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神が潜むデザイン


第28回:「時とデザイン」/関戸貴美子


「神は細部に宿る」と言いますが、本コラムでは、デザイナーがこれまでに「神」を感じた作品を紹介していただくとともに、ご自身のこだわりを語っていただきます。リレーコラムですので、執筆者には次の方にバトンを渡していただきます。




Designer FILE 28

関戸貴美子(せきどきみこ):アートディレクター。1988年サンフランシスコ生まれ。2010年多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒。グラフィック、商品、空間、体験のアートディレクションを通じて、ブランドの理念や本質を可視化した強いコミュニケーションデザインを目指している。主な仕事に「Zespriキウイブラザーズ」「JINS時をかける、メガネ。」「Netflixリラックマとカオルさん」「大塚製薬ion water」「KIRIN氷結」など。主な受賞歴にNYADC、D&AD、ONE SHOWなど。主な審査員歴にCannes Lions、ONE SHOW、SpikesAsia、ACCなど。
https://enokingdom.com/
Instagram:@kimiko_sekido


●普遍的で根源的な人間の感情や行動

自分に影響を与えた作品は数えきれないが、心に浮かぶ3つの出会いをあげてみる。

1つ目は、手塚治虫と藤子・F・不二雄。

テレビをあまり見ない家だった。幼少期は「ブラックジャック」「火の鳥」「ドラえもん」「藤子・F・不二雄のSF短編集」をくり返し読んでいた。本も星新一、ジョージ・オーウェルなどSF小説が好きだった。

空想的な設定が好きだったというより、こういう状況になったら、こういう行動をとってしまうかもな、こういう感情になる人が多いだろうなという、普遍的で根源的な人間の感情や行動を客観的に描くための仕組みとしてSFものに惹かれていた。

当時ふれた、手塚治虫が描いた人間に対する諦めと期待の眼差しは、年を重ねた今、ますます自分の中で存在感を放っている


手塚治虫「ブラック・ジャック1」(秋田書店)と藤子・F・ 不二雄「ドラえもん (1)」(小学館)
 

●時間をこえるデザイン

2つ目は、永井裕明さんのカンパリの原稿。

ほぼ記憶にはない数年間の海外生活を経て、物心ついた頃に家にあったものは、家の外ではあまり見かけないアメリカンな雰囲気の写真や紙やイラストが使われた絵本や雑誌。と、同時に圧倒的なクラフトとストーリーを感じる日本のグラフィックデザインの年鑑も本棚に並んでいた。

あらためて考えるとかなり文化が違う2種類のものが同居している環境だった。


家にあった絵本やサーカスのプログラム。
 

ポスターという情報を伝えるためのグラフィックデザインでありながら、リアルタイムで見ていない自分がここまで圧倒されるほどに、時間に耐えうる熱量を1枚のポスターに込められるんだということを日本のグラフィックデザインから学びました。

その中でも鮮烈に覚えているのが、永井裕明さんと眞木準さんのカンパリの原稿。これはイラスト? 文字? 写真? 赤ってこんなに綺麗な色だったんだ! どんなテーブルにグラスが並んで、どんな人が飲むんだろう? と小さな図版だったが、引き込まれた。

その後永井さんの個展で初めて現物を見て、平面的なイラストの中に現れるMのグラスの中の氷の写真表現とゴールドのインクが色気のある立体感に、一層引き込まれた。


永井裕明さんによる「CAMPARO 2000」ポスター。(クリックで拡大)http://www.nginc.jp/graphics/campari-2000/
 

●時代×デザイン

長めの入院が続いて暇を持て余していた小学生時代、病棟の1階にあるコンビニと本屋がリフレッシュできる場所だった。あてもなくぼーっと店内を回って出会った大貫卓也さんのYonda?とペプシマンが3つ目です。

ペプシマン自体のCMやグラフィックも好きだったが、一番記憶に残っているのは、ペプシマンがいないお化けの形のボトルキャップ。蓄光素材で、お化けの部分を剥ぐとペプシコーラのボトルが出てくる仕掛け。
それと、新潮文庫Yonda?の栞。白黒の活字の世界にこんな鮮やかな栞とは! まんまと本を読み漁り、応募条件の三角形の新潮文庫マークを切ってはいろいろな景品を手に入れた。

家の本棚にあるものだと思っていたワクワクするデザインたちが、いま自分のいるコンビニや本屋にあって、友人や家族も知っている。人の生活時間とデザインが組み合わさった時に生まれるパワーを感じた瞬間だった。


「Yonda?」のマグカップ。(クリックで拡大)
 

●自分の仕事

幼少期の時間に耐えうる考え方やデザインと、時代性を帯びたデザインの両方に魅せられた3つの出会いが、いまの自分の活動につながっている。

刹那的な仕事はしたくない。けどデザインを高級品にもしたくない。
プロモーショナルな活動をしても、それをより高く跳躍することのできる強度のあるデザインが、結果として時間に耐えうる柔軟性を備える存在になっていくのだと考えるようになった。

デザインを意識しないで生活している世間の大半の人たちの心を動かしたり、誰かの宝物になるデザインを作れないだろうか……そう思いながら仕事をしています。


「ゼスプリKiwi Brothers」。(クリックで拡大)

「JINS時をかける、メガネ」。(クリックで拡大)


広告電通賞「walk,walk,」。(クリックで拡大)
 



(2023年9
月6日更新)

 

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