●普通という魅力
私は、広告代理店に所属しており、ポスターや新聞広告、ロゴ、サイン、冊子、ユニフォームデザインなどグラフィックを中心とした制作を続けています。
感動したデザインをあげたらキリがなく、いろいろな作品に刺激を受けてきましたが、年齢を重ねるにつれ、好きなデザインが変わってきたなと思います。
20代の頃は、奇抜なデザイン、強いデザイン、新しいアイデア、デザイナーの個性が際立っている作品に魅力を感じ、自分の個性ってなんだろう…と悩んでいました(今でも悩んでいますが…)。
最近は、奇を衒わない、普通のデザインにすごく魅力を感じます。普通というと語弊があるかもしれません。デザインの技やデザイナーの個性を押し出すのではなく、主役を立てるデザイン。普通のレイアウトに見えるけれど読みやすい、理解しやすいデザイン。でもそこにはしっかりとプロの技が施されている。デザインはあくまでその主役を立たせるための技、情報を的確に伝えるための技であり、デザイナーは表に出るのではなく、奥で息を潜めてしっかりと主役を支えている。そういったデザインに魅力を感じます。
普通を極限まで追求して緻密に計算された神の領域のようなデザインを目指す、ということはもちろん理想ですが、私が魅力的に感じる普通のデザインは完成度が大事という訳ではないような気がしています。
一歩引いて相手を立てる、縁の下の力持ちのようなデザイン。強い意志や信念を持って、あえてそこを目指しているデザインはまるで職人のような寡黙さを感じ、とても魅力的に映ります。奥ゆかしさや誠実さがあり、日本人らしいデザインなのかもしれません。
●柚木沙弥郎の展示ポスター
昨年末、柚木沙弥郎さんの展示を見に日本民藝館に足を運んだのですが、そこで見た告知ポスターになぜか強く感動を覚えました。文字組みの精度やレイアウトの完成度といった技術的なことではなく、情報をシンプルにしっかりと伝え、デザイナーの存在をまったく感じさせないデザインだったことに感動を覚えたのだと思います。主役は柚木沙弥郎さんの作品であり、展示内容を分かりやすく伝えるための文字組み、レイアウト。もしかしたらそれを意識して制作されたのではないかもしれませんが、とても魅力的に映り、こういう仕事がしたい、と思いました。
日本民藝館で見かけた柚木沙弥郎の展示ポスター。(クリックで拡大) |
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デザインは性格が出ると思います。それは仕上がった作品が派手であったり地味であったり、表現自体に性格が出るという意味もありますが、気の強さ、弱さ、押しの強さ、弱さ、慎重さ、大胆さ、など、人それぞれの性格があり、他者との関わりの中で性格が表現に出てくるという意味です。
外向的な人は、他者を巻き込み、大きなプロジェクトとして勢いのあるクリエイティブを生むかもしれません。内向的な人は、コツコツと机に向かい黙々と取り組むことで、すごく緻密なデザインを生むかもしれません。デザインという仕事は、一人で制作作業をするだけではなく、必ず他者との関わり合いが生じるので、その関わり合いを通してさまざまな影響や刺激を受け、仕上がるデザインに反映されていくのだと思います。
「普通」のデザインに感動を覚えるようになったのは、私の性格なのかもしれません。昔、私をよく知る知人から、「奇を衒わずに。真面目に誠実に作るのが良いよ」と言われたことがあります。当時はピンときていませんでしたが、今考えると自分のことをよく理解してくれているありがたい助言だったなと感じます。
本当に普通ばかりを追ってしまうとつまらなくなっていってしまいますので、愛嬌やチャーミングさを意識しながら、魅力的な「普通」を目指して、誠実に、全力で、真面目に製作し続けていきたいなと思います。また歳を重ねると感じ方は変わるかもしれませんが…。
「日付だけのカレンダー」。(クリックで拡大) |
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「備前焼作家とのコラボレーション」。(クリックで拡大) |
(2023年7月14日更新)
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