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神が潜むデザイン


第20回:神が潜む空間。/ 香取有美


「神は細部に宿る」と言いますが、本コラムでは、デザイナーがこれまでに「神」を感じた作品を紹介していただくとともに、ご自身のこだわりを語っていただきます。リレーコラムですので、執筆者には次の方にバトンを渡していただきます。



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香取有美(かとりゆみ):グラフィックデザイナー/アートディレクター。1990年東京生まれ。2014年多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。同年MR_DESIGN入社。ADC賞、ADC制作者賞、ONE SHOW金賞、D&AD GRAPHITE PENCIL受賞。

●高松から豊島美術館へ

実は先日、初めて豊島美術館に行きました。恥ずかしながら今まで行ったことがなく、ここ最近で一番感動した出来事でしたので、今回豊島美術館について(あまりにも有名すぎますが)書かせていただこうと思います。

このコラムのお話をいただいた時、ちょうど出張で香川にいました。せっかくこのような機会をいただいたので、周りから「とにかく凄い!」と聞いていた豊島美術館に行ってみることにしました。

高松からフェリーに乗ること35分、到着した港からバスで15分。見晴らしの良いバス停から海を横目に歩いていると見えてくる美術館は、存在感があるにも関わらず、その場所に広がる空気と自然に馴染んでいることに驚きました。正直言って行きやすい場所とは言えないのですが、またその遠さが良い。遠目でも見た瞬間に「ここまで来てよかった」と思わせてくれるこの美術館はとにかく凄い。

瀬戸内海を眺めながらぐるっと道を歩いて白い有機的なラインの建物に入ると、なんだかお寺や大聖堂に入った時のような、空気感が変わる感じがありました。天井に空いた2つの大きな穴からは空と森が見えて、風を感じ、足元には水滴が生き物のように流れている。

床がすこし冷んやりしている感じがまた心地良い。外が晴れなら、中も晴れ。外が雨なら、中も雨。壁によって閉ざされたものでなく、展示自体が島と一体化した美術館。想像を遥かに超える空間でした。ずっと見ていたくなるものってありますよね。同じ表情のない空間は、まさに永遠に見ていられる。

※豊島美術館の公式サイト。建築家、西沢立衛氏による建物の外観やアーティスト内藤礼氏による「母型」を見ることができる。
https://benesse-artsite.jp/art/teshima-artmuseum.html


●豊島の全体がアート


豊島という島は、昔から湧き水に恵まれた、名前の通りの「豊かな島」だそうです。建物内部に展示されている内藤礼による作品「母型」はまさに、その豊かな湧き水をイメージしたのかと思います。水の動きからは、生命の誕生のような感動(ちょっと大げさですが)とその儚さも感じます。内藤礼さんは本当に自然の一部を作っているイメージだったのかな、と考えてみたり。もしかしたら柱も壁もない自由曲線で統一された建物自体も、島から湧いた水滴をイメージしているのかも、と思ったり。

敷地内の植採はすべて豊島に自生する雑草だそうです。そういう話を聞くと、さらに豊島の自然に徹底している拘りを感じます。まさに建築とアートと自然の調和で、豊島という島自体を表現している。

美術館での体験ももちろんですが、道中も豊島美術館の魅力の1つなのかな、と、この文章を書きながら思いました。最初に「遠さが良い」と言いましたが、フェリーに乗って、島について、瀬戸内海や自然をゆっくり眺めながら1つのアートを見る。この一連の流れが、贅沢で忘れられない経験になりました。豊島美術館の建築家、西澤立衛さんは、きっと良い旅の思い出になるように設計したのかもしれないです。

建築やアートから学ぶことは多いです。豊島美術館に行ったことのない人は、ぜひ行ってみてください。何かヒントがあること間違いなしです。



次回は土井遼太さんの予定です。
(2022年6月6日更新)

 

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