE NOTES」という展示会がある。
毎年コクヨで開催している新商品発表会のタイミングで、新商品発表ではない別の軸でコクヨを紹介する企画ができないかというお題に対して行った展示で、当時の現行品として販売しているノート300種類(そのとき調べたら、なんと300種類もあった)を一堂に集め、ページを開き表紙が見えない状態で展示した。
表紙のデザインではなく、書き心地のための小さな差異を楽しんでもらうための企画である。300種類を比較してみると、それぞれ凹凸具合や、罫線のデザイン、サイズ、紙の色まで、少しずつ微妙に違い、それぞれに個性があり、とても豊かな景色が生まれた。
2016年に開催したINTO THE NOTES展。(クリックで拡大) |
|
ノートを広げた状態で、ノートにまつわるコピーとともに展示した。(クリックで拡大)。 |
●魅力的な佇まいを見つける
自分がデザインしたのかよく分からないくらい力が入ってないようなデザインほど、達成感を感じられるときがある。何かを生み出した達成感ではなく、長いデザインの歴史の中で、引き継ぎ関わる感覚があるからだと思う。グラフィックデザインをするようになったのも、ものをつくるだけでなく、発見し、拡大し、伝えていくことに興味を持つようになったからだ。
コクヨに勤めながらデザインに携わっている私にとって、新しいものをつくろうという意識ではなく、何か魅力的なものを見つけようという視点で周りを見てみると、理由が分からないけれど魅力的なものはたくさん見つかる。
付箋のユニークなサイズ展開
ファイルボックスのプロポーション
値札の上下に半円の空いた形
シールの剥離紙(セパ)の独特の黄色や水色…。
こういった一見デザインされているようには見えないのに、よくみると普通ではない佇まいをしているものが好きで、このようなものの要素を借りてデザインにいかしている。
付箋のフォーマットを用いて制作した原宿にあるショップ&カフェTHINK OF THINGSのPOP。(クリックで拡大)。 |
|
ファイルボックスの形だけが際立つように、表面のグラフィックを取り去ったEX-シリーズ。(クリックで拡大)
。 |
値札シールの形状を活用したSTICKER STANDのサイン。(クリックで拡大)。 |
|
セパと同色でデザインしたSAUNABUステッカー。(クリックで拡大)
。 |
●敬意を込めて、編集する
2022年にアートディレクションを担当したコクヨのサテライトオフィス「n.5」のキービジュアルでは、個人と会社、生活と仕事の間にある状況や概念を表現するため、マーブル模様を用いたデザインを行った。このマーブル模様はコクヨが昔製造していた金銭出納帳のページの側面に、改ざん防止のために施されていたもので、当時の職人が一点一点作っていたものだ。
何かの間を表現したコクヨのサテライトオフィス「n.5」のキービジュアル(クリックで拡大) |
|
Personal(P)とCorporate(C)の間を表現したビジュアル。(クリックで拡大) |
何かを引用するのは面白いからだけではなく、ちゃんと敬意を込めてデザインしたいと思っている。参考ではなく参照するデザイン。デザインは、今まで誰かがデザインしたデザインから影響を受け、編集され、新たなデザインが生まれていくものだが、何かのようなものではなく、敬意をもって参照していきたい。
(2024年7月11日更新)
|