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神が潜むデザイン


第34回:「散歩と観察」/藤田佳子


「神は細部に宿る」と言いますが、本コラムでは、デザイナーがこれまでに「神」を感じた作品を紹介していただくとともに、ご自身のこだわりを語っていただきます。リレーコラムですので、執筆者には次の方にバトンを渡していただきます。




Designer FILE 34

藤田佳子(ふじたかこ):アートディレクター、デザイナー。1984年広島生まれ。2011年東京藝術大学大学院美術研究科デザイン専攻修了。同年サン・アド入社。主な仕事に、東京駅グランスタ「ふくらむちゃん」、おさんぽBINGO、サントリー山崎蒸溜所、サントリー「水と生きる」新聞広告、香林居など。2021年ADC賞受賞、2023年JAGDA賞、JAGDA新人賞受賞。
Instagram:@kako_fujita


●古き良き建築

電車をおりて1駅分歩いたり、旅行先の知らない街を歩くのが好きだ。その散歩の中でとりわけ楽しみにしているのは、昭和の時代、おそらく高度経済成長期以降に建てられたとみられる建築に出合うこと。なんとも言えない独特な配色、角Rのサッシ、過剰な装飾のある建物も分かりやすく魅力的だが、社会主義的な気配のする集合住宅のどこか禁欲的なフォルム、悪くいえば地味な佇まいにも、ディテールを追うと、出窓が三角形になっていたり、張り巡らされたタイルは細かく塗り分けられていたりと、設計者の意図を感じる。あってもなくても建物としては成立するかもしれない意匠、広く誰かに向けられたものではない、個の美的感覚や造形をあそぶ豊かさみたいなものに潤いを感じて嬉しくなる。


角Rのサッシ、一部に石が埋め込まれたファサード。(クリックで拡大)

三角形の出窓。(クリックで拡大)

●こぼれ落ちるもの

今の時代の建物はどこか効率的で、ノイズを必要としない一般社会の声に必死に耳を傾けている印象だ。ツルツルした建材や精度の高いフェイクの木目にも、合理性や機能性が前面化してみえて冷めた印象を受け取ってしまう。技術が結集した素材は企業の努力あってのもので、洗練された空間であることは間違いないし、それも豊かな生活を実現するために生まれたものだと理解する。しかしどこか似たり寄ったりしていて、価値観があまりに均一化され過ぎてしまっているのではないか。一般大衆やその他大勢の「世論」の共感に向かおうとする時、分かりやすさや安全、経済性や強さを追い求めて、情報は淘汰され、デザインはそれを補完するための2次的なものとされる。その間にこぼれ落ちてしまうものに私は関心を払ってみたい。

●価値と文脈

建築に限った話ではないが、現代社会に即した新しい価値観を提示したり、これまでにない表現を生むことはデザインに求められていることだ。一方で、もう二度と作ることのできない、もう二度と手に入らないものの価値も尊重したいし、先人がそこに託した何かを受け取ることで、さらなる解釈の拡がりを楽しみたい。もちろん単なる懐古主義ではつまらない。そのままなぞるように再現するのではなく、潜在的にある特性を発掘して自由気ままに押し進めてみたい。歴史、文化を重んじ継承する……とまで大きなものを語りたいわけではないけれど、そうした過去の文脈の延長線上にも、新鮮に映る景色を作り出せるのではないか。


●視点を転換する


ある時、前述したようなフェイクの木目が貼られている壁に出合った。きわめて写真的に表現されたその壁紙の反復を繰り返す没個性的なパターンを目にした時、偽物であることをむしろ堂々と認めているようで新しく目に映った。それはおそらく制作者の意図とは異なる受け取りかもしれないが、街中に無作為に出現したそれの鮮やかな印象は、昭和期の個性的な建物に出合った時とある意味同質な、ものの見方に訴えてくるものがあった。時代とともに自身の捉え方や物差しもまた変わっていくことで、個人の美意識もまた更新される。無造作に貼り付けられた木目が私には潤って見えた。


フェイクの木目が貼られている壁。(クリックで拡大)
 



(2024年3
月28日更新)

 

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